江戸押絵とは
江戸押絵は東京都墨田区、江東区、葛飾区を中心に作られる工芸品です。布に綿をくるみ、それを板などの台紙に貼ることで立体的な絵を作成する技法で、特に羽子板が有名です。
毎年新聞やニュースでも報道される、その年の顔となった話題の人を題材に作られた「変わり羽子板」も江戸押絵の技術を使って作られています。
特に年末に立つ浅草の歳の市(としのいち)ではたくさんの江戸押絵羽子板が販売され、年の瀬の華やかさに色を添えています。
異色のコラボが生んだ華やかな江戸押絵の歴史
江戸押絵は江戸時代に誕生しますが、押絵自体の歴史は平安時代にまでさかのぼります。屏風やふすまの貼り絵がもととなり、そこから宮中の女官たちの間で端切れを用いて人形を作る、香箱を飾るなどの形で押絵の技法が生まれました。その後も細々と手芸として親しまれていた押絵ですが、江戸時代には布に綿をくるんで立体的な絵を作るという技術が発達。
その後、江戸時代後期の1800年頃になると江戸の町人文化が花開き、歌舞伎の人気が爆発的に高まります。その人気に引っ張られる形で、歌舞伎を題材にした浮世絵や黄表紙などがたくさん出版されました。
正月の縁起物である羽子板も、松竹梅の絵柄から役者絵が起用されるようになります。羽子板は、毎年の年末に立つ歳の市で出品される商品のひとつでした。
これまでの羽子板に手芸のひとつであった押絵の技術が合わさり、立体的に役者絵を再現した江戸押絵羽子板が誕生。この役者羽子板は大人気となり、年の瀬になると人々が歳の市が行われる境内に詰めかけ、自分の気に入りの歌舞伎役者が描かれた羽子板を買い求めるようになります。その人気ぶりはすさまじく、当時は江戸押絵羽子板の売れ行きで役者の人気が測られるほどでした。
江戸押絵は、羽子板と押絵という別々の道をたどっていた2つが合わさって生み出された工芸品です。その技術は現代まで継承され、2019年11月に国の伝統的工芸品に指定されました。
匠の緻密な作業が作る華やかさ、江戸押絵の特徴
江戸押絵の特徴はなんといってもその華やかさ。立体的に作られた人物は土台から飛び出すようで、描かれた人物が身につけている飾りひとつひとつは繊細に作り込まれています。この華やかさは、熟練の職人の緻密な作業の積み重ねにより作り出されているのです。
江戸押絵の工程は大きく分けて3つ。押絵作りと面相描き、そして組み上げです。押絵作りは、まず下絵を描き、型を作るところから始まります。下絵の段階から立体にすることを念頭に置いた設計が必要です。型を作成した後はそれに合わせて使う布を裁断。ここでも、中に綿を入れることを想定して布を切り出します。60センチメートル程の高さの羽子板を製作する場合で50個以上のパーツが使われ、そのすべてを型紙に合わせてひとつひとつ切り抜いていきます。また、きれいに綿をくるむため、型の周りののりしろ部分にも、丁寧にぐるりと一周切れ込みを入れることが必要です。
すべてのパーツの切り出しが終われば、次は綿を入れる作業です。型紙と布の間に綿を入れ、糊をつけてコテで圧着。ふっくらした仕上がりになるよう気をつけながら、パーツを作っていきます。そして、完成したパーツを和紙で当て紙をしながら重ね、組み上げていきます。ここでようやく押絵作りの工程の終了です。
押絵作りが終われば次は面相描き。顔の部分にはカキの殻を粉にした白い胡粉(こふん)を塗り、表面を滑らかに整えてから、目・鼻・口などの部位を描き込んでいきます。この作業には日本画で使われる面相筆が使われます。表情の仕上がりは羽子板の完成度に大いに関わるため、熟練の腕が必要です。また、髪の部分は束ねた絹糸を少量ずつ植え込み作っていきます。ほかにも着物の柄や小物などの描き込みも、この段階で行います。
面相描きの後は最後の組み上げ作業です。組み上げ、彩色されたパーツを土台に取り付けるため、表面から釘打ちを行います。これでようやく江戸押絵の完成です。華やかで躍動感あふれる江戸押絵は、このように職人たちの手間ひまをかけた繊細な作業により生み出されているのです。
職人たちの努力は作業だけにとどまらず、デザインにも及びます。実は、江戸押絵のデザインは、人物に合わせて着物の着方や色柄の取り合わせ、髪型などが細かく決まっています。人物の名前にちなんだ着物の柄や、年齢に合わせた髪型・髪色などが使用されているため、モデルになっている演目や人物を知ったうえで鑑賞すると、一味違った視点から江戸押絵を知ることが可能です。
江戸押絵の現代での使われ方
江戸押絵の代表的な商品は羽子板です。江戸押絵羽子板は正月の縁起物というだけでなく、女の子の健やかな成長を願う祝いの品とされ、出産祝いや出産後初めての新年の贈り物に選ばれることもあります。
また現代では、羽子板以外にも額装やうちわも生産。その華やかなデザインは海外の人からも人気があり、外国人に喜ばれる日本土産として知られています。
江戸押絵の見学・体験ができる場所
産業観光プラザ すみだ まち処
所在地 | 東京都墨田区押上1-1-2 |
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電話番号 | 03-6796-6341 |
定休日 | 不定休 |
営業時間 | 10:00~21:00 |
HP | https://machidokoro.com/ |
備考 | 週替りで伝統工芸実演のため、要日程確認 |
江戸押絵羽子板 むさしや豊山
所在地 | 東京都墨田区石原1-28-3 |
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電話番号 | 03-3622-0262 |
定休日 | 不定休 |
営業時間 | 10:00~18:00 |
HP | https://hagoita.co.jp/ |
備考 | 羽子板の面相、手、小道具などの描色の見学 |