大堀相馬焼とは
大堀相馬焼とは、福島県双葉郡浪江町大字大堀一円で生産される300年以上の伝統を引き継ぐ焼き物の総称です。略して「大堀焼」と呼ばれることも。大堀相馬焼が作られる工程とともに分かりやすく解説します。
ろくろ形成や手びねり手法で作られることの多い大堀相馬焼は、生乾き状態で削り仕上げをし、製品によりますが、半乾き段階で花抜き、泥塗り、菊押しなどの生地加色(きじかしょく)を施し、彫りを入れる場合は完全に乾いた状態で行われることが多いです。
陰干しにしてから天日干しして乾燥させることで、生地の亀裂や歪みの防止になります。完全に乾いたものを900~950度の窯に入れて焼成。次に、呉須(ごす)と呼ばれる鉄分を含む絵の具で下絵を付け、釉かけ(浸しかけ・回しかけ・流しかけ)をして焼き、上絵付をしてから1,250~1,300度で本焼します。
最後に、ひび割れをはっきりと目立たせるために墨汁を刷り込んで布で拭きとる『墨入れ』をして完成です。
そんな大堀相馬焼は、2011年の東日本大震災原発事故の影響で登り窯は全倒壊し、23軒あった窯元すべてが町外へ避難しました。その後、作陶を辞めた窯元もありましたが、避難先で作陶を行う人もおり、2021年時点では、約10軒がさまざまな土地で大堀相馬焼を再開している状況です。
大堀相馬焼は、次の100年に向けてさらに伸びて行くエネルギーに満ちた伝統工芸品なのです。
焼き物のルーツでもある大堀相馬焼の歴史と独自の技法
旧藩政時代「相馬焼」と呼ばれた大堀相馬焼が作られ始めたのは江戸初期ごろです。1690年に「大堀相馬焼左馬(さま)茶碗」が発売され、1697年(寛政年間)には農家の副業として普及し、半農半陶の生活をしながら伝統を受け継ぐ人も多くいました。
さらに、当時相馬地方を治めていた相馬藩が焼き物作りの保護育成に努めたため、江戸時代末期には窯元の数が100戸を超える東北最大の産地となったのです。
1830年ごろには絵付け研究がされるようになり、半谷喜三郎によって描かれた駒絵を始め、中村藩主相馬氏の家紋から繋ぎ駒※、走り駒など縁起の良いデザインが生まれています。
1853年益子焼の発祥とともに大堀相馬焼職人数名が技術指導にあたり、北海道から関東一円、信州越後地方までに販路も技術も広がりました。そのようにして大堀相馬焼は、益子焼、笠間焼など焼き物のルーツにもなったのです。
さらに、1863年に青ひび、1883年には水金の駒絵が始まり、1899年に坂本熊次郎が『二重(ふたえ)焼き技法』を創案。戦後となる1950年には海外輸出が始まり、「アイディアカップ」や「ダブルカップ」の愛称でアメリカを中心に広まりました。
1978年、当時の通産省(現:経済産業省)により伝統工芸品に指定されました。さらに、二重焼き湯呑はMade in Japanの刻印とともに輸出され一大ブームを巻き起こしています。
※駒=仔馬
普段使いOKな大堀相馬焼の特徴は『青ひび・二重焼き・馬の絵』
大堀相馬焼の面全体に走る味わい深い『青ひび』模様は、素材と釉薬との収縮率の違いで起こる『貫入(かんにゅう)』技法によるものです。
貫入が起こるときに放たれる『キラキラ、ピーン』というガラス風鈴に似た透き通った音は、”うつくしまの音30景”にも選ばれました。
青釉薬(磁釉)が多く使われるため『青ひび』と呼ばれますが、『灰釉(かいゆう)』や『あめ釉(ゆう)』、『白流釉(しろながれゆう)』なども使用されます。また、貫入によって生み出されるひびの柄には二つとして同じものはありません。
なお、震災後青釉薬原料である砥山石の入手が困難になったため、一般的な材料を組み合わせた釉薬が使われています。研究を重ね、従来品に劣ることのない”青ひび釉”を再現し、大堀相馬焼を現在も作り続けることができたのです。
大堀相馬焼ならではの青ひびは、見た目に美しいだけでなく器を丈夫にし、親しみやすくほっこりとした素朴な印象も与えてくれます。
『二重焼き(ふたえやき)』は、器を焼く前に内側と外側をはめ込んである二重構造のことです。保温・保冷性にすぐれており、熱いものは冷めにくく、熱くても手に持ちやすくなっています。冷たいものを入れても結露が付きにくく、ぬるくならずに美味しく飲めるのです。
この二重焼きに欠かせないハートマーク型に見える穴は、浜千鳥が海辺で遊んでいる様子や浜千鳥の足跡を表したもの。これは『千鳥⇒千取り』に通じ、勝利と豊かさを表しているやはり縁起の良い柄です。
『馬の絵』は手描きで施された柄のことで、九頭馬(きゅうとうま)と左馬があります。大堀相馬焼に欠かせない特徴的な柄ですので、次の見出しで詳しく紹介します。
大堀相馬焼の馬柄焼き物でウマく行く!縁起の良さにも注目
大堀相馬焼の焼き物の代表格である馬の柄には2種類あり、左側を向いて走る「左馬」が一頭のみ描かれたもの、同じく左向きの九頭馬が描かれた「馬九行久(うまくいく)」柄があります。
顔と体が左を向いた「左馬」は、右に出るものがいないという縁起の良い意味。つまり、他のライバルをものともしない強さとパワーを秘めていますので、勝負運が欲しい方にピッタリです。
幸せを呼び万事がうまく行く風水グッズとしても知られています。また、かつてから九頭馬は九つの運気(勝負運・金運・出世運・家庭運・愛情運・健康運・商売繁盛運・豊漁豊作・受験合格)を表していると言われています。
そんな縁起の良い大堀相馬焼の馬柄の焼き物は、開業祝いや開店祝いを始め、目標に向けて頑張る人に対する応援メッセージを込めた贈り物としても喜ばれています。
自分へのご褒美として普段使いできる茶碗やカップなどに、大堀相馬焼の馬柄陶器を選ぶのも良いでしょう。いろいろなことがウマく行きますようにという願いを込めて。
大堀相馬焼の見学・体験ができる場所
大堀相馬焼伝承館
所在地 | 福島県双葉郡浪江町幾世橋知命寺60 |
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電話番号 | 0240-35-4917 |
定休日 | 不定休 |
営業時間 | バーチャル伝承館24時間 |
HP | http://www.somayaki.or.jp/hall/index.html |
備考 | zoom陶芸体験,バーチャルろくろ体験,歴史学習などがあります |
創作陶芸京月窯
所在地 | 福島県福島市飯坂町平野字道南4 |
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電話番号 | 024-542-2818 |
定休日 | 不定休 |
営業時間 | 9:00~18:00 |
HP | https://kyogetsugama.jp/ |
備考 | 【体験メニュー】手びねりコース粘土500g 1,400円 絵つけ湯飲み茶碗 1、200円~ |