奈良筆とは
奈良筆とは、奈良県の奈良市と大和郡山市で作られている筆のことです。
日本の筆のルーツは奈良筆にあります。奈良筆は、平安時代に日本で最初に作られた筆で、日本筆のほとんどは江戸時代の後期から作られるようになりました。奈良筆は、他の筆に比べて穂先の仕上がりが優れ、品質が高いことから、昔も今も高級品として書道家や専門家に評価されています。
弘法大師によって日本の筆のルーツとなった奈良筆の歴史
奈良筆の起源は、1200年くらいも前にさかのぼります。
飛鳥時代、中国の文化が日本に渡り、中国から筆が輸入されていました。奈良時代には、日本は仏教の影響を受け、写経も広まったため、筆の需要が高まりました。
平安時代の初期に、弘法大師の名で知られる空海が遣唐使として中国に渡り、中国の筆づくりの技術を極めて帰り、大和国の坂名井清川(さかないのきよかわ)に伝授しました。嵯峨天皇に、作った筆を献上したといわれています。これが、奈良筆の起源であると同時に、日本の筆の原点でもあります。
貴族のたしなみであった書道も、鎌倉時代からは、武士や僧侶もたしなむようになりました。中国の禅僧によって、禅様(墨跡)の書風も広まり、室町時代には、大名に筆をおろす「御用筆師」という職人まで登場するようになりました。こうして奈良筆の需要が高まり、同時に品質と製作技術も進歩していきました。
江戸時代になると、奈良筆は全国に普及しました。特に書家から、奈良筆は高い信頼を受けるようになりました。この頃から熊野筆、豊橋筆、川尻筆なども作られるようになります。
明治時代は教育の発展により、文字を書くための筆は一般庶民にも普及しました。書道家や芸術家は、奈良筆を高級品として重宝しました。
1977年に、奈良筆は伝統的工芸品に指定されました。筆づくりは各地に広がりましたが、現在も書道家や専門家から奈良筆が高品質であると認められています。
10数種類に及ぶ原毛を巧みに組み合わせる奈良筆の特徴
奈良筆が他の筆に比べて穂先の仕上がりが秀逸である理由には、奈良筆の特徴である「練り混ぜ法」と呼ばれる伝統技法が用いられていることにあります。この方法は、原材料となる獣毛を水に別々に浸して固め、用途の異なる筆ごとに寸法と配分を変えて丹念に混ぜ合わせる技法です。
良質な筆を作るには、柔らかさと剛さがちょうど良く、墨の含みが良い獣毛を選別することから始まります。奈良筆は、山羊、馬、鹿、狸、イタチ、兎、リス、狐、ムササビ、豚、猿、スカンク、牛、猫などから十数種類に及ぶ動物の毛を使用するところに特徴があります。
筆は、動物の種類や、個体の毛が生えている部位、そして毛を採取する時期によっても、筆の仕上がりが異なってきます。原毛を筆の使用目的に合わせて分類し、それを筆の部分ごとに選別する高度な技術が必要です。
弾力と強弱と長短が多種多様に異なる毛質を組み合わせ、幾度も混ぜ合わせながら、匠の技によって一本の筆に仕上げる筆匠(ひっしょう)。奈良筆の技術を身につけるまでには、長い歳月がかかります。もちろん、筆は一本ずつ手作りです。筆匠の熟練した経験と研究努力が伝統技法に活かされ、最高傑作が仕上がります。奈良筆は、使い手の要望を叶えやすい製法であるために、オーダーメイドにも向いています。
奈良筆の種類と使用方法や注意点
奈良筆の種類は、筆の原料と、筆の穂の太さや穂の形状によって分けられます。
奈良筆の種類には、動物の毛からなる獣毛筆の他に、鶏や鶴、孔雀、軍鶏などの毛から作られる羽毛筆、特殊なポリエステルなどで作られる人造毛筆などがありあります。そして、筆の穂の太さによって規格が分かれ、半紙用規格の太筆と中筆と細筆、大筆用規格の大筆と書初め用筆があります。さらに、穂の長さの形状によっても、長鋒、中鋒、短鋒、長々鋒、超短鋒に分けられます。
筆のおろし方は筆の種類で違うため、注意が必要です。太筆は、筆の穂先をつまんで、穂先から3分の2までほぐしていきます。ほぐした部分を水で洗い流します。こうすることで、購入した際に筆についていた糊をはがすことができます。水洗いした筆は、必ず布でふきとってください。水分が残ったままで墨をつけると、墨がにじんでしまうためです。
細筆については、毛の穂先から3分の1を太筆と同じ手順でほぐします。
筆の使用後のお手入れ方法も、太筆と細筆で異なります。太筆は水洗いしますが、おろしていない筆の根本にまで水がかからないように注意しましょう。軽くつまんで洗うと効果的です。洗い終わったら穂先を整え、紙で墨を十分にふき取り、風通しの良い日陰で乾燥させます。
保管する場合は、筆巻を使用しましょう。購入の際に付属されていた筆のキャップは、絶対に使用せずに捨てるようにしてください。キャップがあることで乾燥の妨げになるだけでなく、収納の際に穂先が傷むことにもつながるためです。
細筆は、洗うと筆の形が悪くなるため、水洗いはしません。湿らせた反故紙(ほごし)や布で墨をふき取りながら穂先を整えます。そして太筆同様に乾燥させます。
奈良筆の見学・体験ができる場所
奈良県商工観光館きてみてならSHOP
所在地 | 奈良県奈良市登大路町38-1奈良県商工観光館1階 |
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電話番号 | 0742-26-8828 |
定休日 | 月曜日(月曜日が祝日の場合は翌日が休み、また伝統行事の開催中は無休) |
営業時間 | 10:00~18:00(行事のある日は延長) |
HP | https://www.nara-shop.jp/ |
備考 | 奈良筆の展示や販売を行っています。 |
株式会社あかしや
所在地 | 奈良県奈良市南新町78-1 |
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電話番号 | 0742-33-6181 |
定休日 | 日曜日、夏季休業、年末年始、ゴールデンウィーク |
営業時間 | 10:00~17:00 |
HP | http://www.akashiya-fude.co.jp/ |
備考 | 奈良筆づくりの見学と体験には、予約が必要です。体験は、初級~中級者向けと、中級~上級者向けの二種類があります。 |