江戸和竿とは
江戸和竿(えどわさお)とは、東京都を中心とした関東地方でつくられている天然竹の釣り竿です。この釣り竿は「江戸」とついていますが、生産地によるものではなく、江戸和竿の職人から技術を継承している継ぎ竿のことをいいます。
江戸和竿は釣り人の趣向や釣る魚の種類、場所、漁法などにより、竹の種類や製造工程を変えて制作されます。それは二つと同じものはなく、考察や試行を繰り返した熟練の技から生み出されるたまものです。1991年に経済産業大臣より国の伝統的工芸品として指定されました。
釣り好きの武士「東作」が発祥 江戸和竿の歴史
江戸和竿の歴史は、江戸時代後期1783年に初代「泰地屋 東作(たいちや とうさく)」が上野広徳寺前に釣り竿店を開業したことに始まりました。もともと紀州徳川家の江戸詰めの武士だった東作は、釣り好きが高じて自分でも釣り竿をつくるようになり、店を構えるほどになったのです。東作の釣り竿は、上質で量がも豊富だったこともあり、飛ぶように売れていきました。
当時、江戸城の前の海には多種多様の魚介が住んでいました。滋味豊かな隅田川と多摩川が流れ込むことにより、江戸前に豊かな漁場をつくっていたのです。春にはフナ、アオギス、初夏はアユ、チヌ、秋のハゼ、ボラ、冬にはタナゴ。季節によってちがう獲物をねらう江戸の釣り人にとって、魚の種類ごとにちがう異なる材質や手法で製造される江戸和竿は、人気の的でした。
江戸和竿は竿師の研鑽のおかげで、実用品として優れているだけでなく、芸術品としても評価が高いものとなりました。明治時代から昭和初期には全盛期となり、弟子がたくさん生まれましたが、カーボン竿の登場で竹竿の需要が減ったことや、後継者不足から多くの工房が姿を消していきました。現在は、江戸和竿協同組合として手を携えながら、技術を代々引き継いでいます。
原竹の質が竿の品質に直結する江戸和竿の特徴
江戸和竿は、まさにオーダーメイドといえます。フナ竿、ハゼ竿、キス竿、タナゴ竿など魚種によって材料や工程を変えるのです。また竿師は、釣る魚の種類だけでなく、場所、釣り方、竿の好みなどの話を釣り人に聞いてから、どのような竿をつくるか考察してつくっていきます。
そもそも竹の釣り竿には、1本の竹をそのままつかう「延べ竿」と数種類の竹を継ぎ合わせてつくる「継ぎ竿」があります。江戸和竿は「継ぎ竿」の方で、ヤダケ、ホテイチク、ハチク、コウヤチク、マルブシ、マダケなど10種類以上の竹からえらんで組み合わせます。1本の竿をつくるのに、なんと15本の竹を継いでできあがるものもあるのです。
竿師は、まず竹林に足を運び、竹の選別から始めます。節の善し悪しは、美しさと同時に力のむらが出ない竿の強さにも関わるのです。節の形が正円に近く、一列に並んでいる均整のとれた美しい竹は、数千本のうち1本くらいの割合でしか見つかりません。節、形、強度、風合いを見定めて採取してきた竹は、皮をはぎ、油を抜いて天日で3カ月ほど乾かします。
つぎは魚の種類や漁場、釣り方によって、竿の原型を決めていく「切り組み」の作業。竿の設計図ともいえる「切り組み」は、もっとも重要で熟練の技が必要です。どの竹をえらぶか、長さはどれくらいにするか、継ぎ口、収納する寸法、調子などを考えて、緻密に組み合わせていきます。
切り組みが終わると、竹を炭火で加熱します。染み出してきた油を拭き取りながら、しっかりと火を通し、曲がりを矯正するのです。こうすることで、より強い竹になっていきます。それぞれ性質のちがう竹を均一な硬さにするのも、難易度が高い作業です。
その後、太さのちがう竹を継ぐために各部分を削ったり、整えたり、絹糸で補強をしながら漆を塗って仕上げていきます。それぞれに不具合が出ないように、緻密な計算が必要なのです。
創意工夫の江戸和竿の現代とお手入れ方法
竿師の知恵と工夫がつまった唯一無二の江戸和竿は、しなりや強さといった実用性だけでなく美術品としても優れており、現代も愛好家が多数います。長い1本の竿を継ぎ目から分解していくと、ステッキになったり、キセルになったりという細工が仕掛けてあるものも。オーダーメイドならではの技術に数年待ちのファンがいるのです。
今ではカーボンやガラス繊維の材質の釣り竿が主流ですが、江戸和竿は天然の竹を継いでできています。つかっていれば、当然手入れが必要になってくるでしょう。使用後には水気をよく拭き取り、陰干しで乾燥させます。海釣りの後はぬらして固くしぼった手ぬぐいなどで塩気を完全に拭き取りましょう。乾いたら木綿の布で一方向へとから拭きをしていきます。収納する前にごく少量の植物性油をすりこむとさらによいでしょう。収納場所は温度差が生じない、通気性のよいところをえらぶことも大切です。
江戸和竿の見学・体験ができる場所
江東区中川船番所資料館
所在地 | 所在地東京都江東区大島9-1-15 |
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電話番号 | 03-3636-9091 |
定休日 | 月曜日(月曜日が祝日及び振替休日の時はその翌日)、年末年始 |
営業時間 | 9:30~17:00(入館16:30まで) |
HP | https://www.kcf.or.jp/nakagawa/ |
備考 | 備考大人・高校生 200円 小・中学生 50円 |
(株)銀座東作
所在地 | 東京都港区浜松町1-17-8 |
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電話番号 | 03-6459-0216 |
定休日 | 日曜・祝日の営業はお問い合わせください |
営業時間 | 平日 10:00~19:00/土曜日 10:00~18:00 |
HP | http://ginzatosaku.co.jp/ |
備考 | 見学は相談可 |