村上木彫堆朱とは
村上木彫堆朱(むらかみきぼりついしゅ)は、新潟県村上市に古くから伝わる伝統工芸品です。その伝統技法は、木彫の上から漆を幾度も重ねて塗るもので、彫刻は風雅な模様があしらわれています。ホオ、トチ、カツラなどの堅い落葉樹を用い、その木地に彫師が模様を彫る工程で作業が進められます。漆と木地はすべて天然物。職人が手作業で丹念に作り上げていきます。
村上木彫堆朱の工芸品には食器や花瓶、お盆や茶道具などがあり、日常生活に優美な要素をもたらせてくれる品々から美術工芸品まで揃っています。
名工有磯周斎を生み出した村上木彫堆朱の歴史
村上市はかつて越後国の村上藩として栄えた歴史ある城下町で、風情ある街並みは、いまなおその面影を覗かせています。旧出羽街道の松尾芭蕉が歩いた石畳の先には、大和朝廷によって建立された漆山神社が鎮座するほど、いにしえより漆の一大産地でした。
村上木彫堆朱の起こりは、今から600年ほど前です。当時、村上藩には寺院建築のために京都から職人たちが訪れていました。その漆工から木彫堆朱の漆技が伝わったといわれています。
江戸時代になると、第6代藩主の内藤信敦が京都所司代の要職につき、京都東山にある修学院の修築工事を行いました。それをきっかけに、藩士の頓宮次郎兵衛と沢村吉四郎が次々に彫刻の技術を学びはじめます。歴史をさかのぼると、ここに村上木彫堆朱の源流をたどることができます。
江戸時代中期には村上藩に漆奉行が設置され、漆の植栽事業が大きく展開されていきます。同時に村上木彫堆朱の技法は、村上藩士から町民にまで広がることになりました。
その状況の中、名工有磯周斎(ありいそ しゅうさい)がはじめて名を出します。有磯周斎は、今でも村上市に町名として名を残す大工町に生まれました。宮大工の息子として家業を継ぐ修行中、当時村上藩で潮流となっていた彫刻に惹かれ、技術を身につけていきます。
彼の才能は、神社仏閣には欠かせない彫刻「宮彫り」においても発揮されますが、日本各地の神社仏閣を参拝していく中で心に打たれるものがあり、彫刻の才能を美術工芸品の制作に移します。
有磯周斎は、中国明の時代から続く存星(ぞんせい)という技法や鎌倉彫の彫法を研究し、それを繊細でしとやかな表現手法に変化させ、木彫堆朱に作り込んでいきました。これが現在の村上木彫堆朱の礎となる技法と表現手法です。
彼はさらに積極的に販売活動を展開し、村上木彫堆朱の名を全国に広めていきました。有磯周斎の功績は大きく、村上木彫堆朱は1955年には新潟県文化財、1976年には国の伝統的工芸品として指定を受けています。
内に秘める造形美から見えてくる村上木彫堆朱の特徴
村上木彫堆朱の特徴は、一つの作品の中に「わびさび」があることです。決して煌びやかで華美になりすぎない、しなやかで奥ゆかしい芸術品といえます。村上木彫堆朱は加飾技法でありながらも、引き算をすることで複合美を作り上げています。
その引き算とは、制作工程の最終段階で艶消しを施すこと。あでやかな漆の艶を消すことで、美の本質が内側から表れ、その美しさが静かに揺れ動くような捉え方をします。
そして加飾技法により優美で緻密な模様を施しています。そこには、山水花鳥唐草などの伝統文様から、幾何学模様や魔除けの意味を込めた雷紋、鶴亀や松、牡丹などをモチーフにした縁起が良いとされるデザインまで彫りこまれています。いずれも流線のしなやかな美しさが際立つ作品に仕上げられています。
中国の美術工芸品の中には、漆芸の一つに、木地に漆を何度も塗り重ね、その後に文様を彫り起こす彫漆という技法があります。後で彫刻をするため、重ね塗りは数百回に及ぶものもあります。一方、村上木彫堆朱の場合には木彫りを最初に行い、その後に漆塗りをする技法になりますので、木地の質感が残された柔らかな風合いが見てとれます。
現在の村上木彫堆朱では6種類の技法があり、堆朱、堆黒(ついこく)、朱溜塗り(しゅだめぬり)、金磨塗り(きんまぬり)、色漆塗り(いろうるしぬり)、三彩彫り(さんさいぼり)と呼ばれます。
堆朱は黒みがかった朱色、堆黒は黒色でいずれも伝統的な技法。これらに新たに加えられたのが、堆朱に艶消しを施し最高級漆で濃いチョコレート色に仕上げた朱溜塗りのほか、金箔を散りばめて華やかさを添えた金磨塗り、数種類の色漆で彩りを際立たせた色漆塗りです。
さらに三彩彫りでは、あえて艶上げをし中国の漆芸と同じ順序で行う技法で作り上げています。
基本的な技法は同じですが、漆の色や種類、制作工程の流れなどに違いを持たせることで、深みや風合いなどに多様な変化を見せています。
村上木彫堆朱の用途とお手入れ方法
村上木彫堆朱で用いられる漆は天然漆です。天然漆には、主成分のウルシオールが持つ殺菌効果があり、水に濡れてもその効果を維持するため、食べ物や飲み物などを扱う食器や茶道具などに適しています。
村上木彫堆朱の用途は広く、花瓶や花台、壺や手鏡、大皿などの美術工芸品や小物、イヤリングなどのアクセサリーなどにも使用されています。
日用品として愛される村上木彫堆朱でも、天然物で決して安価ではありませんので、長持ちをさせるためには、大切に扱うことが必要です。
最も気を付けなければならないことは4つ。それは水と温度、そして直射日光と乾燥です。いずれも漆器の変形や変色、木質や漆の質感を低下させる原因になります。
まず水洗いをする際はつけ置きは厳禁です。一般の食器と同じように洗剤で洗えますが、水をしっかりふき取るようにしましょう。食器洗い乾燥機や電子レンジは、熱で漆器の状態が変化するため使用できません。
保管する際には、直射日光と湿度の高い場所や乾燥する場所を避けるようにしましょう。
村上木彫堆朱の見学・体験ができる場所
村上木彫堆朱会館
所在地 | 新潟県村上市松原町3丁目1番17号(村上堆朱事業協同組合内) |
---|---|
電話番号 | 0254-53-1745 |
定休日 | 年末年始、お盆期間、村上大祭(7月6日、7日)、12月~4月の日曜日(その他営業日が変わることがあります。) |
営業時間 | 平日/9時00分~16時00分、土日祭日/9時30分~16時00分 |
HP | https://www.city.murakami.lg.jp/soshiki/128/tsuishukaikan.html |
備考 | 堆朱製品の見学と購入、村上木彫堆朱に関する資料の見学ができます。 |
URUSHI OHTAKI(ウルシオータキ)
所在地 | 新潟県村上市上片町2-32 |
---|---|
電話番号 | 0254-52-6988 |
定休日 | 毎月第2日曜 |
営業時間 | 9時~18時 |
HP | https://www.u-ohtaki.com/taiken/taiken.html |
備考 | 漆絵付け体験(所要時間:約1時間30分~2時間、体験料:2,500円(材料費・送料込み))、漆箸塗り体験(所要時間:約1時間~1時間30分、体験料:大人1,200円/小中学生1,000円(材料費込み)) |