京繍とは
京繍(きょうぬい)とは、1500年以上の歴史を持つ日本刺繍の中で、京都府に発展し、京都市・宇治市で製作されている刺繍製品のことです。
絹織物・麻織物にさまざまな色を用いて加飾し、雅やかな平安の風情を現世に残している伝統工芸品のひとつです。
京繍の歴史は平安京の造設とともにあり
京繍の起源は、西暦794年に平安京が建てられた時に遡ります。宮中で着物に刺繡を施したり、修繕する職人を配置する「織部司(おりべのつかさ・ぬいべのつかさ)」という部門が置かれたのが始まりといわれています。
当時、都のあった京都では着物に施す刺繍の技術が発達しました。以降京繍はさまざまな用途で使用されるようになっていきます。
平安時代では主に女性貴族が着用していた十二単、鎌倉時代には武将の胴服、室町時代には能衣装・人形衣装に用いられ、江戸時代には宮中の貴族だけではなく財力を持った市民の和装小物や、小袖に多用され染物の文化の発展と相まって豪華絢爛な刺繍が流行しました。この頃、京繍の流行最盛期を迎えています。
そして、明治時代には明治維新とともに、洋風文化が発展したため武士や寺社などの注文主が力を失い、いわゆる贅沢品であった日本刺繍・京繍も大きなショックを受けることになります。そのため、生活の様式の変化に順応するように刺繍絵画・テーブルクロスなどが製造されるようになりました。
1873年にウィーン万博博覧会に京繍絵画を出展したところ、海外からも高く評価され、京繍の輸出産業が始まりました。すると一転して京繍の需要が急激に高まり、京繍の職人たちが日本の経済を支えてきました。
このように、京繍は徐々に需要が変化しながら発展し続けています。
現代の日本では日常的に呉服を着る機会は減っています。しかし、伝統工芸士がその技術を受け継ぎ、京繍をあしらった着物を作り続けています。また、日本のライフスタイルに合うようなインテリア、ふくさ、成人式の振袖などに広く用いられています。
さらに、京都で有名な祇園祭の「山鉾(やまぼこ)」の軒吊りや胴懸け、見送りを飾っているのも京繍です。
京繍は1976年に経済産業省により日本を代表する伝統的工芸品のひとつと認定されました。
他の刺繍技法にはない「繊細さ」が持ち味の京繍
京繍は、100種類以上の技法と3000種類以上の糸を巧みに使い分けた「繊細」なデザインが特徴的です。
京繍の技法として特に有名なものに、線を表現する「まつり繍」、図柄を盛り上げるように立体的に縫った「肉入れ繍」、写実的な表現方法の「組紐繍」などがあります。
まずは生地に下書きを施し、絹糸を使って下書きに沿うように縫い上げていきます。デザインに決まりはないですが、特に花や動物など自然の情景が多く、顧客のオーダーに合うものを描いていきます。
配色には一反の着物で30色以上使用されることが多く、職人の感性・技法・糸の違いで、力強いデザインのものや淡い色合いの刺繍まで多種多様です。
また、縁取りや要所に金糸を使用したデザインも多く、優雅さ・煌びやかさも演出されます。
絶妙な糸の使い分けで光と影が表現され「まるでそこにある」かのように立体的で、どこか奥行きのある仕上がりになっています。
こうしたこだわりの甲斐あって、絵に描いたように細やかなデザインでありながら、絵画とはまた違う趣が出てきます。
京繍とよく似た日本刺繍に、同じく伝統工芸品となっている加賀繍があります。この2つを比較すると、技法の違いはほとんどありませんが、京繍の作品は京都らしく「はんなり」とした仕上がりになっているのも特徴的です。
京繍の作業は、すべて手縫いで行われるのもはもちろん、両手を用いて一刺し、一刺しと集中して仕上げていくため、製作期間は1年を超えるものもあります。
技法を習得しても全く同じ作品が作れるわけではなく、職人によっても微妙な風情の違いが出てきます。
現在はおよそ40人の伝統工芸士がおり、中には無形文化財保持者(人間国宝)の指定を受けている方もいます。
姿を変えてきた京縫の「今」
女性が和装したときに身に着けるアクセサリー類も人気商品です。
また、洋室が多い現代家屋でも、自宅の和室に京繍をあしらった小物があれば、格がグンと上がります。
通常、京繍を大きくあしらった作品などは、繊細なデザインを壊さないために「京洗い」という方法でお手入れをします。
地域のクリーニング店や、宅配受付を行っている京都の業者もあります。
ブランドのない日本刺繍よりも、少しお値段の張る京繍製品ですが、いつまでも色あせない魅力があります。
京繍の見学・体験ができる場所
京都刺繍協同協会
所在地 | 京都府京都市北区平野鳥居前町5 |
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電話番号 | 075-406-5953 |
定休日 | 土日祝 |
営業時間 | 10:30~17:00 |
HP | https://www.kyounui.net/ |
備考 | 京繍教室・京繍講座を実施しています。 |
中村刺繍
所在地 | 京都府京都市上京区上立売通堀川東入堀之上町5 |
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電話番号 | 075-431-1426 |
定休日 | 土日祝1日体験コースは不定休 |
営業時間 | 10:00~12:0014:00~18:00 |
HP | https://www.nakamurashisyu.com/18contents/index.html |
備考 | 【体験メニュー】帯留めコース5,000円~ |