越中和紙とは
越中和紙とは、富山県内で作られる3つの和紙の総称。富山市の「八尾和紙」(やつおわし)、南砺市の「五箇山和紙」(ごかやまわし)、下新川郡朝日町の「蛭谷紙」(びるだんがみ)のことをいいます。
雪国の風土を生かし手作業で作られる越中和紙は、非常に丈夫で独特の温かい質感を持っています。また、伝統的な古典和紙だけでなく、現代に馴染む和紙や加工品を積極的に開発し、新たな和紙の魅力を生み出しています。
「富山の薬売り」を支えた越中和紙の歴史
越中和紙の歴史は極めて長く、1200年前の奈良時代の古文書「正倉院文書」には「越中国紙」と記されているほど。平安時代の「延喜式」には納税品として和紙が記録され、越中和紙が重宝されたことが分かります。その後も、寺や役所などの記録用紙、障子や襖などの材料として利用されていました。
越中和紙の中でも、八尾和紙は江戸時代1688年~1704年に生産が大変盛んになります。きっかけは富山藩2代藩主の前田正甫(まえだまさとし)によって売薬が奨励されたことでした。それにより、八尾和紙は記録紙や障子紙から、「富山の薬売り」が使用するための和紙へ変わったのです。
新たな使い方は、薬包紙(やくほうし)や顧客名簿である懸場帳(かけばちょう)、薬売りが持つかばんの素材。高い耐久性が求められ、独自の技術が急速に発展しました。また、草木染や顔料染めの染色技術も発展。江戸後期1865年に富山市内の紙商が出した「新出紙御値段仕法之控」には、数種類の染紙の名が記されています。
五箇山和紙は、世界文化遺産「五箇山合掌造り集落」で知られる地域で作られる和紙。1500年代後半には加賀藩の初代藩主前田利家へ和紙を献上した記録が残っています。その後、藩の手厚い保護のもと、良質な和紙を作る技術が発展した五箇山和紙。1870年の廃藩置県まで、藩札や御料紙、献上紙として使用されていました。
蛭谷紙は、約400年前に滋賀県東近江市の蛭谷から移住した人々が伝承した和紙。約300年前には和紙が地域の主要産物であったと記録されています。昭和初期には、地域のほとんどの家が和紙生産に携わり、その数は約120軒にも上りました。しかし、1953年に起きた大火によって後継者が激減。現在は幻の和紙ともいわれています。
明治時代になると、全国的に和紙の製造は急速に衰えました。原因は生活様式の変化や機械で大量生産される洋紙が安価に出回ったこと。和紙の需要は縮小し生産地も減っていきます。そのような中でも、越中和紙に携わる人々は伝統の継承、新たな製品の開発や後継者の育成を続けました。
1984年、八尾和紙、五箇山和紙、蛭谷紙は、その伝統と技術が評価され、「越中和紙」として国の伝統的工芸品に指定されました。現在では、生活用品から芸術品まで幅広く使われ、人々の生活を癒す存在となっています。
耐久性を追及した越中和紙の特徴
雪国の自然を活かし手作業で作られている越中和紙。その特徴は3つの産地の和紙ごとに異なります。
八尾和紙は落葉低木の楮(こうぞ)や三椏(みつまた)、雁皮(がんぴ)の皮などが原料。「富山の薬売り」のバッグに使用されたほど、丈夫で水に強く濡れても破れにくい和紙です。その特徴を活かし「型染め」という和紙に柄や模様を刷り込む独自の技法が行われています。
「型染め」で作られた色や柄は大胆で鮮やか。印刷では出せない独特の風合いが印象的です。また、使うほどに艶が出て柔らかな質感に変化することも魅力のひとつです。
五箇山和紙の主な原料は、豊かな雪解け水で育まれた自家栽培の楮。和紙の用途によっては楮の皮を紫外線で漂白する「雪さらし」を行います。楮の繊維は強く長く、五箇山和紙はこの楮の配合量が高く非常に丈夫です。
そのほか、三椏を配合した細工や印刷に適した和紙、雁皮を配合した記録用紙や銅版画の用紙など、さまざまな和紙製品が作られています。
蛭谷紙は、自家栽培の楮を原料とした和紙。優れた保存性と高い耐久性、強靭でありながら柔らかな質感を持っています。また、原料を育てる作業から完成まで、全ての工程を一人の職人が行っていることも蛭谷紙の特徴です。
越中和紙の現代での使われ方とお手入れ方法
越中和紙は現在、生活用品から芸術品まで幅広く使われています。
八尾和紙は丈夫さと「型染め」の技術を活かし、小銭入れなどの和紙小物やクッションカバーなど、デザイン性の高い製品に使われることが多いです。
五箇山和紙は、桂離宮や国指定重要文化財の古文書の修復に使用。また、原料を調整して障子や書道用紙、日本画の用紙や手紙、カードケースなど、100種類以上の製品を作り出しています。
蛭谷紙は、はがきなどの生活用品や、美術館の壁紙として大規模な建物の内装にも使用されています。
越中和紙は水に強い特徴を持つ製品も多く作られています。しかし、長く愛用するために、湿気の少ない乾燥した場所での保管をおすすめします。
また、色が付いた和紙は日光や蛍光灯で色が薄れることがあります。色の変化は風合いとして魅力的ですが、変色を防ぐ場合は直接光の当たらない場所に置きましょう。
お手入れは柔らかな布で優しく拭いてください。なお、水拭きはシミになることがあるため避けましょう。水に濡れた場合は、早めに水分を拭きとり乾燥させてください。
越中和紙の見学・体験ができる場所
道の駅たいら「五箇山和紙の里」
所在地 | 富山県南砺市東中江215 |
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電話番号 | 0763-66-2403 |
定休日 | 12月29日〜1月3日 |
営業時間 | 9:00〜17:00(体験9:00〜17:00) |
HP | https://gokayama-washinosato.com/ |
備考 | 手すき和紙体験(700円~)、見学、販売コーナーあり |
桂樹舎・和紙文庫
所在地 | 富山県富山市八尾町鏡町668-4 |
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電話番号 | 076-455-1184 |
定休日 |
桂樹舎 土曜・日曜・祝日 |
営業時間 | 10:00~17:00(入館16:30まで) |
HP | https://keijusha.com/ |
備考 |
桂樹舎:紙すき体験 700円 ※事前にお申し込みください。 |