因州和紙とは
因州和紙(いんしゅうわし)とは、かつて因幡国(いなばのくに)であった鳥取県東部で作られる和紙。現在の主な産地は鳥取市青谷町と佐治町です。
東京浅草「雷門」の大提灯や首相官邸の壁紙にも使われている因州和紙。その伝統と高い技術が認められ国の「伝統的工芸品」に指定されています。
独特の温かみと美しさを兼ね備え、現在は書道や日本画に使用する画仙紙や、建材や工芸材料など、幅広く使われています。
新たな技術を取り入れ発展した因州和紙の歴史
長い歴史を持つ因幡和紙。古くは約1200年前、奈良時代の「正倉院文書」の中に因州和紙が発見されています。また、平安時代の法制書「延喜式」には、因州和紙が朝廷に献上されたと記されています。
江戸前期の1600年頃、当時の藩主亀井茲矩(かめい これのり)は和紙産業を奨励しました。茲矩が出した命令「領地で切らざる木(切ってはならない木)、11種」には和紙の原料の楮(こうぞ)、雁皮(がんぴ)が含まれました。
因州和紙は藩の御用紙や実用品として、また朱印船貿易によって海外へ輸出されるなど、幅広く使用されました。
明治時代になると、鳥取県が和紙産業を振興。和紙の原料である三椏(みつまた)の殖産が奨励されました。また、新たな紙の漂白技術や生産方法を導入し、因州和紙の生産は向上しました。
戦後、大量生産が可能な洋紙が出回ったことや生活様式の変化から和紙の需要が激減。それまで主力であった事務用和紙や障子紙は大きな打撃を受けます。
1950年代、因州和紙は高い技術で染め上げた染色紙や、画仙紙(書道や日本画の紙)など、和紙の特性を活かした和紙製品の開発と生産に注力。その結果、因州和紙の画仙紙は書道に適した優秀な紙として人気を博します。
1975年、因州和紙はその伝統と高い技術が認められ、国の「伝統的工芸品」として認定を受けました。和紙部門では全国の産地の中で初の認定でした。また、1996年には因州和紙の紙すきの風景と音が環境庁(現・環境省)の「日本の音風景100選」に選定されました。
伝統の技を基に新しい技術を取り入れてきた因州和紙。その独特の繊細で美しい風合いは、今も多くの人々を魅了しています。
妥協しない職人の技が光る因州和紙の特徴
熟練した職人によって作り出される因州和紙。その特徴は、天然の繊維による温かさとしなやかさ。酸化しにくく強いため実用性にも優れています。
因州和紙の主な原料は和紙の三大原料である楮、雁皮、三椏。それに加え、藁(わら)、茅(かや)、竹、木材パルプなどを巧妙に配合し、豊富な種類の和紙を作り出しています。
因州和紙の中でも大変人気がある「画仙紙」。書道や日本画などに使用する和紙で、生産量は国内トップクラスです。書き心地が滑らかで筆が悪くならず、墨がかすれず長持ちするため「因州筆切れず」といわれています。
因州和紙は新たな技術や技法の採用も盛んに行っています。人の手による「手漉き(てすき)」に加え、近年では「機械漉き」を導入。手すきに劣らない和紙の製造を目指し、職人によって日々研究が行われています。
また、和紙を立体で漉く「立体漉き」の製法を世界で初めて確立。継ぎ目がなく滑らかで多様な形の和紙製品を作り出しています。
因州和紙の現代での使われ方とお手入れ方法
因州和紙は、昔ながらの和紙製品から新たなインテリア用品まで、幅広く使われています。
代表的なものは、書道や日本画などで使用する「画仙紙」。筆の書き心地や墨のにじみ、カスレ具合などが微妙に異なる種類豊富な製品が作られています。
暮らしの中で手軽に使用できる製品としては、温かな風合いを活かした便せんや封筒、色紙などの文具。女性に人気の「あぶらとり紙」も製作しています。
また、写真家の作品を因州和紙にプリントするなど、新たな提案もされています。
現在の生活に合ったインテリアにも、因州和紙は多く使用されています。和紙の温かみが空間を包む和紙壁紙もそのひとつ。伝統技術に加え安全性に配慮した製品づくりが行われています。
1990年に開発された世界初の「立体漉き」製法を用いた和装ランプも人気の製品です。継ぎ目なく立体的に紙漉きされた型は、球型、筒型などさまざま。和紙の原料「楮」の繊維を透過するランプの灯りは柔らかで、空間に癒しを与えます。
この立体紙漉きで制作された「AOYA washi lamp」は、世界的プロダクトデザイナー喜多俊之氏のディレクションによるシリーズ。伝統工芸とモダンを融合したデザインが反響を呼び、2005年度グッドデザイン賞の中小企業庁長官賞などを受賞しています。
和紙の壁紙や照明器具のお手入れは、普段からハケやハタキなどで表面のホコリをやさしく取り除いてください。水汚れがついた場合は、すぐに乾いた布などで汚れを吸い取りましょう。水ぶきはシミの原因となることがあるため避けてください。
因州和紙の見学・体験ができる場所
鳥取市あおや和紙工房
所在地 | 鳥取県鳥取市青谷町山根313 |
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電話番号 | 0857-86-6060 |
定休日 | 月曜日(祝日の場合は翌平日)・12月29日~1月3日 |
営業時間 | 9:00~17:00 (カフェ10:00~17:00) |
HP | http://www.tbz.or.jp/aoya-washi/ |
備考 |
展示、体験、販売、カフェ |
和紙工房かみんぐさじ
所在地 | 鳥取県鳥取市佐治町福園146-4 |
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電話番号 | 0858-89-1816 |
定休日 | 水曜日、年末年始 |
営業時間 | 9:00~16:30 |
HP | http://www.coming-saji.com |
備考 |
販売、展示、和紙づくり体験 |