浄法寺塗とは
浄法寺塗(じょうほうじぬり)とは、岩手県二戸市浄法寺町を拠点として活動する漆掻き職人が、岩手県北部・青森県南部・秋田県北東部の漆の木から採取した生漆(きうるし)をつかってつくる漆器のことです。
国産漆はそのコストの高さで外国産に押され、98%以上の輸入を中国に頼っているのが現状ですが、浄法寺漆の出荷量は全国シェア70%以上 を占めており、2021年6月時点で日本国内第1位を誇ります。
また、浄法寺漆にはウルシオールと呼ばれるウルシ科ウルシ属植物に含まれる物質が多く、70~75%も含有されており上質です。そんな漆をつかった漆器、浄法寺塗には黒・本朱・溜色(ためいろ)の無地単色がつかわれます。
何度もくりかえし塗られ、光沢を押さえた上品な仕上がりが魅力です。
汁椀や飯椀、盆、片口、皿などの暮らしのなかでつかう器類をはじめ、茶器や花器もつくられています。丈夫で飽きのこないシンプルなデザインも魅力で、現代のインテリアのなかにあっても違和感なくつかいやすい漆器です。
漆塗りの元祖である浄法寺塗には山あり谷ありの歴史がある
浄法寺塗の歴史は、奈良時代728年に行基(ぎょうぎ)※¹が聖武天皇(しょうむてんのう)の名を受けて開山した『八葉山天台寺(はちようざんてんだいじ)』※²発祥といわれています。
その際派遣された僧侶たちは、自分たちが使う什器(日常生活でつかう器具や家具)をつくるために漆工技術を持ち込み、僧侶たちがつくった漆器が参拝者たちに供されただけでなく、その技術も伝わっていきました。
やがて浄法寺塗は天台寺の境内や参道で売られはじめるようになります。仏教信仰とともに、暮らしに密着した普段づかいのお椀『御山御器(おんやまごき)』※³として庶民へと広まったのです。
漆器では、同じ岩手県の秀衡塗(ひでひらぬり)や青森県の津軽塗も有名ですが、いずれも浄法寺塗が元祖だといわれています。
江戸時代に入ると藩主への献上用として、金箔をほどこした南部箔椀などの『箔剜』がつくられましたが、それらは明治には廃れ、再び御山御器の需要が高まっていったのです。
ただ、戦後には安価な合成樹脂や輸入漆が普及しはじめたため、コスト面から浄法寺漆は急速に廃れてしまいます。
しかし、1980年代に入り『岩手県工業試験場』が地元の漆掻き職人や塗師(ぬし)とともに浄法寺塗を復活。1985年には国の伝統的工芸品に指定されました。
2020年12月には『漆掻き』の技術がユネスコの無形文化遺産に登録されています。
※¹飛鳥時代から奈良時代にかけて活動した日本の仏教僧※²8つの山と8つの谷を持つ(八峰八溪)東北最古の名刹(有名な寺)※³飯椀・汁椀・皿の3つのお椀(入れ子になる)
マットから美しいツヤへ!手にした人が育てる器、浄法寺塗の特徴
浄法寺塗は、柄のない無地単色が大きな特徴です。何度も何度も塗り重ねられる漆は、光沢をおさえた仕上がり。主張しすぎない少しマットな質感になっています。
派手さや絢爛豪華さはありませんが、シンプルなデザインで飽きがきません。しっくりと手になじみやすいフォルムと、木ならではの温かみある質感も、陶磁器とは違った癒しをあたえてくれます。
御山御器からもわかるように、暮らしのうつわとしての堅牢さもあり、使い込むほどに味わいが増す経年変化が楽しめるのも漆器の強み。熱が伝わりにくいので、熱いものを入れても扱いやすくて便利です。
はじめはマットだった質感が、手にしてつかい続けるほどにツヤが出てくるのも魅力。『漆職人の仕事は7割、残りの3割はつかい手によって育てられるのだ』という言葉もあるほどなのです。
それでも、色の剥がれなど”劣化”が気になるときには塗り直しや修理をすれば、世代を超えてつかい続けられます。
また、お椀や皿などの器だけでなく、直接口に入れる箸やスプーンなども浄法寺塗がおすすめ。漆には高い抗菌性があるため、食中毒などの原因となる腸炎ビブリオや黄色ブドウ球菌などが24時間後にはほぼ死滅するというデータ※もあるほどです。
※金沢大学小川俊夫教授による2007年論文。漆は消毒剤フェノールと分子構造が似ており抗菌効果が認められた
年齢・性別を選ばないシンプルデザインが魅力の浄法寺塗はギフトもおすすめ
浄法寺塗はマットで派手さのない朱色や黒、溜色(褐色系)の無地なので、つかう人の年齢や性別、暮らす環境などを選びません。インテリアなどにこだわる方や部屋の中をシンプルにまとめている方からも取り入れやすいと人気です。
また、大人はもちろんですが、初めて食器類を手にする、口にする赤ちゃんや子どもにも天然素材の安心さから、出産祝いなどにも向いています。
浄法寺塗のお椀・皿・お箸・スプーンなどのセットは、見た目にもおめでたい雰囲気があり喜ばれるでしょう。劣化しにくく長くつかえるほか、器を落としたり投げたりしてしまっても丈夫で壊れにくく、怪我の心配も軽減されるでしょう。
その他、結婚祝いや新築祝いなどには、浄法寺塗のお盆などもおすすめですし、お酒をたしなむ方なら片口の器なども洒落ています。普段づかいはもちろんハレの日にもつかえる浄法寺塗の魅力を大切なあの人にも味わってもらいましょう。
浄法寺塗の見学・体験ができる場所
浄法寺歴史民俗資料館
所在地 | 岩手県二戸市御山久保35 |
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電話番号 | 0195-38-3464 |
定休日 | 月曜日、祝日の翌日 |
営業時間 | 9:00~16:30 |
HP | http://www.edu.city.ninohe.iwate.jp/~maibun/j-tenjinaiyou.html |
備考 | 漆掻き道具、浄法寺漆器の展示物がある |
滴生舎(てきせいしゃ)
所在地 | 岩手県二戸市御山中前田23-6 |
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電話番号 | 0195-38-2511 |
定休日 | 火曜日、年末年始 |
営業時間 | 8:30~17:00 |
HP | https://urushi-joboji.com/life/travel#try |
備考 |
1人1,500円~、 |