江戸節句人形とは
江戸節句人形(えどせっくにんぎょう)とは、東京都で生産されている人形です。衣装を着せ付けることができる「江戸衣装着人形(えどいしょうぎにんぎょう)」と、精巧に作られた甲冑の模型である「江戸甲冑(えどかっちゅう)」を総称して、江戸節句人形と呼びます。
2007年には、伝統的な技術や技法によって作られていることから、経済産業大臣より国の伝統的工芸品に指定されました。
次郎左衛門雛からはじまる江戸節句人形の歴史
江戸節句人形の起源は1760年代、徳川家治の時代に、京都から江戸にやって来た「次郎左衛門雛(じろうざえもんびな)」であるといわれています。
それまで、江戸では「享保雛(きょうほびな)」という雛人形が主流となっていましたが、大型で装飾も豪華な享保雛は、ぜいたく品として庶民からは敬遠されていました。
一方、次郎左衛門雛は小型で家の中に飾りやすく、雰囲気も庶民的だったため、江戸の庶民に広く受け入れられるようになったのです。
江戸節句人形は、小型であること、写実的な雰囲気であることという、次郎左衛門雛の特徴を色濃く受け継いでいます。
写実性が持ち味の江戸節句人形の特徴
江戸節句人形の特徴は、写実的で精巧な作りにあります。もともとは屋外に飾られていた人形を室内に飾るために小型化したものですが、その写実的な風合いを残しているために、部屋に置いていても存在感があるのです。
特に江戸甲冑は、甲冑に天然の革や絹糸、木材、紙や鉄、銅を使ったものもあり、まるで本物の甲冑をそのまま小さくしたかのような雰囲気となっています。本物の甲冑の作り方に基づいて作られているため、その精巧さにも説得力があるのです。
また、江戸衣装着人形も、写実的な風合いと、実際に衣装を着込んでいるという特徴から、本物の人間のような可憐さや可愛らしさがあります。
そんな江戸衣装着人形ですが、これも多くの工程を経て作られるものです。江戸衣装着人形の製造工程は、まず頭(かしら)作りから。
現代では、雛人形や五月人形などの頭を作る時は石膏を使うのが主流となっていますが、江戸衣装着人形の頭を作る方法は3つあります。
その3つの方法とは、
1.桐 の木くずである桐粉(きりこ)と正麩糊(しょうぶのり)を混ぜて作った桐塑(とうそ)という粘土を使う「生地押し」、
2.焼くと白くなる白雲土という土を頭の形にして焼き上げる「素焼き」
3.木を頭の形に彫って作る「木彫り」
です。
「生地押し」では、顔の部分と後頭部の部分、それぞれの形になっている窯に油を塗り、桐塑を中心が空洞になるようにして詰めます。この桐塑をよく乾燥させた後、ヤスリで形を整え、2つのパーツを合体させるのです。
桐塑で作った頭、または木彫りで作った頭は、貝殻から作られた白い顔料である胡粉(こふん)を使って「地塗り」を行い、乾燥させます。
乾燥したら、更に胡粉を塗っていき、その後に口と鼻を盛り上げる「置き上げ」という作業を行います。置き上げを行った後は、小刀を使って口と鼻の形を整えていき、地塗りよりも濃く胡粉を塗る「中塗り」という作業を行い、乾燥させます。
乾燥したら、水で湿らせた布で顔をふき、胡粉のムラをなくしていきます。そのあと、表情を彫り上げ、ハケを使って胡粉をムラなく塗布。ここまできたら、いよいよ人形の顔に表情を描いていく作業です。
人形の目の部分に切り込みを入れ、そこに眼の部品をはめ込みます。更に、眉毛や髪の生え際を、墨を使って筆で描いていき、最後に口元に紅をさします。
表情が描き終わったら、今度は髪の毛の植毛です。小刀で切り込みを入れて溝を作り、そこに黒く染めた絹糸を糊付けしていきます。植毛が完了したら、ようやく頭の完成です。
次に胴の部分を作っていくのですが、正麩糊を混ぜた桐塑を、頭と同じように胴の前部分と後ろ部分に分かれた窯の中に詰めていきます。
桐塑を詰めた窯を合体させ、窯からはみ出た桐塑は取り除きます。その後、窯を外すと、キレイに胴の形ができているのです。
胴の形ができたら、頭と同じように胡粉を塗っていきます。胡粉に、動物の皮や骨で作られたタンパク質である膠(にかわ)を混ぜ合わせ、胴に塗っていきます。
胡粉を塗ったらよく乾燥させ、次に行われるのが、服を着せるための溝を彫っていく「筋彫り」という作業。筋彫りが終わったら、人形に衣装を着せ付けていきます。最後に、筋彫りでできた溝に、ヘラを使って布の端を溝に押し込んでいけば、着付けの完了です。
着付けが完了することで、江戸衣装着人形はようやく完成となります。このように、江戸衣装着人形を1体作るだけでも、数多くの工程が必要となります。しかし、職人の手によって慎重に、ていねいに作られていくからこそ、江戸衣装着人形も、江戸甲冑も、一つとして同じもののない、唯一無二の人形となるのです。
江戸節句人形の現代での使われ方とお手入れ方法
江戸節句人形、つまり江戸衣装着人形と江戸甲冑は現代でも、多くのシーンで使われているものです。江戸衣装着人形は、雛祭りや端午の節句に飾られる雛人形や五月人形、市松人形、風俗人形などとして使われます。江戸甲冑は、甲冑という勇ましいモチーフであることから、五月人形として飾られます。
そんな江戸節句人形ですが、一つ一つが職人の手によって作られた繊細な人形であるため、大切に取り扱ってあげる必要があるのです。
まず、江戸節句人形は油分や汚れがつきやすいため、なるべく手で直接触れないようにして飾ってください。ホコリがついてしまった場合は、やわらかい筆や羽ばたきでやさしくホコリを取り除きます。
江戸節句人形の見学・体験ができる場所
幸一光
所在地 | 東京都足立区栗原2-4-6 |
---|---|
電話番号 | 03-3884-3884 |
定休日 | 土曜日、日曜日 |
営業時間 | 9:00~17:00 |
HP | http://www.koikko.com/ |
備考 | 6月~10月末まで見学、体験が可能です。 |
株式会社 鈴甲子
所在地 | 千葉県鎌ヶ谷市中佐津間2-11-16 |
---|---|
電話番号 | 047-445-5533 |
定休日 | 土曜日、日曜日 |
営業時間 | 9:00~17:00 |
HP | https://suzukine.com/ |
備考 | 江戸甲冑の販売を行っています。 |