鳴子漆器とは
鳴子漆器(なるこしっき)とは、300余年の歴史を持ち、湯の里『鳴子温泉郷』でも有名な宮城県大崎市鳴子で生産される漆器のこと。
江戸時代(1648~1652)には、紀州の塗物師が鳴子の挽物(ひきもの)※¹を塗り、浴客など観光客への土産物として売ったのが鳴子漆器の始まりとされています。
木目の美しさがそのまま生かされた鳴子漆器には、盆・茶托・重箱・椀・菓子器・箸などの種類があり、つかい込むほどに味わいが出ます。
また鳴子漆器がつくられる工程は、ろくろによる『挽物』・重箱のような『角物』・薄い板を曲げてつくる『曲げ物』技法などで”木地づくり”からスタートし、漆本下地・錆(さび)をつかった錆下地・渋下地などで”下地”をつくります。
その後、黒漆で”中塗り”をしたのち、表面を研いでから仕上げの漆を塗りますが、そのまま乾燥させる『花塗り※²』もしくは、さらに表面を磨く『ろいろ塗り※³』をして完成。蒔絵による加飾(かしょく)をほどこす場合もあります。
鳴子漆器は派手過ぎず素朴で温かみのある色合いと、手にしっくりなじむ質感が魅力です。また、鳴子のこけしと漆器が融合した『NARUKO』は、インテリアとして海外でも知られています。
※¹木材をろくろなどで回転させ、刃物を当て削り出してつくったもののこと。※²「塗りたて」「塗りっぱなし」とも呼ばれる。※³「呂色・蝋色」ともいう。鏡面のようなつややかな光沢
鳴子漆器の歴史
鳴子温泉郷を訪れる観光客へのお土産として、鳴子漆器が販売されていたことは先に紹介しましたが、その時期よりさらに古い1624~1643年ごろにはすでに、鳴子漆器は創始されていたと伝えられています。
さらに、1661~1667年には、岩出山伊達氏第3代城主伊達敏親(だでとしちか)が、塗師の村田卯兵衛と蒔絵師の菊田三蔵を京都に派遣。漆器の修行に出し、学んだ技術を持ち帰り、鳴子漆器の振興・発展に貢献したのです。
このような努力があったからこそ、鳴子漆器の今があるといえるでしょう。
宮城県指定有形文化財『鳴子村風土記書出(安永風土記)』によると、1773年には漆の塗りものや箸、楊枝など産物の記載があり、漆が鳴子の主要物だったことがわかります。
また、1805年の書物『漆高記』には漆の採取が行われていたことが書かれているほか、明治時代になると、足踏みろくろに1人挽きだけでなく2人挽きが登場。鳴子塗りが多くつくられるようになったほか、製品の種類も増え、1900年代に全盛期を迎えたのです。
そのように長い歴史の中で努力や研究を重ね、1991年には経済産業大臣指定の伝統的工芸品となりました。
鳴子漆器の特徴
鳴子漆器の大きな特徴は、挽物木地の”塗立て技術”による美しい仕上がりです。塗りと一口にいっても、その技法によりそれぞれ違う表情やツヤ、手触りが生まれます。
ここからは鳴子漆器の塗りで代表的な、『木地呂塗・拭き漆仕上げ・紅溜塗・竜文塗』について紹介していきます。
『木地呂塗(きじろぬり)』は、透漆を塗った木目を生かす技法。しっとりした質感で、漆塗りならではのポッテリとした質感とツヤが魅力です。
透明な漆で下塗・中塗・上塗を3回ほど塗り、最後に仕上げ磨きをしてツヤを出す。つかえばつかうほどに木目が美しく浮かび上がる経年変化が楽しめます。
『拭き漆仕上げ(ふきうるししあげ)』は、木地に透けた生漆(顔料を加えない漆)を塗っては拭き取り、乾かす作業を繰り返す技法。木地呂塗よりも木目が透けて見えた状態になっており、木の質感と木本来の色味が強まり素朴な印象です。
『紅溜塗(べにためぬり)』は、『朱溜』とも呼ばれ、下塗りに朱色をつかった上から、溜塗と呼ばれる褐色味が強い透明漆を厚く塗って仕上げたもの。溜まり醤油の色に由来しているともいわれ、溜塗の漆器は日本らしさを感じられると外国の方からも人気があります。
『竜文塗(りゅうもんぬり)』は、墨を流したようなマーブル模様に仕上がる技法で、鳴子漆器独自のもの。龍文塗や流文塗とも呼ばれ、1951年に漆工芸研究科沢口吾一氏によって考案されました。
このような鳴子塗り技法それぞれの美しさはもちろん、厚みのある木地に繰り返し塗られる漆によって長年の使用に耐えられる丈夫さも魅力です。
いつものお椀や箸などに丈夫で美しい鳴子漆器で生活に潤いを
鳴子漆器は、漆黒や朱赤などの無地でシンプルなデザインのお椀やお箸など、生活に密着した器や道具として取り入れてみることからおすすめします。
漆器類はプラスチックや外国製の安価な量産品に押され、その需要は激減していますが、長くつかうほど味わいが増す鳴子漆器は、壊れにくくてとても丈夫。長長持ちするので、頻繁に買い替える必要がないのです。
『伝統工芸品はなんとなく古臭い…』というイメージを持っている方でも、お味噌汁椀などは意外に定番の朱赤や黒、褐色などをつかっているのではないでしょうか。ならばぜひ、本物の漆器を取り入れてみてください。
漆には抗菌効果もあるので清潔につかえるだけでなく、箸や食器として口に直接つけても安心、汚れも落としやすく手入れも簡単です。
木地師が丹精込めて挽いた木地に塗師が漆を塗る。そんな丁寧につくられた器や道具たちをいつもの定番的な器で日常使いしてみましょう。鳴子漆器のほっこりする温かな魅力はきっと、生活に潤いを与えてくれます。
鳴子漆器の見学・体験ができる場所
一般社団法人 みやぎ大崎観光公社
所在地 | 宮城県大崎市古川七日町3-10 醸室内 蔵10 |
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電話番号 | 0229-25-9620 |
定休日 | 火曜日 |
営業時間 | 11:30~14:00 |
HP | https://www.mo-kankoukousya.or.jp/publics/index/142/ |
備考 |
鳴子漆器蒔絵体験:参加料5,000円昼食代込み(佐藤漆工房『ギャラリー漆舎』にて)申し込みは宮城大崎観光公社まで |
ヤマミチ舎工房
所在地 | 宮城県大崎市鳴子温泉新屋敷100 |
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電話番号 |
urushimono.yamamichisha@gmail.com メールにて問い合わせてください |
定休日 | 不定休 |
営業時間 | お問い合わせください |
HP | https://www.instagram.com/urushimonoyamamichisha/ |
備考 |
塗り師に教わる拭き漆体験 第一日曜の①10時~、②14時~ 5日前の16:00までに申し込む、参加費3,500円 |