岩槻人形とは
岩槻人形(いわつきにんぎょう)とは、埼玉県さいたま市岩槻区で生産されている人形です。2007年には、伝統的な技術や技法によって作られていることから、経済産業大臣より国の伝統的工芸品に指定されました。
岩槻人形の歴史
岩槻人形の歴史は古く、1600年代の日光東照宮の造営と関わりがあります。もともと、日光御成街道(にっこうおなりかいどう)の江戸から最初の宿場町であった岩槻宿(いわつきじゅく)は、有名な桐の産地であり、桐細工が栄えていました。
そこに時の将軍、徳川家光が日光東照宮の造営にあたって、全国から優秀な工匠を集めたのです。彼らはこの岩槻宿に住むようになり、やがてこの地で採れた桐を使い、人形作りを始めるようになっていきます。
また、この岩槻宿は、人形の頭を塗装するのに使う胡粉(こふん)を溶かしたり、発色を良くしたりするために必要な水も豊富にありました。
このように、人形を作るのに適する条件が揃ったことにより、岩槻宿は人形の生産が盛んに行われるようになり、岩槻人形が生まれたのです。
ふっくらとした優しい表情が魅力的な岩槻人形の特徴
岩槻人形は、ほかの人形と比べると頭と目がやや大きく、ふっくらした丸顔をしていることが特徴です。また、肌には胡粉(こふん)が塗られており、非常になめらかで美しい仕上がりとなっています。
髪には人毛に似せた柔らかな生糸が使われており、ていねいに結われた髪は、まるで本物の人間をそのまま小さくしたかのようです。
更に、衣装には色鮮やかな織物が使われており、中には西陣織のような高級織物が使われる場合もあります。
そんな岩槻人形ですが、これを作るにあたっては、いくつもの工程があります。
岩槻人形作りは、まず頭(かしら)作りから。まず、頭のベースを作るために、桐粉(きりこ)と正麩糊(しょうぶのり)を混ぜて作った桐塑(とうそ)という粘土を型に詰め、これを乾燥させます。
なお、このベースは、近年では乾燥に強い石膏が使われることも増えてきました。次に、乾燥した頭のベースに、目のパーツをはめる「目入れ」という作業を行います。目入れの作業が終わったら、今度は顔を作っていきます。
胡粉と膠(にかわ)を何度も塗り重ね、小刀を使って目と鼻の形を切り出していき、更に胡粉と膠を塗っていきます。
そのあと、肌のツヤを出すために磨いたら、今度は人形の顔に表情を付けていく作業です。筆で眉とまつ毛を描き、頬や唇に紅をさし、口元にも舌と歯を描いていきます。
表情が作り終わったら、最後は髪付師が生糸で植毛し、髪を結い上げたら人形の頭の完成です。表情作りや髪結いは、人形の雰囲気を表す大事な要素であるため、特に慎重さが要求される作業です。
頭ができたら、今度は手足です。頭と同じように、手足のベースは型抜きに桐塑を詰めていくことで作られます。
乾燥した桐塑に胡粉と膠を塗り、小刀を使って指などの細かい部分の形を整えていきます。人形の種類によっては爪に着色することもあり、この作業によって艷やかな指先が生みだされるのです。
頭と手足ができたら、次は胴体を作っていきます。この胴作りの工程は人形の種類によって異なり、裂地(きれじ)の衣装を着せた衣装人形は、藁胴(わらどう)と呼ばれる、ベースとなる藁の束に和紙を巻いて作るものが一般的です。
この藁胴を安定するように固定し、襟元の形を整える「襟巻(えりまき)」という作業を行います。襟巻が終わったら、今度は手足を付けていく工程になりますが、ポーズを付ける必要があるため、中に針金が通され、藁で肉付けがされます。
手足を付け終わったら、和紙を裏張りした西陣織などの着物を裁断し、パーツごとに着付け、最後にポーズを取らせて完成です。
一方、胴体に細い溝を彫り込み 、布地を溝に入れ込んで作る「木目込人形(きめこみにんぎょう)」になると、ベースに藁は使いません。
頭や手足と同じく、型抜きに桐塑を詰める「かま詰め」を行い、乾燥させて作ります。次に行うのは、乾燥などによって生じたヒビなどを木べらやヤスリなどで直す「生地ごしらえ」という工程。
表面が平らになったら胡粉と膠を塗ることで、生地が崩れにくくなり、布の発色も良くなります。そのあと、胴に溝を彫り、ヘラを使って布の端を溝に押し込んでいけば、着付けの完了です。
木目込人形は、かま詰めの段階でポーズができているため、組み立ててからポーズを取らせる必要はありません。
手足と胴が組み立て終わったら、今度は檜扇(ひおうぎ)や笏(しゃく)、冠、太刀など、さまざまな小道具を、専門の小道具師が制作します。
頭、手足と胴、小道具が全てできあがったら、これらを組み立てて、ようやく岩槻人形は完成となるのです。このように、岩槻人形を1体作るだけでも、数多くの工程と、それに携わる多くの職人の手が加わっています。こうして作られた岩槻人形には、一つとして同じ人形は存在しないのです。
岩槻人形の現代での使われ方とお手入れ方法
岩槻人形は現代でも、ひな祭りや端午の節句に飾る人形のほか、舞踏人形、尾山人形、浮世人形、童人形、五所人形、歌舞伎人形、市松人形、木目込人形(きめこみにんぎょう)といった、さまざまな種類の人形が生産されています。
一つの生産地でさまざまな種類の人形が製造されているという点では、岩槻区は国内の人形生産地の中でも珍しい場所です。
そんな岩槻人形ですが、一つ一つが職人の手によって作られた繊細な人形であるため、大切に取り扱ってあげる必要があります。
まず、岩槻人形は油分や汚れがつきやすいため、なるべく手で直接触れないようにして飾って下さい。少しだけ汚れがついてしまった場合は、綿棒を水に少し湿らせ、そっと拭いてあげると落ちる場合があります。
それでも落ちない傷や汚れがついている場合は、人形を買ったお店に人形を持ち込んで修理を依頼するのが一番確実な方法ですが、修理には半年から1年ほどかかる場合もあるので、注意が必要です。
岩槻人形の見学・体験ができる場所
岩槻人形博物館
所在地 | 埼玉県さいたま市岩槻区本町6丁目1-1 |
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電話番号 | 048-749-0222 |
定休日 | 月曜日 |
営業時間 | 9:00~17:00 |
HP | https://ningyo-muse.jp/ |
備考 | 【観覧料】300円 20名以上の団体は200円 |
人形工房 空
所在地 | 埼玉県さいたま市岩槻区岩槻5078-2 寿光工芸内 |
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電話番号 | 048-756-0811 |
定休日 | 火曜日、金曜日、土曜日、日曜日 |
営業時間 | 9:00~16:00 |
HP | http://kobo-sora.co.jp/ |
備考 | 【体験メニュー】姫人形 3,000円 夏季休業 |