京黒紋付染とは
京黒紋付染とは、結婚式などのお祝い事に着用する黒留袖や、葬儀の際に着用する喪服を黒く染める絹の染色技術と、家紋描きの技術を総称したもので、主に京都府京都市、亀岡市で生産されています。
京黒紋付染で作られる黒留袖や喪服は、全国シェアの大部分を占めており、光をすべて吸収するどこまでも深い黒と、真っ白な紋との極上のコントラストが印象的です。
京都の染物文化は、京都の水と共にあるといっても過言ではありません。不純物が少なく、鉄分濃度の低い京都の地下水は、染物を鮮やかな色に染め上げます。
京黒紋付染も、染め物に適した京都の地下水と、極上の黒を追求してやまない職人たちの染色技術により現在まで発展を遂げてきた、日本が誇る伝統的工芸品のひとつなのです。
より深い黒を求め発展を遂げてきた京黒紋付染の歴史
黒染めのはじまりは古く平安時代までさかのぼります。この当時は生地を墨で染める墨染めが行われていました。
戦国時代の終わりごろになると、山桃から抽出された染料を使い、生地に色を何度も染め重ね、生地を黒く染める技法が生まれます。
江戸時代になると、染色技術もさらに進化を重ね、「檳榔子染(びんろうじぞめ)」という染色技法が主流になります。檳榔子とは、主にアジアの熱帯地域に生息するビンロウというヤシ科の植物の実です。
深い黒を表現するために、一度紅や藍で生地を下染めした後、檳榔子から抽出した染料で生地を黒く染め上げます。檳榔子染めされた黒紋付は、刀を通さないともいわれるほど強度が増し、武士の間で愛用されました。
明治に入り、紋付羽織袴が男性の第一礼装とされたことをきっかけに、女性が身に着ける黒留袖や喪服も冠婚葬祭用の礼服として広く普及していきます。
1900年代初期の黒染めのピーク時には、五倍子汁(ふし)、桃皮汁(とうひ)、檳榔子、鉄漿(おはぐろ)の4種類の天然染料を使って18回以上も繰り返し生地を染め重ねるという大変手間のかかる染色作業が行われていました。
大正時代にヨーロッパから新しい染色技術と合成染料が伝わってからは、現在でも行われている染色技法、黒浸染(くろしんせん)、三度黒、黒染料が確立します。
そして1979年、京黒紋付染は国の伝統的工芸品に指定されました。
京黒紋付染の技術は、時代の流れと共に染色職人の本物の黒への飽くなき追求のもと、今日まで発展を遂げてきたのです。
紅や藍が、仕上がりの黒の鮮やかさをより際立てる
京黒紋付染の特徴は何といってもその深みのある黒と、紋の白との美しいコントラスト、そして、紋の正確さと美しさです。
黒染めを行う前に、まずは白生地の防染作業を行います。紋のサイズにカットし、糊を付けためんこを布の両面に貼り付けることで、紋を入れる部分が黒く染まらないように処理する作業です。そして、ここからが本格的な黒染めの工程へと移っていきます。
京黒紋付染の染色技法には、黒浸染と黒引染(くろひきぞめ)の2種類があり、それぞれ着物の種類によって使い分けられています。
黒一色で模様のない喪服に用いられるのは、黒浸染という染色技法です。
より深い黒を表現するために、白生地を一度、紅や藍などの天然染料で下染めしてから、高温の合成染料に浸します。
染料を高温にするのは、生地に色を定着させるためです。その後何度も水洗いを重ね、その後生地を乾燥させます。
一方、結婚式などのお祝い事に着用される裾模様が鮮やかな黒留袖に用いられるのは、黒引染という技法です。
先に染めた模様の部分に糊を置き、染まらないように防染してから、刷毛で染料を塗り込んでいきます。
黒引染の技法は、2種類あります。黒染料という技法と、三度黒という技法です。
黒染料は、黒浸染と同様に紅か藍のどちらかで下染めを行い、その後合成染料を塗り込んでいきます。これにより染料は生地内部まで浸透し、光沢のある黒に仕上がります。
一方の三度黒は、京黒紋付染め独特の引き染めの技法です。
合成染料を使わず、植物染料のログウッドのエキスを塗り乾燥させた後、薬品を塗り込む事で酸化させ黒く発色させます。
生地に色が顔料のような定着の仕方をするのでマットな質感に仕上がるのが特徴です。
現在、三度黒で引き染めを行っている工房はわずか数件で、全体の8割が黒染料です。
着物のタイプや、できあがりの質感に合わせてさまざまな技法で染められると、最後に紋の絵付けが行われます。
防染処理はするものの、染の工程でどうしても起きてしまうにじみをきれいに漂白し、専門の職人が家紋を手描き、または型紙を使って繊細で美しい家紋を描き入れます。
京黒紋付染の技術を和装から洋装へ
近年、和装業界を取り巻く環境は年々厳しさを増しています。
伝統技法、京黒紋付染の確かな技術も、急速な着物離れに伴い紋付の加工数量が減少することで継承が難しくなっているのが現状です。
しかし何とか長い歴史と経験に裏打ちされた黒染めの技術を守り伝えるために、京黒紋付染めの技術を洋装にも取り入れようと、さまざまな取り組みが行われています。
中でも、100年以上の歴史を持つ京都紋付は、オリジナルデニムブランドを立ち上げ、黒染め技術を使った深い黒のデニムを開発。
さらに、衣類の大量廃棄が問題になっている中、色あせや黄ばみ、汚れなどさまざまな理由で着られなくなった服を、黒く染め直し、再生させる環境保全活動にも取り組んでいます。
京黒紋付染は、今、さまざまな提案をし続け活躍の場を広げています。
京黒紋付染の見学・体験ができる場所
株式会社 京都紋付
所在地 | 京都府京都市中京区壬生松原町51-1 |
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電話番号 | 075-315-2961 |
定休日 | 土・日・祝 |
営業時間 | 9:00~17:00 |
HP | http://www.kmontsuki.co.jp/ |
備考 | 【体験メニュー】ハンカチ:3,100円、ストール:5,000円 |
馬場染工業株式会社
所在地 | 京都府京都市中京区柳水町75 |
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電話番号 | 075-221-4759 |
定休日 | 土・日・祝 |
営業時間 | 9:00~17:00 |
HP | https://www.black-silk.com/ |
備考 | オリジナルの家紋入りグッズを作ることができます。 |