名古屋節句飾とは
名古屋節句飾は、愛知県名古屋市を中心に生産される工芸品です。主な製品は、人形、幟旗(のぼりばた)類、雪洞(ぼんぼり)の3種類であり、全国の節句行事で活躍しています。
節句飾りは京都府や東京都でも作られていますが、名古屋の人形は、その2つの産地に拮抗するほどの人気。幟旗や雪洞にも、名古屋独特の魅力があり、多くの人から親しまれています。
名古屋節句飾の歴史と節句人形の需要
名古屋節句飾の歴史は長く、江戸時代から作られていました。1700年代の書物「名府年中行事」には、玉屋町と諸町の雛人形市についての記載があり、すでに節句人形が生産されていたことがわかります。玉屋町は、現在の名古屋市西区に該当する地域。名古屋では、昔から節句飾の職人が多数活躍していたのです。
江戸時代の名古屋は、徳川家の城下町として栄えており、工芸品の製造技術がどんどん発達していきました。品質の高い名古屋節句飾は、周辺地域にも広まり、名古屋以外でも高い人気を獲得します。
美しい装飾が施された名古屋節句飾は、大名からも多くの需要がありました。江戸時代に入ると、大名の息女が輿入れ(こしいれ)する際の嫁入り道具として、雛人形が注目されるようになります。名古屋の職人は、豪華な雛飾りをふんだんに使い、需要を満たす節句飾を数多く生産していました。
名古屋節句飾は、その後も活発に生産され、大きく発展していきます。1800年代には、京都の製品をしのぐ高品質な節句飾として評判になりました。当時、京都は節句飾の先進地でしたが、名古屋の製品も工芸的に優れた節句飾りとして評価されたのです。
明治時代になると、その製造技術はさらに向上。節句飾の生産が盛んな東京から職人を招くようになり、優れた技術を積極的に吸収していきました。この出来事がきっかけとなり、一段と優れた製品が作られるようになると、名古屋は全国有数の節句飾産地として成長していきます。
1916年には、製造の技法がしっかりと確立。より高品質な製品が作られるようになり、販路も拡大していきました。現在も、多くの職人が一貫生産体制で製作を行っており、東西の嗜好に合わせたさまざまな節句飾が生み出されています。2021年には、経済産業大臣から伝統的工芸品として指定されました。
3種類の製品に備わった名古屋節句飾の特徴
名古屋節句飾は、人形、幟旗類、雪洞の3種類が、それぞれ優れた特徴を備えていることで知られています。
人形は、雛人形や五月人形、市松人形などが作られており、東西の折衷様が魅力です。東西それぞれの魅力をうまく落とし込んだ独特の様式は、全国で高い評価を獲得。現在も多くの需要があり、その人気は、人形の二大産地として有名な京都や東京に匹敵するほどです。
幟旗類の主な製品は、武者絵幟や鍾馗(しょうき)旗、鯉のぼりなど。名古屋独特の節句飾として注目されているものは、大幟です。ほかの産地では見られない製品であり、京都や東京の節句飾とは異なる魅力があります。また、「黄腹の鯉(こい)」も、大きな特徴のひとつ。鯉の腹部が鮮やかな黄色で描かれており、名古屋の有名な鯉のぼりとして、長く愛されてきました。
雪洞は、豊富な材料を使っていることが特徴です。美濃(みの)和紙、小原(おばら)和紙といった質の高い和紙や、木曾檜(きそひのき)、松などの木工素材を用いて、多くの雪洞や提灯、燭台などが作られています。折り畳み機能がない「火屋(ほや)物提灯」は、常に形状が変わらないことが特徴であり、名古屋節句飾の代表的な製品として著名です。
名古屋節句飾は、明治時代に使われ始めた原材料を、長く使用し続けていることでも有名。現在の生産で用いられている木工素材などは、1903年からすでに使われていました。長く受け継がれてきた伝統的な素材と技法が、名古屋節句飾の優れた品質の秘密です。
また、全国の需要に応える多種多様な製品も、大きな魅力となっています。名古屋では、中部地域の地の利をいかし、東西それぞれの需要を反映した、さまざまな節句飾りが生産されてきました。人々の生活に柔軟に寄り添う姿勢が、高い人気へとつながったのです。
名古屋節句飾の現在とお手入れのコツ
現在の名古屋節句飾は、以前よりも知名度が上がり、より多くの人から使われています。伝統的工芸品として認定されたことも大きく、高品質な製品や優れた技法などが注目を集め、広く知れ渡るようになりました。長く受け継いできた技法を大切に守りつつ、より人々の需要に沿った製品を作るため、今も多くの職人が努力を続けています。
質の高い人形を長く使うためには、丁寧な手入れを行うことが大切です。飾った人形を片づける際は、羽根ばたきで埃を払い落としてから収納しましょう。袖や裾などの細かい部分は、洗った清潔な小筆を使うと、きれいに掃除することができます。
ただし、人形の顔や手、金具の部分には、素手で触れないようにしてください。指の脂分が、汚れやサビの原因になってしまいます。薄手の手袋や布などを活用しながら、慎重に手入れを行いましょう。
幟旗類は、洗濯の際に色落ちを防ぐことが大切。洗濯機で洗うと色が落ちるので、手洗いがおすすめです。擦らないように優しく汚れを落とせば、劣化を早めることはありません。
雪洞や提灯には和紙が使われているので、水分に注意が必要。濡れたり湿ったりしたときは、しっかり乾燥させてください。防水加工の製品でも、水分はできるだけ拭き取り、乾かしてから保管するようにしましょう。
名古屋節句飾の見学・体験ができる場所
有限会社 加藤人形
所在地 | 愛知県名古屋市守山区小幡2-16-20 |
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電話番号 | 052-793-1531 |
定休日 | 土・日・祝日 |
営業時間 | 10:00~17:00 |
HP | https://katodoll.web.fc2.com/ |
備考 | 工房の見学あり |
味岡人形 映水工房
所在地 | 愛知県岡崎市葵町4-16 |
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電話番号 | 0564-21-4543 |
定休日 | 無休(5~12月のみ水曜日定休) |
営業時間 | 10:00~19:00(5月~12月は18:00まで) |
HP | https://ajioka.net/ |
備考 | 雛人形の展示あり |