名古屋黒紋付染とは
名古屋黒紋付染は、愛知県で作られている伝統工芸品です。名古屋市や西尾市、北名古屋市での生産が盛んであり、名産品のひとつとして知られています。
長い歴史を持つ名古屋黒紋付染は、江戸時代から受け継がれる美しい黒色で、多くの人を魅了する染物。昔ながらの染色方法を大切にする職人が、熟練の技で丁寧に仕上げています。
名古屋黒紋付染の歴史と染物文化の発展
名古屋黒紋付染の始まりは、江戸時代初期の1611年まで遡ることになります。当時、尾張藩(おわりはん)で作られていた旗や幟(のぼり)が、名古屋黒紋付染の原点です。
尾張藩内で旗や幟の製造を担当していたのは、徳川家康から紺屋頭(こんやがしら)として認められていた小坂井家。紺屋は染物屋のことであり、お店の主人も同じように呼ばれていました。
そんな小坂井家で紺屋頭として活躍していたのが、尾張藩士である小坂井新左衛門です。藩のために呉服などを作っていた小坂井新左衛門は、ほかにもさまざまな染物を生産し、人々の生活を支えていました。
当時、尾張徳川家の城下町として栄えていた名古屋は、江戸と並ぶほど大きな工芸都市へと発展していくことになります。その中で、染物の文化もさらに発展し、人々の需要が増えていったのです。
染物を必要とする人が増えると、生産もさらに増加。小坂井新左衛門のほかにも 、クオリティの高い旗や幟を作る職人が何人も登場し、それぞれの技法を高めていきました。
多くの紺屋が腕を競い合い、より良い製品を生み出していくと、新しい独自の技法も誕生します。1830年、黒紋付染師の文助によって考案された「紋型紙板締め(もんかたがみいたじめ)」という技法は、高い人気を獲得しました。
紋型紙板締め技法は、時代の変化とともに、さらに進化していきます。明治時代になると、従来使っていた板を、金網にする手法が生まれました。
現在の名古屋黒紋付染には、その流れをくむ「紋当金網付け(もんあてかなあみつけ)」が用いられています。他の産地では見られない名古屋独特の手法であり、紋を大切にする心も、しっかりと受け継がれているのです。
ちなみに、紋章の歴史はさらに長く、平安時代が起源とされています。当時は牛車などにつけられており、ごく一部だけで使われていましたが、次第に武家の目印となり、江戸時代には庶民の間にも広まっていきました。現在も、礼装用の衣服などに家紋として紋章が使われています。
より深い色にこだわった名古屋黒紋付染の特徴
名古屋黒紋付染の大きな特徴は、鮮明な美しい黒色です。純度の高い漆黒は、簡単に色が落ちることはありません。深くしっかりと染め抜かれた質の高い黒が、多くの人から支持されています。
主な染色方法は、浸染(ひたしぞめ)と引染(ひきぞめ)の2種類です。どちらも古くから行われてきた方法であり、それぞれ紋の入れ方に違いがあります。
浸染は、紋の型紙を生地に貼り付け、染料液に長い時間浸しておく方法です。型紙を両面からきちんと貼り合わせることにより、くっきりと紋が浮かび上がってきます。
染料液の温度は、90~95℃。じっくりと時間をかけ、熱い染料で染めることが、名古屋黒紋付染の黒をより強固なものにしてくれます。
引染は、あとから紋を描く方法です。最初に、紋が入る部分を防染糊(ぼうせんのり)で覆い、刷毛(はけ)を使って黒く染めていきます。その後、糊の下の白く残った部分に、紋を描き入れるという流れです。
紋には上質な墨が使われており、定規や分度器なども駆使しながら、職人が細かい作業を行っています。しっかりと描き込まれた紋は、クリーニングに出しても落ちることはありません。
名古屋黒紋付染の深い黒を出すコツは、丁寧な下染(したぞめ)。浸染も引染も、本格的に始める前に、まず黒以外の染料に浸しておきます。
主に使われる染料は、紅下(べにした)、藍下(あいした)の2種類です。紅下は女物、藍下は男物でよく使われます。
あえて別の色で下染を行う理由は、単色だと深みが出ないため。黒い染料だけでは、一見すると真っ黒なようでも、あまり濃い黒にはなりません。
しかし、紅や藍をプラスすれば、黒がより一層深くなり、濃密な漆黒を出せるのです。染料の調整では、長い経験から得た職人の感覚が必要であり、とても繊細な作業が行われています。
名古屋黒紋付染の現在とお手入れのコツ
現代の名古屋黒紋付染は、礼装用として、葬儀などで多くの人から重宝されています。紋が入っているため、他の着物とは一味違った風格が魅力です。
また、名古屋黒紋付染を洋服や靴の素材にする流れもあります。現代的なファッションと組み合わせることで、より身近な存在となっているのです。
手ぬぐいやマスク、扇子など、着物以外の様々なアイテムに使われる機会も増えてきました。昔とは違った多彩なアレンジで、名古屋黒紋付染の上質な黒を楽しむことができます。
名古屋黒紋付染をきれいなまま保つためには、着物の収納袋がおすすめ。きちんと収納しておけば、劣化を防ぐことができます。
美しい伝統工芸品も、ただタンスに入れておくと、いつの間にかカビが生えてしまうもの。虫による被害や変色なども、無視できない問題です。
しかし、収納袋を積極的に使っていけば、湿気や虫の被害をしっかりガード。防虫剤や虫干しなどの対策も、収納袋があれば省くことができます。
他には、シルクパックで保管する方法も効果的です。こちらにも防カビや防虫、変色などを防ぐ機能があり、名古屋黒紋付染の美しさを長く維持することができます。
シルクパックを用いた保管は、密閉したパックの中を、高純度の窒素で満たすことがポイント。酸素だけだと、酸化によるダメージを抑えられなくなりますが、窒素を充満させておけば安心です。
ただし、収納袋にしてもシルクパックにしても、汚れたままの収納はNG。目立つ汚れはできる限り落とし、きれいにしてから保管することが、名古屋黒紋付染の魅力を長く維持するためのコツです。ひどい汚れのために、丸洗いやシミ抜きなどが必要な場合は、お店に依頼しましょう。
ちなみに、名古屋黒紋付染を素材として用いている洋服は、洗濯による色落ちが少ないことで知られています。時間をかけて染め上げられた、堅牢度(けんろうど)の高い黒色となっているため、色褪せを心配せずに洗うことができるのです。
名古屋黒紋付染の見学・体験ができる場所
山勝染工株式会社
所在地 | 愛知県名古屋市西区城西2-6-28 |
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電話番号 | 052-523-1601(代表)、052-523-1604 |
定休日 | 土・日曜日、祝日、年末年始 |
営業時間 | 10:00~17:00 |
HP | https://yamakatu.co.jp/ |
備考 | 染め替え体験ツアー 5,000円(2着・黒染め替え費用)+ランチ代 |
株式会社武田染工
所在地 | 愛知県名古屋市天白区池場4-1309 |
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電話番号 | 052-801-4631 |
定休日 | 土・日曜日、祝日 |
営業時間 | 10:00~17:00 |
HP | https://takedasenko.jp/ |
備考 | 直接お問い合わせください |