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七宝職人に聞いた!七宝焼の魅力と有名産地ごとの違い

七宝職人に聞いた!七宝焼の魅力と有名産地ごとの違い
Journal編集長
Journal編集長

今回は、日本の七宝焼の本流である尾張七宝の窯元『加藤七宝製作所』さんにお伺いして、七宝焼きならではの魅力と有名産地ごとの違いなどについて教えて頂こうと思います。

愛知県の名古屋城近くに位置する『加藤七宝製作所』は、尾張七宝の製造・販売を手掛ける工房です。

地下鉄鶴舞線「庄内通駅」から徒歩7分、車なら名古屋高速清須線「庄内通出口」より3分の場所にあります。

分業制が多い尾張七宝を一貫して製造・販売する加藤七宝製作所では、幅広いアイテムづくりが可能です。

ネックレスや帯留めなど小さなものから壺や飾り皿などの大きなものまで、小ロット多品種が魅力。

レアものに出会えるかもしれませんね。

「古き良きを知り新しきを生む、魅力ある作品を発信する」加藤七宝製作所の三代目七宝職人、加藤芳朗さんにお話を伺います。

BECOSがおすすめする加藤七宝製作所がつくる七宝焼

  • 職人が一つひとつ手作業で作る逸品
  • 宝石のような美しい輝き
  • 普段から使える身近なアイタムが多数

そもそも七宝とは

七宝焼が日本の伝統的工芸品なのは、なんとなく知ってはいるけれど、七宝焼きの『七宝』は何なのかと聞かれるとわからない方も多いのではないでしょうか。

『七宝』の意味

七宝焼きの語源となっている”七宝”とは、仏経典に記されている「金・銀・瑠璃(るり)・瑪瑙(めのう)・真珠(まいえ)・玖瑰(まいかい)・蝦蛄(しゃこ)」七つの宝石を意味しています。

七宝に負けない美しさをもつ焼き物が七宝焼であり、七宝焼きと名づけられたのは、桃山時代前後だと言われています。

七宝焼きの歴史は古く、日本だけのものではありません。西洋や中国には紀元前から七宝が存在しています。

世界最古の七宝焼はツタンカーメン王の黄金マスクが代表的です。その後、日本に七宝焼きがやってきたのは6~7世紀ごろ。

奈良の正倉院には裏面に七宝が施された鏡※が保管されています。

※黄金瑠璃細背十二稜鏡:(おうごんるりでんはいのじゅうにりょうきょう)直径18.5cm程度の銀星の鏡。

背面に31のパーツに分けた金胎七宝が貼り付けてある。

七宝焼には4つの技法がある

ざっくり言うと金属表面にガラス質の釉薬を乗せて焼き付けてつくるのが七宝焼ですが、窯元や作家によって技法は違います。

主に以下4つの技法が使われています。

  • 無線(むせん)七宝:表面に金属線を使わない技法(かつては有線をしたのち取り除く技法だった)
  • 有線(ゆうせん)七宝:銀・胴などの金属線を使う技法
  • 象嵌(ぞうがん)七宝:素地に文様のくぼみをつくり釉薬を焼き付ける技法(ヨーロッパなどに多い)
  • 省胎(しょうたい)七宝:最終工程で素地の金属を溶かして取り除いた七宝(プリカジュール)

この記事で紹介する加藤七宝製作所では、銀線を使った有線七宝を得意とされています。

無線七宝に比べて高い技術が必要とされる有線七宝は、熟練の技がなければ美しい作品をつくり出すことができません。

金属の素地の上に、扁平な形の銀の針金を輪郭線に沿って貼り付けて行き、その中に釉薬をさし分ける有線七宝の技法は、習得するまでに10年以上もかかると言われています。

産地ごとの違いは

七宝焼きは産地によって作品に違いがあります。

尾張七宝(愛知県)・東京七宝・平戸七宝(長崎七宝)・京七宝(京都でつくられた七宝遺跡)などがありますが、現在も七宝焼き製品を作り続けている尾張七宝(おわりしっぽう)と東京七宝について解説します。

尾張七宝

加藤七宝製作所「9寸丸 天平文草花 飾皿」

尾張七宝は、愛知県あま市七宝町および名古屋市一帯(清須市など)でつくられる七宝焼きのことで、桜や梅、胡蝶蘭などの花柄、風景や双鶴など華やかな図柄が特徴です。

銀線を使った繊細な技法にこだわってつくられ、美術品としてかなり高額なものも製造しています。

東京七宝

東京七宝
東京都産業労働局より引用

東京七宝は関東・東京都の地域ブランドであり、台東区・荒川区・北区でつくられる七宝焼です。

専用の型に釉薬を流し込んで量産化できるタイプの七宝焼が主流で、価格もカジュアルになっています。

さらに東京七宝の場合、尾張七宝も取り扱うような総合的に七宝商品を展開する大手メーカーも含まれています。

加藤七宝製作所のような窯元だけでなく、個人がつくる”作家もの”と呼ばれる作品は、産地に限らず全国で数多くつくられています。

30~40年前には、美術の授業の一環として七宝体験キットなどを使った製作が行われていました。

七宝は手が届かない高級品ばかりではなく、そのようにして身近な存在でもあったんですね。

尾張七宝の特徴

尾張七宝は天保年間(1830~1844年)尾張国※の梶常吉がオランダ船により輸入された七宝の皿を手掛かりにその製法を発見し、改良を加えたのが始まりとされています。

平成7年4月5日には、経済産業省指定の伝統的工芸品として国から認定されました。

七宝焼の中で国から正式に認められているのは尾張七宝だけです。

加藤七宝製作所の二代目加藤勝己さんは、2010年に尾張七宝業界初の伝統工芸士に認定されました。2018年には3代目の芳朗さんも伝統工芸士に認定され、親子2代で認定されている業界唯一の窯元でもあります。

※:現在の愛知県西半部

尾張七宝に使われる釉薬の特徴

尾張七宝に使われている釉薬のなかでも、透明釉七宝の赤透(あかすけ)と呼ばれるルビーのような透明感のある赤が代表的。

赤透けの原型は明治時代からあるそうです。赤透のこの赤が日本の七宝を世に知らしめたと言っても過言ではありません。

透明釉には青透・緑透・紫透などもあり、素地の金属の素材感が生かされた透明感ある作品になります。

使われる釉薬の種類によって透明度が変わり、透け(透明)・玉(ぎょく、半透明)・乳色(不透明)に分けられますが、工程がより煩雑になるため透けや玉(半透明)の技法を行っているところは今では少なくなりました。

複雑な工程で量産化できないので美術工芸品が得意

尾張七宝は東京七宝に比べ、作品が出来上がるまでの工程が多いのが特徴です。

基本的には以下6つの工程を経てつくられます。

  1. 素地をつくる:銅板や銀板を形成する
  2. 絵付けをする:素地の表面に墨で絵を描く
  3. 銀線を立てる:金属をテープ状にしたものが使われる(模様の輪郭線となる)
  4. 施釉(せゆう):釉薬(色)をさし分けて行く工程
  5. 焼成:釉薬を施すたび必要な工程で平均7~8回焼く
  6. 研磨:焼き上がった七宝の凹凸をなくすために削って磨く

とくに3番の『銀線を立てる』工程は欠かせません。

量産化できず価格を下げることができないため、だんだん行われなくなっている工程です。詳しく製作工程について見ていきたいと思います。

1 素地をつくる:銅板や銀板を形成する

素地の成形には、作品の形状などに合わせてヘラ絞りや金型を使ったプレスなど様々な方法にてつくられます。

素材は、成形のしやすさなどを考え、銅や銀が使われることが多いです。

2 絵付けをする:素地の表面に墨で絵を描く

素地の球面に墨で模様を書いていきます。全体のイメージを把握するための重要な工程です。

3 銀線を立てる:金属をテープ状にしたものが使われる

純銀製の線を墨で書いた模様に沿って一つひとつ丁寧にピンセットで立てていきます。この工程は、尾張七宝の最大の特徴で、非常に繊細で緻密な作業です。

見ているだけで、恐ろしく手間のかかる作業だということがわかりますね。

4 施釉(せゆう):釉薬(色)をさし分けて行く工程

純銀製の線が置かれた中に、色をつける工程です。七宝で使われる釉薬は色ガラスを砂のようにしたもので、それに水やのりを加えてさしていきます。

「塗る」というよりも「さす」という感覚だそうです。あの、七宝焼の美しい輝きはガラスの美しさなんですね。

5 焼成:釉薬を施すたび必要な工程で平均7~8回焼く

尾張七宝でつくられる、有線七宝の場合少なくとも7回は焼成の工程があります。立体作品の場合、回数が増えると釉薬の層が厚くなり、下に溜まりやすくなり厚みのバランスを保つのが難しくなります。

最悪の場合、割れてしまうといった場合もあるので、細心の注意を払って作業をします。

6 研磨:焼き上がった七宝の凹凸をなくすために削って磨く

仕上げと言える工程が、本研磨です。シャープで艶のある表面に仕上げるために、非常に細かなダイヤモンドペーパーを用いて研磨していきます。研磨することで輪郭線の銀線も研ぎ出され質感が極まります。

通常6つある尾張七宝の工程一つ一つの中には、さらに10以上の工程が含まれるため、合計で100工程を越えるものもあります。

そのため尾張七宝には実用品が少なく、ペンダント、帯留めなどのアクセサリー、壺や飾り皿など美術工芸品としての立ち位置になっているのです。

加藤七宝製作所の歴史

加藤七宝製作所は創業70年以上になる尾張七宝の窯元であり、製造販売もしている昔ながらの雰囲気が素敵な工房です。

創業者である加藤亮三が魅せられた、赤透(あかすけ)を始めとする尾張七宝の技術・経験・設備を二代目、三代目に着実に受け継いでいます。

今回お話を伺った加藤芳朗さんは三代目になって15年あまりですが、卸業だけでなく小売りで直接お客様との距離を縮めるための時代に合わせたビジネスを模索中です。

ホームページの立ち上げやネイリストとコラボしたネイルアート素材の商品化、クラウドファンディング※への進出、大学講師など新しい風を取り込みながら活躍の場を広げています。

加藤七宝製作所が積み重ねてきた歴史をしっかりと受け継ぎながら、現代の生活にふさわしい七宝焼きの形を模索しつづけているんですね。

※ネイリストが考える工芸職人応援プロジェクトにて参加

プロジェクトの詳細はこちら

加藤七宝製作所だからこその技術

希少で高級な芸術作品を多く取り扱う加藤七宝製作所ですが、ほかにない作品を生み出せる理由には、複雑な『技術と工程』があります。

加藤七宝製作所ならではの技術は、絵の輪郭を決める作業である植線(しょくせん)と、施釉(せゆう)と呼ばれる釉薬をかける作業工程へのこだわりから生まれます。

加藤さんは話します。

銀線を立てる工程をとっぱらってしまえば楽ですが、決して手は抜きません。その後の施釉(せゆう)も同じ。焼成(しょうせい)※だけでも7回くりかえします。総製作時間50時間の作品もありましたが、そのうち半分の25時間も銀線を立てる植線(しょくせん)の工程に使っています。

絵の輪郭を決める銀線を立てる工程は、もっとも技術レベルの差が生まれやすい部分。

プロである加藤さんが見れば、一目で作品のレベルがわかってしまうそうです。

薄利多売型の量産型七宝が溢れていている現代は、同時に七宝焼き本来の工程や技術も失われつつある危機的状況なのです。

だけど、本物の七宝職人が作り上げる「今、ここ」でしか手に入らない作品が加藤七宝製作所にはあります。

国内トップの技術を是非、店頭でもチェックしてみてくださいね。

※:原料を分解・硬度強化・色調を整える目的で原料や半製品を加熱すること

加藤七宝製作所が生み出すアイテム

加藤七宝製作所では、尾張七宝の技術を活かして、様々な七宝製品を製作しています。

宇宙シリーズ

花瓶のカテゴリの中で特に注目して欲しいのが『宇宙』シリーズです。

赤透(あかすけ)による「陽」、深みのある紺色を使った「宙」、緑色の「水」の三色展開で花瓶の中に閉じ込められた宇宙を表現しています。

何層にも重ねることで醸し出される「透け」による深みのある色は、まさに小さな宇宙。

複雑で多彩な尾張七宝ならではの奥深い色彩が楽しめます。

省胎七宝(しょうたいしっぽう)

特別作品の中でも別格の高級品が省胎七宝です。二代目加藤勝己さんが全キャリアをかけて、不定期でつくり上げます。

他を圧倒する美しい透光性を生かしたランプが主な作品。幻の技法とも言われるほど技術的に超高度なため途絶えるギリギリのところまで来ていたそうですが、2年近くの歳月をかけ独自の安定的な技法を確立することに成功したそうです。

高い精度を誇る技術だけでなく、若い頃に学んだ日本画の技術も美術品としての七宝製作に生かされています。

アクセサリー

毎日身に着けられる尾張七宝と言えばアクセサリーですよね。加藤七宝製作所が生み出すペンダントやペンダントマーカー、帯締めなどは見ているだけでもワクワクするような美しい色と輝きが特徴です。

花瓶などの高級品とほぼ同じ工程で作られているそうで、小さな世界に極上の美しさと作り手の想いが込められています。

和風な柄や幾何学的なモダン柄から選べます。伝統工芸品ってちょっと敷居が高いな…と感じられる方は、さりげなく付けられるネックレスから始めてみてはいかがでしょうか。

 

BECOSがおすすめする加藤七宝製作所がつくる七宝焼

  • 職人が一つひとつ手作業で作る逸品
  • 宝石のような美しい輝き
  • 普段から使える身近なアイタムが多数

まとめ

加藤七宝製作所の三代目七宝職人、加藤芳朗さんに七宝焼きの魅力や産地ごとの違い、自社の歴史、製品の特徴などについて伺いました。

今回のインタビューでは、後継者不足やコロナウイルスによる商売そのものの危機が迫りくるこの時代、愚直に丁寧な作業を続ける伝統工芸士の情熱を受け取れたと感じています。

七宝焼キットや2~3000円クラスの安価なアクセサリーなど、手ごろな商品も沢山あるなか、100近くもの工程を経てつくる加藤七宝製作所が生み出すアイテムは世界が違います。

七宝焼きの中でも経済産業省指定の伝統的工芸品として国から認定されている、尾張七宝の魅力に触れてみませんか?そろそろ一生ものを使ってみたいという方もぜひ、尾張七宝をチェックしてみてくださいね。

Written by 赤津 陽一

竹細工職人の祖父を持ち、幼少より伝統工芸やものづくりの現場を見て育つ。日本のものづくりの現状を変えたいとの思いから、BECOS(ベコス)の立ち上げに参画。全国の職人やメーカーに対して取材や撮影、インタビューを行い自分の足で情報を集め、読者へ届けることにこだわっている。

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