小田原漆器とは
小田原漆器は、神奈川県小田原市でつくられる漆器のことです。室町時代中期この地域には、ろくろ挽きが得意な職人集団が定住しており、箱根山系の良質な木材を使用して木地挽きした器物に、漆を塗ったのが始まりとされています。
職人たちの優れた挽き物技術や木材の質に加え、漆器づくりに適した小田原の気候や湿度も最適な環境です。さらに『板目(いため)技法』※と呼ばれる、ほかの産地にはない、木目の美しさを引き出す高度な技術もつかわれています。
小田原漆器の素地となる木材は主に欅(けやき)で、小田原漆器の約95%につかわれています。
そんな欅は、材質が強固でゆがみの少ない恵まれた木材ですが、成長過程で『狂い』と呼ばれる”反りやひねり”が出やすいという特性があります。そのため、長期間乾燥させないと加工段階に入れず、天日干ししかできなかった時代は大変手間がかかったのです。
現在、木地の乾燥には、乾燥器を使用している工房が多いものの、カラカラに乾燥しすぎてもよくないので、機械だけに頼らない熟練の経験を生かした、丁寧な木地づくりがなされています。
そのようにして時間をかけて木地を整えてから、削り、つくられる小田原漆器は、堅牢 なためお椀やお盆づくりに最適。つかい込むほどに美しい木目が際立つ経年変化が楽しめ、手になじみ深まる味わいも魅力です。
『普段づかいできる本物』として小田原漆器は大きく成長し、愛されて現在に至ります。
※木が生えている向きと並行(垂直)に原木から木地を切り出す技法
漆器づくりに最適な木材・職人・立地に恵まれた小田原漆器の歴史
室町時代後期に入ると、この地域を治めていた北条早雲(ほうじょうそううん)から数えて第3代の北条氏康(うじやす)が、漆器技術発展のために名の通った塗師を城下に招き、溜塗など『彩漆塗(いろうるしぬり)』技術を用いるようになりました。
彩漆とは生漆(きうるし)に朱や黒などの色を入れてつくられるもの。江戸時代に入ると、それらの技術を生かし、お椀や盆などの日用品だけでなく、鎧や兜など、武具類にも漆を塗ることができるようになったのです。
そのため、江戸中期には、継続的に実用漆器として江戸へ出荷できるようになりました。このようにして小田原漆器は、日本経済の波にも乗ることができたのです。
さらに、この頃の小田原周辺は、箱根関所がある東海道屈指の城下町、宿場町、温泉地としても知られ栄えるようになりました。関東の出入り口となる場所ですから、流通がスムーズで他地域への行き来にも便利。小田原漆器の需要はどんどん伸びて行ったのです。
そんな小田原漆器は1984年5 月に国の伝統工芸品に指定されています。
美しい木目の魅力が最大限に引き出された小田原漆器の特徴
小田原漆器でまず目につくのはその『木目』です。シンプルなデザインが多く、木(欅)本来の木目の美しさが生きています。小田原漆器につかわれている欅の「けや」は、『際立って目立つ』『美しい』という意味の『けやけし』が由来です。
そんな欅の美しさを最大限に引き出す技法には『摺漆塗(すりうるしぬり)』 と『木地呂塗(きじろぬり)』『彩漆塗(いろうるしぬり)』の3つがあります。
『摺漆塗』とは、木地に直接生漆を何度も摺り込む”胴摺り(どうずり)”と呼ばれる作業を何回も繰り返して仕上げる方法です。専用の布や紙をつかって摺り込むうちにだんだん美しいツヤが生まれます。
『木地呂塗』は、木地に砥石や砥の粉などをつかい、目止め※をしたあとで透明な漆を塗り、素地である欅の木目の美しさをさらに際立たせる方法です。シンプルな技法なだけに、素地の良さと透明漆の塗り技術のレベルが問われます。
『彩漆塗』は、生漆に顔料を加えて色を付けた漆を塗る技法で、朱漆や黒漆などがあります。
いずれにしても、小田原漆器では木が本来持っている木目の美しさを際立たせ、木地本来の色味を生かしたものが主流になっています。
※木地の気孔を埋めること
小田原漆器はシンプルモダンな木の優しいぬくもりを感じたい人におすすめ
日本国内にはたくさんの漆器があり、その多くが伝統的工芸品として指定されています。しかし、小田原漆器についてはまだあまりよく知らないという人も多いのではないでしょうか。
じつは小田原漆器は伝統工芸漆器のなかでも、シンプルモダンな製品が多いという特徴があります。たとえば小田原漆器のお椀やお皿なら、木目と木そのままの色が生かされたものが見つかるのです。
そのため、北欧系などのナチュラルなお部屋にもしっくりマッチするだけでなく、スタイリッシュな食卓には朱赤や漆黒塗りの漆器がよく似合います。
「伝統工芸品が話題だけど、あまり派手なものは結局つかわなくなりそう…」という不安も吹き飛ぶデザインが多いのです。
そんな、主張しすぎないシンプルモダンな小田原漆器は、見た目に美しいだけでなく、とても丈夫。また、つかい込んでいくうちに色褪せたように感じたときには、塗り直しに出すことができます。さらに漆の層が厚くなり、ツヤが増しさらに丈夫な器になるのです。
そんな小田原漆器を手で包み込むように持ってみると、木ならではのほっこりとする優しいぬくもりが伝わってきます。いつもの食卓がワンランクアップするかもしれません。
小田原漆器の見学・体験ができる場所
漆・器ギャラリー (石川漆器(株))
所在地 | 神奈川県小田原市栄町1-19-16 |
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電話番号 | 0465-22-5414 |
定休日 | 水曜日、年末年始(12/29~1/3頃) |
営業時間 | 10:00~18:00 |
HP | https://ishikawa-shikki.com/ |
備考 |
さまざまな漆器の展示・販売 工場見学のみ電話予約 |
街かど博物館 大川木工所 -木地挽き・ろくろ工房-
所在地 | 神奈川県小田原市南板橋2-226-2 |
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電話番号 | 0465-22-4630 |
定休日 | 不定休 |
営業時間 | 9:00~18:00 |
HP | http://okawa-mokkoujo.com/experience/index.html |
備考 |
漆の研ぎ出し体験料3,000円~、 オプション:制作後のツヤ出し |