名古屋友禅とは
名古屋友禅とは国の伝統工芸品にも指定されている、愛知県名古屋市一帯でつくられている染めの着物です。
名古屋友禅は手描き友禅・型友禅・黒紋付染という3つの特徴的な技法で濃淡ある模様を生み出し、落ち着いた渋みが最大の魅力とされています。
名古屋友禅の特徴を生み出した東と西の交流と質素倹約の歴史
名古屋友禅の起源は約300年前、尾張藩主徳川宇治の頃(1730~1739年)に誕生したといわれています。
当時の尾張文化は華やかで国々の交流も盛んだったため、京都や江戸からも様々な職人が、東と西のちょうど真ん中あたりに位置する尾張一帯を行き来していました。
その中には友禅の職人もおり、京都や江戸からも友禅師が友禅の技法を尾張の職人に伝えていくようになります。
そして、もともと古くから上質な絹織物の産地であった尾張一帯で、そのまま定着していきました。
しかしその後、華やかな尾張文化が徳川宗春の失脚とともに終焉を迎え、江戸全体の財政の立て直しの風潮と相まって質素倹約が促されていきます。
それは生活様式だけではなく、名古屋友禅の技法にも色数を控えたものとして色濃く反映され、「渋さ」「落ち着き」として定着していったのです。
じつは、今でこそ名古屋友禅という名前で呼ばれていますが、近代の1983年になるまでは名古屋友禅という名称はありませんでした。
名古屋で作られた友禅は、名古屋の問屋から京都の問屋へと納められていき、あくまでも京友禅の作品の一つとして、全国へと卸されていたのです。
1983年に黒紋付染(くろもんつきぞめ)の組合、小紋・型友禅の組合、手描き友禅の組合が集まり「名古屋友禅黒紋付協同組合連合会」を発足し、同年、「名古屋友禅」が伝統工芸品として国の認可を得ることとなりました。
名古屋友禅は、その歴史と土地柄における風潮に色濃く影響され、また特徴的なつくりと長い歴史があるにも関わらず、独自文化のものとして認定されていなかった珍しい友禅ともいえるでしょう。
名古屋友禅の味わい深い単色濃淡と渋さをつくる三つの技法
京友禅は華やかで美しく、加賀友禅は細やかな優美さがあります。
その一方で名古屋友禅は名古屋における堅実質素な土地柄を表したような渋さと、落ち着きある美しさと味わい深さが魅力です。
また手法も独特で「手描き友禅」「型友禅」「黒紋付染」の三つの技法によって模様を描きます。
【1.手描き友禅】
手描き友禅は友禅の始まりから行われている技法で、その名の通りひとつひとつの絵を、筆を使って描いていきます。
名古屋友禅の大きな特徴は、その「渋さ」にあり、描く絵や柄は古典のものが基本で、色数が少なく奇抜な色は使いません。
一つの色から生み出される濃淡色によってその美しさを表現していきます。
手描き友禅では、模様と構図を決めた後、水洗いで落ちる露草の花を絞ってつくられた青花液(あおばなえき)から下絵を描いていきます。
近代では、化学染料を使って描くこともあり、その場合は蒸すことで色が落ちるようになっています。
下絵を描いたら、模様に色を挿していきますが、下絵の真裏から糸目糊(いとめのり)という糊を置いていくことで、それぞれの色同士が混ざってしまうのを防ぐようにします。これは名古屋友禅独特の手法なのですね。
色が混ざらないようにした後は、淡い色から順番に挿していきます。様々な種類の筆や刷毛を使って丁寧に色の濃淡を出していく職人技です。
次に色を挿した図柄部分に伏糊(ふうせのり)という糊を置いていきます。これは次に行う引き染という生地の地色を染める工程で、挿した図柄部分の染料に色が移って変色しないために行います。
生地の地色を染める引き染め作業では、それぞれ染めたい色の見本を使いながら、その色を作りあげていきます。
色ができたら、それを生地にムラが出ないように塗っていきます。手早く塗らないと乾燥してしまうため、熟練の技が必要です。
最後は、最初に模様に色を挿せなかった部分に細かに彩色していく工程です。これを彩色仕上げといい、ここで金粉や金箔ものせていきます。
これらのどの工程もとても手間暇がかかっており、繊細さと緻密さを必要とする匠の技を感じられます。
【2.型友禅】
型友禅は友禅模様を彫った伊勢型紙という三重県鈴鹿市で作られている染色用の型紙を使って、文様や図柄を下書きしていく技法です。
この伊勢型紙は使う色ごとに型紙を変えていくため、色数が多いとそれだけ型紙も必要となり、100枚以上も使うことがあります。
生地の上に型紙を置き、型紙を移動させながらヘラを使って色をつけ染色していきます。継ぎ目が分からないように、また模様がズレたりしないよう移動させていくなどの卓越した技術を必要とします。
【3.黒紋付染】
黒紋付染は、家紋を生地に染めていく技法であり、おもに礼服などの用途に使われています。
もともとは呉服や旗などに紋を取り入れるために作られていましたが、その後、生地は黒く染め、紋の部分を白く染め残す技法が編み出され、その白く染めだされた部分にさらに手書きしていきます。
名古屋黒紋付染は、黒が美しく映える染め色と丈夫さが有名です。
名古屋友禅の現代での使われ方とお手入れ
名古屋友禅は独特の渋さが特徴ではありますが、現代ではそこに華やかさも加わるようになりました。
名古屋友禅は300年の歴史があり、国から伝統工芸品として認められていますが、現在は後継者不足にも悩まされています。
そのため名古屋友禅の技法を、手ぬぐいやハンカチ、洋装やネクタイなどにも使い、若い世代にも興味をもってもらえるよう活用の場を広げています。
名古屋友禅の渋さと落ち着いた美しさは、年代を問わずそして流行り廃りに左右されることなく、長く着続けられるものです。
着た後はしっかりと陰干しをしてから、シミなどないかをチェックし、もしシミや汚れが見つかった場合は、専門のクリーニング屋などに相談するなどして、長く愛用していきましょう。
名古屋友禅の見学・体験ができる場所
愛知県経済産業局産業部産業振興課 繊維・窯業・生活産業グループ
所在地 | 名古屋市中区三の丸三丁目1番2号 |
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電話番号 | 052-954-6341 |
定休日 | 土曜日・日曜日・祝日 |
営業時間 | 9:00~17:00 |
HP | https://www.pref.aichi.jp/sangyoshinko/densan/204.html |
備考 | 愛知県公式Webサイトにて各製造者一覧(工房)が記載されていますので、ご確認ください。 |
友禅工房 堀部
所在地 | 名古屋市西区万代町1-28 |
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電話番号 | 052-531-9875 |
定休日 | 日曜日・祝日 |
営業時間 | 10:00~17:00 |
HP | https://www.horibekoubou.com/ |
備考 | 【体験メニュー】 綿記事に色を差す体験 1,500円 |