江戸硝子とは
江戸硝子(えどがらす)は、東京都、千葉県を中心とした周辺地域で製造しているガラスの工芸品です。江戸時代に外国から伝わった製法と日本の技術がかけ合わさって誕生。すべてを手作業で1点ずつていねいに製造しており、ニーズに合わせて多種多様な製品をつくりあげます。2014年に経済産業大臣より国の伝統的工芸品に指定されました。
大陸文化と伝統の融合からうまれた江戸硝子の歴史
日本におけるガラスの誕生は、弥生時代にさかのぼります。古墳の出土品のなかに、ガラス製の勾玉(まがたま)や管玉(くだたま)が存在。大陸からガラス製造が伝わっていたことがわかります。しかしその技法は一度、途絶えてしまいました。
硝子の製造は、江戸時代に交流のあった中国・ポルトガル・オランダから長崎へ技法が伝わったとされています。硝子のことを各国の言葉で「瑠璃・はり・ビードロ・ギヤマン」などと呼んでいました。その後、大阪、京都へと伝えられた硝子の製造技術は、やがて江戸の地場産業へと成長していきます。
庶民文化が花開いた江戸時代には、日本橋の加賀屋久兵衛(かがやきゅうべえ)が鏡や眼鏡を、浅草の上総屋留三郎(かずさやとめさぶろう)がかんざし、風鈴、万華鏡などをつくって大衆向けに販売しました。なかでも加賀屋は、江戸切子の技法を生みだしたといわれています。江戸時代後期にはこれが薩摩へと伝わって、薩摩切子が誕生しました。
1858年、日本とアメリカの間に日米修好通商条約が結ばれて、横浜港や数か所が開港されると、一気にガラスの製造技術も発展をとげました。加賀屋や上総屋は、石油ランプの普及により、ランプのガラス部分を製造するようになります。
大型製品の需要が増えた1873年、民営のガラス工場「品川興業社」が発足。1876年には国が買い上げて、官営「品川硝子製造所 」となりました。江戸硝子の職人やイギリスの技術者が招かれて、板ガラスの製造を目指します。板ガラスは当時の技術では大変難しかったようで、採算がとれずに経営が立ち行かなくなってしまいました。民間に払い下げられて、「品川硝子会社」となってからは、ドイツ人の技術者を雇い入れ、薬瓶やビール瓶などを製造。キリンビールの前進であるジャパン・ブルワリーに大量納入することに成功しました。1892年に幕を閉じるまで、日本のガラス産業に大きな発展をもたらしたできごとです。
その後、関東大震災や第二次世界大戦の空襲により、多くの硝子工場が被災しましたが、のちに復興して江戸硝子の伝統を今に伝えています。
クールさとあたたかみが共存する江戸硝子の特徴とは
江戸硝子の特徴は、すべてを手作業でひとつひとつ製造していることです。大量生産のものと違って、それぞれが味わい深く、手ざわりや口あたりがなめらか。それでいて薄くシャープで、その品質の高さは世界からも評価を得ています。また視覚的にも楽しませてくれるものが多く、お土産や贈り物としても喜ばれています。
江戸硝子の製造工程は、まず珪砂・ソーダ灰・石灰・炭酸カリ・酸化鉛などの材料を溶かすことから始まります。これらは江戸時代からずっと使用されている材料です。高温で溶かして水あめのようになった「硝子種(がらすだね)」をとり出して、成型していきます。高温で繊細なためタイミングが難しく、熟練の技が必要です。
成形の方法 はおもに3つあります。「押型成形」は、型に雄と雌があり、「種まき竿」に巻き取ってから、型で上下をはさんで成形します。「宙吹き成形」は、種を「吹き竿」に巻き取って、空中でまわしながらハシ等の道具で形を調整。吹きガラスのように竿を吹いて、温めながら形成するやり方です。「型吹き成形」は、木型や金型などの型にガラスを流して成形します。竿を吹いて息を送り込むのは宙吹き成形と一緒ですが、最後に型に入れて成形するのが特徴です。
ガラスは成形した直後は高温なので、そのまま冷ますと割れてしまいます。徐冷窯(じょれいがま)という温度をゆっくり下げていく窯に入れて冷ましていきます。薄いものだと1時間半、厚いもので半日以上、徐冷窯に入れることで、耐久性に優れた製品になるのです。
江戸硝子の現代とお手入れ方法
現代も江戸硝子は伝統を守り続けており、幅広い年齢層や海外からも人気を集めています。普及のために職人展やガラス市などが定期的におこなわれています。
ガラス食器のお手入れ方法を紹介します。ガラスは急激な温度変化に弱いため、冷たいものや熱いものを入れると割れることがあります。熱湯や電子レンジの使用は避けてください。衝撃に弱いため、優しく置くようにしましょう。フォーク等をグラスに入れると、表面が傷つき破損しやすくなります。硬いものやガラス同士での接触にも気をつけてください。積み重ねると、破損したり、外れなくなったりすることがあるのでなるべく避けて保管してください。もし積み重ねる場合は、ガラスの間に柔らかい布をはさむと安心です。
洗うときは柔らかいスポンジで手洗いしてください。衝撃に弱く傷つきやすいので、ほかの食器とは分けて洗うことをおすすめします。食洗機や乾燥機の使用は避けてください。洗った後は、クロスやふきんの上に逆さに置いて水気を切り、水滴を拭き取りましょう。水気には水あかやカルシウムが含まれるため、くもりや汚れの原因になります。
江戸硝子の見学・体験ができる場所
東部硝子工業会
所在地 | 東京都墨田区両国4-36-6 |
---|---|
電話番号 | 03-3631-4181 |
定休日 | ― |
営業時間 | 9:00~17:00 |
HP | http://www.tobu-glass.or.jp/ |
備考 | 見学・体験・職人展・ガラス市などの情報あり |
廣田硝子株式会社 すみだ和ガラス館
所在地 | 東京都墨田区錦糸2-6-5 |
---|---|
電話番号 | 03-3623-4145 |
定休日 | 日・月・祭日及び夏季・年末年始 |
営業時間 | 11:00~17:00 |
HP | https://hirota-glass.co.jp/sumida-waglasskan/ |
備考 | 展示・体験・販売あり |