伊勢形紙とは
伊勢型紙とは、三重県鈴鹿市の白子で主に生産されている伝統工芸用具で、布を一定の柄に染色するために用いられる型紙のことを指します。現在流通する伊勢型紙の99%はこの地域で作られたものです。
特殊な和紙にほどこされるのは細緻を極めた彫刻。職人の手から生み出される美しい文様は見るものを魅了します。
生地の染色という本来の使用法以外にも、型紙そのものの美しさが注目され、インテリアや日用雑貨などとしても人気の高い工芸品(用具)です。
なお「伊勢形紙」と「伊勢型紙」の表記については、もともとは「形」の文字を用いられていましたが、大正・昭和にかけて「型」と併用されるようになりました。そして戦後になると「型」に統一され、現在使用される表記としては「伊勢型紙」が一般的です。
発展と衰退を繰り返した伊勢型紙の歴史
伊勢型紙の歴史は古く、発祥については諸説語られています。奈良時代に孫七という人物が型紙を始めたという説。白子山観音寺の僧侶が虫食いの穴を見て思いついたという説。
明確な資料がないためどれも説にすぎませんが、白子付近で原料となる渋柿や和紙の生産が盛んだったわけではないことから、京都やほかの地域より持ち込まれ伝承されていったと考えられています。
これらの説から伊勢型紙は千年以上の歴史を持つといわれるようになりました。
伊勢型紙が大きく飛躍したのは江戸時代。紀州藩の天領となった白子は、1620年頃から藩の手厚い保護を受け、伊勢型紙を発展させていきました。
その要因として、当時の武士たちの間で、型染をほどこした裃(かみしも)が流行したことが挙げられます。そして次第に、柄はより細かな小紋が好まれるようになりました。
その後、紀州藩の保護のもと、型を売る業者たちは、株仲間を組織して全国へ型紙を出荷するように。こうして伊勢型紙の需要は拡大し、さらに職人たちの技術は高度に発展していったのです。
明治時代に入ると、株仲間は解体され型紙業界は陰りを見せます。
近代化の影響を受け、着物の需要が低下していったのです。それからしばらくの間、世の中の情勢に合わせて伊勢型紙は浮き沈みを繰り返しました。そこへ太平洋戦争の打撃を受け、伊勢型紙は一時世間から姿を消してしまいます。
終戦後、国内の復興が進むと同時に再び着物の需要が増えたことで、伊勢型紙は再び発展を見せました。
職人たちの熟練の技と歴史が認められ、1955年には6人の型紙職人が、国から重要無形文化財技術保持者、いわゆる人間国宝に指定されています。さらに1983年には伊勢型紙が経済産業大臣の指定を受け、伝統的工芸品(用具)に指定されました。
しかし現代においては、着物の需要低下と職人の減少により業界は厳しい状況下にあります。そこで技術を受け継いでいくために「伊勢型紙技術保存会」が立ち上げられました。職人たちも柔軟な発想で新しい製品を生み出し、伊勢型紙を世間に広める活動を行っています。
古くから受け継がれてきた職人の技術と伊勢型紙の魅力
伊勢型紙の魅力は、やはり職人の手から彫り起こされる美しく細緻な文様です。
型地紙と呼ばれる加工した特殊な和紙に、細かな文様をほどこす技術はまさに神業。何種類もの彫刻刀と技法を駆使して作り上げていきます。
伊勢型紙に用いられる代表的な技法は「縞彫り(しまぼり)」「突彫り(つきぼり)」「道具彫り(どうぐぼり)」「錐彫り(きりぼり)」の4種類に分けられます。
熟練の職人でも得意とする技法は多くても2つほどといわれており、どれも習得に長い年月を必要とする技法です。
生地を染めるために一枚の型紙で良いものもあれば、友禅のように色や柄の多いものには何十枚、何百枚もの型紙を使用することも。長い時間と労力を使って職人が彫り上げた型紙は、染め職人の手に渡り、鮮やかな柄として生地に写し取られます。
最初から最後まで手作業で作り上げられた柄は、細かく正確でありながら人の温もりを感じさせる柔らかな仕上がりで、見るものを魅了してやみません。
伊勢型紙の現代での使われ方とお手入れ方法
伊勢型紙は現代でも着物において欠かせない工芸用具です。その使用の幅は広く、和装以外にも衣類や食品の装飾に用いられています。
さまざまな用途で用いられる中、今最も注目を集めているのが伊勢型紙そのものを使った製品です。
伊勢型紙に使われている型地紙は、光沢感のあるこげ茶色と伸縮せず丈夫な素材が特徴。この型地紙に文様が彫られると、それだけで飾りたくなるような作品になります。
そこに着目し、型紙そのものをインテリアとして販売するようになったのです。そのほかにも型紙をランプシェードや扇子に加工するなど、特性を活かした製品が制作され注目されています。
丈夫な素材で色落ちなどの心配が少ない伊勢型紙はお手入れも簡単です。
・直射日光に長時間晒さない(色褪せの原因になるため)
・多湿な場所での保管は避ける(カビの原因になるため)
以上の注意を守って使用するだけで、長く伊勢型紙の美しさを楽しむことができます。もちろん丈夫といっても素材は和紙ですので、無理な力を加えたりすれば破損することもあります。通常の範囲での使用は問題ありません。
伊勢形紙の見学・体験ができる場所
庄川水記念公園
所在地 | 三重県鈴鹿市寺家3-10-1 |
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電話番号 | 059-386-7511 |
定休日 | 毎週月曜日(祝日の時は翌日)、年末年始(12月28日から1月4日まで) |
営業時間 | 9:00~16:30(12月末から翌年2月末まで16時閉館) |
HP | http://www.densansuzukacity.com/index.html |
備考 | 【体験メニュー】彫刻体験150円~ 染色体験1,000円~ |
テラコヤ伊勢型紙
所在地 | 三重県鈴鹿市白子1-9-6 |
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電話番号 | 非公開 |
定休日 | 月曜、火曜 |
営業時間 | 24時間使用可能 |
HP | https://terakoya-kataya.com/ |
備考 | 本格的に技術を学ぶことができる体験施設です。・1日体感コース・オリジナル制作コース・弟子入りコース |