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1000年以上の歴史を持つ伝統工芸「天明鋳物」が直面する4つのリアル

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松本
ライター松本

こんにちは!学生ライターの松本です!突然ですが、伝統工芸の職人さんが抱える課題の多さをご存知ですか?僕は正直、なんとなく後継者が足りないことぐらいしか認識していませんでした。

そこで先日、職人さんのリアルな現場をこの目で見てみたいと思って、栃木県佐野市の天明鋳物(てんみょういもの)を作る鋳金作家・鋳物師(いもじ)の正田忠雄さんにお話を伺いました。

正田さんのつくる作品を見たい方はこちら

  • 1000年続く天明鋳物
  • 鈍く輝く独特の銀色
  • 一つ一つ、全く違った表情を見せる逸品

 

正田忠雄さんと奥様

実際に行ってみると、見るからに凄い職人さんが居そうな建物に興奮しちゃいました!

ここは正田さんの工房で、自然を身近に感じることができる素晴らしい工房でした。

今回は、僕が正田さんに聞いたモノづくりのリアルな現状をお伝えしたいと思います!

っとその前に、まずは天明鋳物と正田忠雄さんの紹介です。

1000年以上の歴史を持つ天明鋳物とは

天明鋳物とは、現在の佐野市周辺で平安中期から始まり、1000年以上の歴史を持っている伝統工芸品です。

天明鋳物の最盛期は江戸時代中期と言われ、その工房数は70軒以上、職人さんの数は1000人を超えていたそうです!!

佐野市の中だけでそこまで栄えているのはすごいことですよね。

以前の正田一族の工房にはこんなに職人さんが居たんです!

しかし今では残っている工房の数はたったの4軒。

正田忠雄さんはそんな絶滅危惧種とも言える天明鋳物の鋳物師さんの一人。

正田忠雄さんについて

正田忠雄さんは、なんと祖先はあの藤原鎌足を祖先とする公家「藤原氏」の子孫である藤原秀郷に佐野の地で鋳物を営むために集められた鋳物師の初期メンバーで、正田一族は文字通り1000年の歴史を持つとんでもなくすごい人なんです!!

正田さんは1947年生まれで現在、日本工芸会の正会員として活動しています。

伝統工芸日本金工展文化庁長官賞や伝統工芸日本金工展の日本工芸会賞を受賞するような素晴らしい工芸品をたくさん生み出している方です。

中田英寿さんが訪れた様子 にほんものより引用

また、過去には元サッカー選手の中田英寿さんが工房を訪れ天明鋳物の歴史や、作り方などを説明したり、中田さんが天明鋳物に興味を持たれて制作工程の一部を体験されたりしたそうです。

正田さんの作品のこだわりは、銅3、銀1の配分によって生み出される朧銀(おぼろぎん)という合金を使うことだそうです。

朧銀で作られた作品たちは、丁寧に磨き上げると、光の角度や持ち主の使い方によって全く違った表情を見せてくれることが特徴的で、見ていて飽きないのも魅力です。

写真の作品は「微風」という作品で、香炉として使います。

正田さんの作品はどれも品が高く、滑らかで美しい曲線と、シャープなボディの使い分けが素晴らしい作品ばかりです。

鋳物の図案を考えている様子

鋳物づくりは、とても手間のかかる工程を踏まなければいけません。納得のいく作品が1年に1つできればいいと正田さんはおっしゃっていました。

そんな奥が深い鋳物の製造工程を簡単に紹介します。

まず、図案を考えその図案と同じ立体物を石膏で作ります。この石膏原型は完成品の形に直結するので重要な工程です。

正田さん曰く、原型を作って壊す繰り返しの中で納得する石膏原型ができるそうです。

この原型の上に、紙土と呼ばれる和紙の繊維が入った土をかぶせて外型と呼ばれる部分を型どります。この紙土は、同じものを何度も使い続けることで柔らかくて使いやすい土に変化していくそうです。

外型が出来上がると、表型と裏型を作って合わせ、鋳型を作ります。ここに金属を流し込みます。

型をばらして、できたものを仕上げて、丹精込めて磨きあげると、初めて正田さんの作品が出来上がります。

どうですか?ここまでで鋳物の作業の複雑さと正田さんの凄さをなんとなくわかっていただけましたか?

実際、この繊細で体力を使う工程を一人で行うと、一つの作品に相当時間がかかるものなんです!だからこそ職人さんの作る一点モノは価値があり魅力的なのですね。

さて、朝から取材していたので気づけばお昼。

かなりお腹が空きました。

お昼ご飯とかどうしようかなあ。台所から良い匂いがするなあ。

なんて考えながら客間に戻ると、奥さんが昼食を用意してくれていました!

肉味噌おにぎりときのこたっぷりのお味噌汁、かぶら寿司までいただきました!

奥さん特製のさる味噌めちゃくちゃ美味しかったです!

デザートに出てきたりんごまでしっかりいただきました。

すっかり正田さんのお二人の人柄の良さに癒されて、取材そっちのけで満足していると、正田さんは日本人の感性についてこんなお話をしてくれました。

「私は今の日本は取り返しがつかないくらい社会が痩せていると思っているんです。今は便利な世の中で、お金さえあれば空腹は満たせるけど、日本人は何か違う心を豊かにするお金の使い方を見つけていかなければならない。この風潮にどう楔を打つかは、若い職人が育っていかないといけないと思っているんですよ。」

社会が痩せている。聞きなれない言葉に一瞬戸惑いましたが、正田さんの言うことはその通りだと思いました。

現在、正田さんをはじめ、個人で活動している職人さんの多くは跡継ぎがおらず、弟子を取ることも厳しい状況の方が多いとも話しをしてくれました。

このままでは本当に熱い志を持った職人さんは減っていき、佐野の1000年の歴史にも幕が降りてしまいます。

正田一族の中興の祖「正田利右衛門」について書かれた書物

なぜ佐野市で鋳物を営む70軒もあった工房が4軒に減り、1000年続く歴史の存続が危ぶまれるようになってしまったのでしょうか?

伝統工芸「天明鋳物」を受け継ぐ正田さんが直面する4つのリアル

正田さんは僕たちに工芸品に対する想いや職人さんの現状を熱く語ってくれました。

そのなかで僕なりにまとめた4つのポイントを解説しながらモノづくりの「リアル」をみなさんにお届けします!

作品を売ることが難しくなってきている

 

ここで言う作品がを売るのが難しいと言うのは、正田さんの作品が悪いわけでは全くないです!

むしろ知ってもらいたいのは、1000年の歴史を持つ素晴らしい作品ですら売れないという現状です。

ではなぜこんなに美しい作品たちが売れないのでしょうか?

そこには2つの理由がありました。

需要の低迷

今や安くて手に入りやすい家具や食器がどこでも買える時代です。

職人さんの作る美しくて高価な作品はもちろん素晴らしいですが、それを買える財力を持っている人や、欲しいと思う人が減っているというのはみなさんも容易に想像がつくと思います。

作品を買える場所が少ない

もう一つは作品を買える場所が少なすぎるということです。

僕は、買い物をするときはほとんどAmazonや楽天などのネットショッピングを使っています。

今や洋服など実際に試着してみないとわからないような商品ですら、ZOZOのようなサイトで買えちゃいますし、家具や食器やアクセサリーはおおよそネットショッピングで済んじゃいますよね。

そんな時代に、工房や展示会に足を運ばないと買えない伝統工芸品は現代のニーズにミスマッチしちゃっているのだと思います。

こんなにインスタ映えする素晴らしい作品がネットに上がっていないのは勿体無く感じちゃいます。

人間国宝ですら食っていくのが難しい!?

正田さんは、人間国宝が多数在籍している日本工芸会の正会員です。

皆さんは人間国宝と言ったらどんな人を想像しますか?

僕は、人間国宝というと、その専門分野では神様的な存在で、なんでも知っている重鎮のイメージです。

さらに作品を一つ作るとみんなが欲しがって飛ぶように売れるようなイメージを持っていました。

しかし現実は全くそんなことはなく、作家として生きていけるのはごく僅かだそうです。

百貨店などで個展を開く場合でも、出展費用を負担しなければならないことが多く、地方の職人にとっては大きな重荷になっているとのことでした。

正田さん自身も、昔は応援してくれているファンが買い支えてくれていたそうですが、そういったファンの方も亡くなってしまったり減ってしまったそうです。

さらには、正田さんが自信を持って作った作品達も、買ってくれた人が亡くなって手放したりして、価値がわからない人のもとへ安く出回ってしまったそうで、「あの気に入っている作品は今どこにあるのかなあ」ととても悲しい顔をしていました。

職人仕事の魅力の一つでもある、「丹精込めて作った作品は自分が死んでも残り続ける」といった喜びが失われてしまうのは切ないことですよね。

職人さんになかなかスポットライトが当たらない

人間国宝ですら苦労している現状があるのであれば、他の職人さんはどうなっちゃうと思いますか?

「美術館に置いてあってもおかしくない作品を作る職人にスポットライトが当たらない。野にありて我が道を行く人の中でも素晴らしい作品を作る方はたくさんいます。しかしながら、そのような方が注目されることは少ない。とても残念です。」

と正田さんは熱く語ってくれました。

長い修行を経て伝統的な技術を身につけた職人さんの作品がもっと多くの人の目に留まり評価されるような社会になってほしいですね。

自分の納得する美しい作品が出来上がってもなかなか注目されないのは、もし自分が職人だったらなかなか高いモチベーションを持ち続けて作品を作るのは難しいです。

安心して後継者を育てられない(弟子を取れない)

今までの3つの問題点を踏まえて、一番問題になってくるのが後継者不足の問題なんです!後継者不足問題には様々な要因が絡んでます。

ですが一番の理由を一言で言います。

作品を売ることが難しくなってきている。

やっぱりこれに限ると思います。

若い人が積極的にモノづくりの世界に参入しようと思える魅力的な世界ではないのだと思います。

モノづくり自体が好きな人でも、現実的な話をすれば、仕事にするからにはやはりしっかりと稼ぎたいと誰もが思うでしょう。

もちろんモノづくりに従事する人は、お金以上にやりがいを重視している人が多いと思いますが、それはやってみて実感することだと思います。

今の生活をやめて弟子入りするにはやはり心のハードルが高い世界です。

正田さんのもとにも、昔弟子志願の女性が来たことがあると語ってくれました。

しかし、正田さんは職人の現状を丁寧に説明し、ご飯を食べていけるのが難しい世界だから辞めなさいと伝えたそうです。

正田さんの年齢は72歳。

正田利右衛門から1000年続く正田家の後継者は居ないのです。

他には、教えられる技術を持つ職人自体が減ってきているということも要因の一つだと思います。

職人の高齢化や、儲からないので職人としての生き方を辞める人も少なくないそうで、職人人口の減少が止まらないそうです。

伝統工芸品の世界は今、後継者を育てる余裕がないのだと感じました。

僕からの質問

これらを踏まえて質問です。

今まで上げた課題を職人さんはどうやって解決しているのでしょう?

難しい問題ですよね。

答えは「時代のニーズに合わせながら作品づくりを奮闘している」でした!

職人さんの多くは、作りたい作品と時代のニーズに合わせることに苦労しています。

作りたい作品を作るのをやめて売れる商品だけを作ればいいのではないか?と思う方もいると思います。

しかし売れる商品だけを作り続けることは、伝統工芸品の品格や魅力、職人としての品格を落としかねないのです。

そんな悩みを抱えながら、正田さんは今、私たちがもっと日常に金属製品を取り入れやすいようにと、新しい挑戦をしています!!

正田さんの新しい挑戦

正田さんは今、錫でのお皿づくりをしています。

なぜ金属の中から錫を選んだのでしょうか。

そこには私が知らなかった錫の素晴らしい性質がたくさんありました。

まず、錫の特徴として柔らかいことが挙げられます。落としたり負荷をかけると簡単に曲がってしまいますが、逆に言えば欠けたり形が変わってしまってもすぐに直すことができ、丁寧に使えば一生使えるのです。

錫には抗菌作用が含まれていて食卓で安心して使えるのも嬉しい特徴です。

そして金属製の食器でやはり気になるのはサビですよね。錫はサビに強くて美しい光沢を保ち続けます。長い間使い込むことで、光沢は落ち着きますが、革製品のような深い味わいが生まれ、飽きないのです。

また、金属特有の血のようなサビのような鉄分の匂いが全くしないことも魅力です。それどころか、錫の香りはフルーティーで、料理の香りをより引き立たせてくれます。

これらの性質を持つ錫で作られるお皿は、私たちの食卓に溶け込み、さらに毎日の食生活を彩ってくれる欠かせないパーツになること間違いないです。

私は正田さんの作ったお皿を実際に使ってみたのですが、漬物やおにぎり、洋菓子など、何を乗せても、そのものを引き立たせてくれて食卓全体に高級感を演出してくれました。

正直、お皿の材質一つでここまで変わるとは全く想像もしてなかったので感動してずっと手に持ったままお話を聞いてました。

そして正田さんの挑戦は錫のお皿づくりだけではありません。正田さんはこの錫のお皿を、自身が全く未知の分野であるネットショッピングに掲載しようと決心し、今回私達にお話を下さりました。72歳で、今まで挑戦してこなかった分野に挑戦する野心を持ってる正田さん、とてもかっこいいですよね。

この魅力的すぎる錫のお皿は、BECOSで販売していますので、是非みなさんご覧ください!

さいごに

私たちは職人さんのモノづくりをどういった形で支えることができるのでしょうか?

私は、職人さんの作る美しい作品を正しく評価し、贈り物を送る時に買ってみたり、SNSにアップしてみたりなどの小さな行動が職人さんの職人寿命を伸ばすことに繋がってくると考えています。

みんなが支えれば、正田さんのような素晴らしい職人さんは、より時間をかけて一つの作品を作れたり、新しいアイデアを試すことができたりすることができます。

つまり伝統工芸の秘めている可能性が今よりさらに広がるのです!

僕はそんな職人さんの顔が見てみたいです!

だから僕に今できることは色々なモノづくり現場を見て体感したことをお伝えしていくことだと思っていますので、今後も頑張っていきますね!

正田忠雄さん、奥さんの佐代子さん取材協力ありがとうございました!

正田さんのつくる作品を見たい方はこちら

  • 1000年続く天明鋳物
  • 鈍く輝く独特の銀色
  • 一つ一つ、全く違った表情を見せる逸品

Written by 松本 祐太郎

1998年、千葉県生まれ。武蔵大学社会学部メディア社会学科に在学中。腕時計や財布など、身に付けるものに強いこだわりがあり、それが日本でつくられたものばかりだと気づいたことで、日本の工芸品をもっと勉強し、職人さんのものづくりへのこだわりを取材したいと思いからBECOSJournalのライターに志願。学業のかたわら執筆を行っている。

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