京人形とは
京人形(きょうにんぎょう)とは、京都府の京都市周辺で作られている日本人形です。その伝統的な製法を長年守り続けてきたことにより、経済産業大臣から、国の伝統的工芸品としての指定を受けています。
ひいな遊びから進化した京人形の歴史
京人形の歴史は、平安時代に作られていた「人形(ひとがた)」や「形式(かたしろ)」と呼ばれる人形に遡ります。
もともと、これらの人形は疫病を祓うことや、災厄から身を守ってくれることを目的に用いられてきました。この人形や形式は、長い時の中で、次第に呪術的な側面が薄れていき、幼児の遊びの対象となるままごと人形へと変わっていきました。
やがて、貴族の子供たちの間では、御殿や調度品の模型を用意して、そこに人形を置いて着物を着せ替えたり、参代の真似事をしたりして遊ぶ「ひいな遊び」が流行します。
この「ひいな遊び」に使われた人形が、江戸時代になると、座り姿の雛人形へと姿を変えていきます。これらの雛人形が、後の京人形の原型となるものなのです。
風情ある趣が魅力的な京人形の特徴
京人形の特徴は、製造工程の分業化により生まれる、高い品質と風情のある深い趣(おもむき)にあります。頭、髪付、手足、小道具、着付など、その製作工程が細かく分業化されており、それぞれが熟練した職人の手によって行われています。
一つ一つの工程がていねいに行われていることによって、京人形はどれだけの時間を経ても、その趣を失わないままでいられるのです。
今回は、そんな京人形の中でも特に人気の高い、雛人形の製造工程についてご紹介していきます。京人形作りの最初の工程は、「頭師」という職人の手による頭部の製作から。
木材で頭の原型を作り、松脂や樹脂を使って型を取ります。その型に、桐粉と正麩糊(しょうぶのり)を練り上げて作った桐塑(とうそ)と呼ばれる粘土を入れ、乾燥させる、「生地押し」という作業を行います。
しっかりと乾燥したものを型から取り出し、次の工程は細かい修正を行う「彫塑」という作業です。彫塑を行ったら、人形の目の部分にガラスで作った義眼をはめ込みます。
次に「地塗り」を行います。これは、白くなるまで焼いた貝殻を砕いて作った胡粉(こふん)と、獣の骨や皮を煮詰めて作った天然の接着剤である膠(にかわ)を水で溶き、できた液体を人形の頭に塗る作業です。
更に、胡粉で肉付けを行う「置上(おきあげ)」という作業、胡粉を何度も塗っていく「中塗り」という作業を行っていきます。
胡粉を塗っていくと細かな凹凸ができるので、木綿の布を用いて形を整えます。形を整えた頭をよく乾かしたら、ガラスをはめ込んだ目の部分や口に小刀で切り込みを入れ、目や口を作っていくのです。
トクサという植物で頭を磨き、その上から更に胡粉を塗る「上塗り」を行い、日本画用の絵の具で眉と口紅を描きます。
更に、薄墨で人形の生え際の髪を描き、木綿の布で磨きます。磨いた頭に対して次に行うのは、「髪付師(かみつけ)」と呼ばれる職人による髪付の作業。
黒く染めた生糸を使った髪を、あらかじめ頭部に彫っておいた溝に植毛していきます。植毛した後に櫛で髪をすいては、コテを当てて形を整えていくという作業を繰り返すことで、髪に艶が生まれるのです。
髪ができあがったら、最後に髪を結い上げ、櫛や簪(かんざし)などの髪飾りを差すことで、ようやく頭が完成します。
頭ができたら、次に行われるのは「手足師」が人形の手足を作っていく作業です。まず、桐の木材をノコギリやカンナで裁断し、長さや太さを整える「形取り」という作業が行われます。
腕の部分に指となる針金を差し込むための穴を開け、紙を巻いた針金を差し込みます。その上から胡粉と膠で地塗りをし、指の部分を小刀で刻み込みます。よく磨いた後、上塗りを行い、最後に指先に色を付けて爪を描けば、手足の完成です。
頭、手足ができたら、今度は「小道具師」が小道具を作っていきます。京人形の小道具には扇や笏(しゃく)、弓などさまざまな種類があり、一つ一つを小道具師がていねいに形作っていきます。
これらのパーツが全て完成したら最後に行われるのは、「胴着付け師」が胴を作り、それぞれのパーツを組み立てていく作業です。
稲藁を束ねて糸と和紙を巻き、胴を作ります。襟の土台や手足を付け、針金を胴に差し込み、針金を曲げることでポーズを付けていきます。胴が完成したら、いよいよ着付けです。
生地には、京都ならではの西陣織などの豪華絢爛な布が使われます。寸法や柄をよく考えながら裁断し、仕立てた後に糊付けをして、なおかつ型崩れしないように糸で縫い合わせます。
最後に腕を折り曲げてポーズを付け、頭を取り付け、小道具を持たせたら、ようやく京人形の完成です。このように、京人形を1体作成するのにも、頭師、髪付師、手足師、小道具師、胴着付師という多くの職人が携わっています。
複数の作業を熟練した職人が行うことで、京人形は今でも高い品質をそのままに、生産され続けているのです。
京人形の現代での使われ方とお手入れ方法
現在、京人形と呼ばれている人形は、雛人形をはじめ、五月人形、浮世人形、風俗人形、御所人形、市松人形などです。お店での販売のほか、その伝統を広く伝えていくために、伝統工芸品展などにも積極的に出展されています。
そんな京人形ですが、職人の手によって一つ一つていねいに作られている人形であるため、その取り扱いにはいくつかの注意点があります。
まず、人形は油分や汚れがつきやすいため、手袋などをして、なるべく手で直接触れないようにして飾ってください。京人形を飾る時は、なるべくホコリが付かないようにアクリルケースやガラスケースの中に入れると安心です。
ホコリが付いてしまった場合、羽ばたきなどで優しくホコリを落としてください。汚れや破損などが激しい時は、購入したお店に持ち込むのが一番確実な方法です。
また、飾る季節が終わって収納する時は「風通しがよく湿気が少ない」「直射日光が当たらない」「寒暖差が少ない」という3つの条件を満たす場所に収納する必要があります。
京人形の見学・体験ができる場所
京都伝統産業ミュージアム
所在地 | 京都府京都市左京区岡崎成勝寺町9-1京都市勧業館「みやこめっせ」地下1階 |
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電話番号 | 075-762-2670 |
定休日 | 年末年始 |
営業時間 | 9:00~17:00(入館は16:30まで) |
HP | https://kmtc.jp/ |
備考 | 京人形の展示が行われています。 |
京人形 み彌け
所在地 | 京都府宇治市小倉町南堀池103-53 |
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電話番号 | 0774-22-5008 |
定休日 | 土曜日、日曜日 |
営業時間 | 10:00〜18:00 |
HP | http://www.kyoto-miyake.co.jp/ |
備考 |