金沢漆器とは
金沢漆器(かなざわしっき)とは、石川県金沢市周辺で作られている漆器のことを指します。おもな製品は、室内調度品、茶道具や花道具(花器など)です。
江戸時代、加賀藩の庇護のもとで発展した金沢漆器は、みやびな貴族文化と力強い武家文化が融合した華やかな美しさが特徴の伝統工芸品です。
加賀藩が守り育てた金沢漆器
1630年頃、江戸時代初期に外様大名だった加賀藩は 江戸幕府からの警戒の目をそらすため、加賀百万石の財力を武芸ではなく、美術工芸に投じることにしました。
加賀藩3代藩主、前田利常(まえだとしつね)は各地から積極的に名工を指導者として藩に招き入れました。桃山文化を代表する「高台寺蒔絵(こうだいじまきえ)」の作家、五十嵐道甫(いがらしどうほ)が京都から招かれます。
道甫が伝えた蒔絵の技法は金沢漆器の基礎を築きました。一方江戸から招かれた印籠蒔絵の名工、椎原市太夫(しいはらいちだゆう)も金沢に技術を伝えます。
金沢漆器が優美で繊細でありながら、武士が好む力強さをも持ち合わせているのは、京都の文化と江戸の武家文化の両方を取り入れているからなのです。
その後も加賀藩の庇護のもと、五十嵐家は代々門弟の指導に当たり金沢漆器の技法を発展させます。
そして時代が変わっても、金沢漆器の技術はその後の職人たちの手によって、明治・大正・昭和と受け継がれていきます。
そして1980年3月3日、金沢漆器は経済産業省の伝統的工芸品に指定されました。現在、金沢漆器に携わる職人は蒔絵師が大半を占めており、不足している木地師(きじし)育成が 課題になっています。
蒔絵の技術の粋を集めた金沢漆器
金沢漆器は、繊細かつ豪華な蒔絵が特徴の漆工芸です。
器の原材料はおもにイチョウ・ヒノキ・アテなどを使います。木地にはまず下塗(したぬり)をします。割れやすいところを漆で布を貼って補強する「布着せ(ぬのきせ)」や器を丈夫にするため下地に漆をつかう「漆下地(うるししたじ)」などを施します。金沢漆器の下地の工程は実に数十にわたります。
そのあとの上塗(うわぬり)は「呂色塗(ろいろぬり)」で仕上げます。「呂色塗」はまず木地に油分を含まない呂色漆(ろいろうるし)を塗ったあと、木炭で水研ぎをします。さらに種子油と角子を付けて磨き、光沢を出していきます。
こうしてできあがった木地に蒔絵を施すのが「加飾(かしょく)」と呼ばれる工程です。蒔絵とは漆塗りの上に金や銀、錫の粉で絵や模様を描いたものをいいます。
文様の部分だけ透明な漆をつけて磨いた「平蒔絵(ひらまきえ)」。蒔絵をする部分だけ高く盛り上げ、盛り上がった部分に平蒔絵を施す「高蒔絵(たかまきえ)」。「研ぎ出し蒔絵(とぎだしまきえ)」は、まず蒔絵の上に色漆などを塗り乾燥させます。乾いたら木炭で蒔絵面まで研ぎ出し、さらに漆を塗り砥粉 (とのこ) などで磨き、文様をおぼろげに表す技法です。
金沢で生み出された技法「肉合研出蒔絵(ししあいとぎだしまきえ)」は、高蒔絵と研ぎ出し蒔絵を併用したもので、職人の高度な技術力が求められます。蒔絵の技法でもっとも工程が複雑な蒔絵です。
ほかにも、漆面に文様を彫り込み厚貝をはめ込む「螺鈿(らでん)」。金、銀、錫、鉛などの薄板を文様に切り取り、漆面に貼り付けた「平文(ひょうもん)」。 卵の殻(主にうずらの卵)を割ったものを貼り付けて文様を描く「卵殻(らんかく)」が施されます。
金沢漆器では現在までに伝承されている蒔絵の技術が、すべて惜しげもなく使われているのです。このように金沢で独自に発展した蒔絵工芸は「加賀蒔絵(かがまきえ)」と呼ばれています。
金沢漆器の現代での使われ方とお手入れ方法
数多くの職人工房が集まる金沢市周辺では、今でも金沢漆器をはじめ、さまざまな伝統工芸品が日常生活の中で愛用されています。さらに最近は、フォトフレームやワイングラスなど、現代の生活に馴染むものも作られるようになっています。
お手入れ方法ですが、使用後は長く湯水につけず、ぬるま湯で洗い水を切って、乾いた布で拭いてください。また 片づけるときは 柔らかい紙などを間に入れて正確に重ねます。箱に入れ直射日光をさけ、涼しいところで保管してください。
なお新しい漆器は外箱から出して、風通しの良いところで陰干ししてから使用してください。
金沢漆器の見学・体験ができる場所
石川県立伝統産業工芸館
所在地 | 石川県金沢市兼六町1番1号 |
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電話番号 | 076-262-2020 |
定休日 | 4月~11月は、毎月第3木曜日12月~3月は、毎週木曜日及び年末・年始(祝日の木曜日は除く) |
営業時間 | 午前9時から午後5時(入館は4時45分まで) |
HP | http://www.ishikawa-densankan.jp/ |
備考 | 1階「ミュージアムショップ」では、石川県の伝統的工芸品を販売。2階展示室大人(18才以上):260円大人(65才以上):210円小人(17才以下):100円 |
株式会社 能作
所在地 | 石川県金沢市広坂1-1-60 |
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電話番号 | 076-263-8121 |
定休日 | 毎週水曜日(祝日の場合は営業)、年末年始 |
営業時間 | 10:00~19:00 |
HP | http://www.kanazawa.gr.jp/nosaku/ |
備考 | 見学可 / 蒔絵体験あり お盆3,240円(税込)10:30~13:30 所要時間1時間半 |