川連漆器とは
川連漆器(かわつらしっき)とは、秋田県湯沢市の川連地区を中心につくられている800年以上の歴史を持つ漆器のことです。
川連地区では、木地師・塗師・蒔絵師・沈金師など、漆器にかかわる職人たちが半径2kmに集まり、助け合いながら暮らしています。日用雑貨であるお椀づくりから始まったため、『お椀の国』とも呼ばれているのです。
現在も、お椀類は多くつくられていますが、箸や酒器、重箱、皿、鉢などのほか、箪笥やテーブルなどの家具、仏壇などもあり、幅広いジャンルの製品がつくられています。
また、スタイリッシュなデザインのカップ類やカトラリーなど、現代生活にマッチしやすいおしゃれなアイテムも続々登場。黒・朱・溜色のイメージの強い漆器ですが、カラフルで色展開の多い製品もあり、つかい込むほどに色が明るく変化します。
また、単色だけでなく、沈金などの美しい蒔絵(まきえ)をほどこした高級品も魅力。そんな川連漆器は、つかい勝手が良く、丈夫で生活に密着した器として長く愛され続けているのです。
農村の副業からスタート!広く愛されるようになった川連漆器の歴史
鎌倉時代1193年、源頼朝の家人であり当時この地方を支配していた領主、稲庭城主小野寺重道の弟、道矩公(みちのり)が古四王野尻(現川連町大舘地区)に館を築き、家臣に命じて刀の鞘や弓、鎧などの武具に漆を塗らせたのが川連漆器の始まりといわれています。
地元の山に生えていたブナの木や漆をつかってつくる川連漆器は、農家の副業として成り立っていたのです。江戸初期の1615年には、川連で本格的に漆器産業が始まり、川連村を中心に20戸余りが椀師稼業をしていたといわれています。
江戸中期である1815年には藩の保護政策により、川連漆器の販路を他国へと広げることに。お椀、お膳、重箱など幅広い漆器をつくるようになり、沈金や蒔絵で装飾もほどこされたのです。
江戸後期に入ると、川連・大舘・三梨の3地区で一般生活用品がつくられ、1868年には水車式ろくろや足踏みろくろがつかわれるようになりました。明治に入るとその生産額は2000両にもなったといわれ、『川連村漆器同業組合』も設置されます。
1914年には、稲庭水力電気株式会社によって電動ろくろがつくられ、秋田県立川連漆器試験場に設置。技術研究開発が進んだのです。
戦後1955年の高度経済成長期に入ると、汁椀など家庭の日常に欠かせない器が大量に生産されはじめ、旅行ブームも手伝って温泉地でつかうお膳やお椀などの注文も増えました。
こうして最盛期を迎え、1976年12月には国の伝統的工芸品に指定されたほか、1996年には県の伝統工芸品にも認定。1998年には全国漆器展にて内閣総理大臣賞も受賞しています。
つややかぽってりシンプル花塗りに魅せられる川連漆器の特徴
川連漆器の見た目での特徴は、シンプルで実用的なデザインに加え、刷目の残らないふっくらとしたつややかさが魅力の『花塗り(はなぬり)』です。
花塗りは、仕上がった下地に中塗りを何度も繰り返したあと、ゴミやホコリを一切付けずにたった一度の漆で仕上げる、川連漆器独自の技法。漆を塗ってから研いだり削ったりする修正がきかないため、熟練した高度な技術が求められます。
また、器の表面のように見える部分ではなく、下地を塗る前の純木を仕込む段階にも特徴があり、煙で燻す(いぶす)という昔ながらの乾燥方法でおこなわれます。
木を燻すことにより、割れの原因となる”ゆがみ”や”狂い”を軽減するだけでなく、煙の成分と木材のタンパク質が結合して木材を強く丈夫にし、腐敗や虫が湧くことも防げるのです。
また、川連漆器を生んだ秋田には、水以外『なんでも燻す』とも例えられる文化があります。大根を燻してつくられる『たくあん』”いぶりガッコ”をはじめ、比内地鶏などの燻製が有名。川連漆器も『燻り椀(いぶりわんこ)』の愛称で親しまれています。
そんなつややかで強い川連漆器の加飾には、模様を毛彫り※にした中に金箔を埋め込んでおこなう『沈金(銀の場合は沈銀)』という豪華な蒔絵(まきえ)がほどこされることも。
沈金は、漆塗りの表面に紋様を彫刻刀で浮彫にしたあと、生漆を刷り込み、乾く前に金箔や金粉を堀溝の中に綿をつかい押し込む熟練の技法です。
このように、普段づかいのカジュアルでシンプルな器から、沈金をはじめとする絢爛豪華な高級品まで、幅広いジャンルの製品がつくられているのも川連の特徴といえるでしょう。
※鏨(たがね)などをつかい、模様などを細い線で彫ること。毛のように細い線を彫ることから、この名前が付いた。
川連漆器をはじめとする漆器に付いているニオイを取る方法について
美しいツヤや手触りが魅力の川連漆器ですが、「新品の漆器独特のニオイが苦手」という方もいます。これは、漆と木本来のニオイが混じったもので、箱などにしまいっぱなしだと、ニオイがこもってしまうことがあるのです。
できるだけ箱から早めに出すことで改善されますが、気になるときは、ぬるま湯で洗ったあと、直射日光の当たらない風通しの良い場所にしばらく(一週間ほど)置いておけばニオイは取れます。
もっと早くニオイを取りたい場合は、お米のとぎ汁の中に1時間ほど浸けておいたり、”米びつ”の中に漆器を入れておいたりするのも有効です。
また、ぬるま湯にお酢を数滴混ぜたものを含ませた、やわらかい布で一度拭いてから、さらにぬるま湯で洗い流す方法もおすすめです。
漆器に付いている漆と木のニオイは数回の使用でなくなっていきますが、良い状態で長持ちさせるためには『毎日つかう』ことが大切。生活の中で川連漆器をどんどん愛用して、美しいツヤと味わいを育てていきましょう。
川連漆器の見学・体験ができる場所
湯沢市川連漆器伝統工芸館
所在地 | 秋田県湯沢市川連町字大舘中野142-1 |
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電話番号 | 0183-42-2410 |
定休日 | 毎週木曜日、12/31~1/5 |
営業時間 | 9:00~17:00 |
HP | http://www.kawatsura.or.jp/center/ |
備考 |
沈金体験、蒔絵体験あり。HPからメールで問い合わせ |
佐藤善六漆器展(さとうぜんろくしっきてん)
所在地 | 秋田県湯沢市川連町大舘屋布前6 |
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電話番号 | 0183-42-2467 |
定休日 | なし |
営業時間 |
8:30~19:00(月~土) |
HP | https://zenroku.jp/ |
備考 |
定期的に企画展開催 |