石州和紙とは
石州(せきしゅう)和紙とは、島根県の西部、石見地方で作られている和紙のことをいいます。
職人の高い技術によって作られ、上品な光沢と柔らかさに加えて非常に高い耐久性を持つ石州和紙。古くは障子紙や書道用紙として、人々の生活を支えてきました。
最近では、その特性を活かした新たなインテリア製品や、桂離宮や二条城などの文化財の修復など、幅広い場面で使われています。
藩の財政を支えた石州和紙の歴史
石州和紙の歴史は大変古く、その始まりは約1300年前。万葉集の代表的な歌人「柿本人麻呂」が700年代前半に石見に紙漉き(かみすき)を伝えたと、1798年発行の「紙漉重宝記」に記載されています。平安時代の927年に編纂された「延喜式(えんぎしき)」には、石州和紙が朝廷に献上されていた記録が残されています。
石見地方の山間部、かつての津和野藩では、鎌倉時代半ばから和紙作りが奨励されていました。江戸時代になると、津和野藩に加え隣接する浜田藩でも奨励され、製紙業は手厚い保護と政策のもと発展。和紙は藩の専売とされ、財政を支える重要な役割を担いました。
江戸時代、石州和紙は半紙(縦約25センチ、横約35センチの紙)として、主に大阪に出荷されました。石州和紙を帳簿として使用していた大阪商人は、火事の際に大切な帳簿を井戸に投げ入れて守ったといいます。石州和紙は、井戸に浸かっても破れないほどの強靭性・耐久性がある和紙として信頼されていました。
紙の需要が多くなった明治、大正時代。石州和紙は技術開発の成果もあり、生産量が非常に向上しました。しかし、戦後は機械製造の安価な洋紙(パルプ紙)が出回り、和紙の需要は激減。また、冬の閑散期に都市部へ出稼ぎに出る者も増えたため、和紙産業は人手不足に。1889年には6377戸あった和紙の事業所は、1969年には8戸に激減しました。
しかし、石州和紙に関わる人々は伝統を継承し新たな開発を続けました。1970年には日本万国博覧会に石州和紙を出品。1986年には上質な紙が不足していたブータン王国の要請により、石州和紙の技術指導が行われます。その後も、専門家の派遣や研修生の受け入れなど、国際協力が続けられました。
1969年、伝統的な技術技法と後継者育成が認められ、「石州半紙」が国の「重要無形文化財」に、1989年には「伝統的工芸品」に指定されました。さらに2009年、手漉き和紙で初めてユネスコ無形文化遺産に登録。2014年には本美濃紙、細川紙と共に、ユネスコ無形文化遺産「和紙 日本の手漉き和紙技術」に再登録されています。
原料の優れた性質を活かして作る石州和紙の特徴
伝統を継承し技術を磨き上げた職人によって作られる石州和紙。その特徴は、気品あるきめ細かな質感と、強靭で長期保存に耐えうる耐久性の高さです。
石州和紙の原料は主に3種類の植物、楮(こうぞ)、三椏(みつまた)、雁皮(がんぴ)です。なお、和紙の特徴は原料によって異なります。
石州楮紙
石州和紙で最も多く生産されている楮紙。和紙の原料となる楮の靭皮(じんぴ)繊維は、平均10ミリ程です。ほかの原料に比べ非常に長く、絡みやすい性質を持っています。そのため、楮紙はとても強靭で揉んだり折ったりしても容易に破れないほど丈夫です。
石州和紙の中でも「石州半紙」は地元産の良質な楮で作られています。また、石州半紙は、ほかのほとんどの地域で使用しない、楮のしんと皮の間にある「あま皮」を取り除かずに使用します。それにより非常に強度が上がり、独特の光沢と薄緑色を帯びた和紙に仕上がっています。
石州三椏紙
原料となる三椏の靭皮繊維の長さは平均4ミリ程です。楮に比べ強靭性は劣りますが、とても繊細で弾力があります。できあがった和紙は上品な光沢を持ち、柔らかく滑らかな質感です。印刷用紙や書道用紙などに適しています。
石州雁皮紙
原料となる雁皮の靭皮繊維の長さは平均3ミリ程で、粘着力がある繊維です。できあがった和紙は、半透明で光沢があり、虫の害に強く防湿性にも優れています。
石州和紙の現代での使われ方とお手入れ方法
現在、石州和紙は伝統的なものから新たなものまで種類豊富に作られ、幅広い分野で使用されています。文具製品としては、書道などで使用する画仙紙や封筒、便箋、はがき、色紙などがあります。
新たな試みとしては、独特の美しい風合いを活かしたランプシェードや、タペストリーなどのインテリア製品が作られています。また、化学的な着色や漂白をせずに天然素材にこだわった石州和紙の赤ちゃん用の靴など、珍しい製品も登場しています。
石州和紙は郷土芸能「石見神楽」の面や衣装など、石見地方の伝統的な行事にも欠かせません。また、最近では地元だけでなく桂離宮や二条城の修理、海外の美術館の修復紙としても使われています。
石州半紙や、石州和紙の便箋や封筒などの保管は風通しの良い日陰が適しています。直射日光や湿気が多い場所での保管は、紙質が変化することがあります。
和紙できたインテリア製品のお手入れは、ハケや乾いた布でやさしくホコリを取り除きます。こすらないように注意しましょう。
石州和紙の見学・体験ができる場所
石州和紙会館
所在地 | 島根県浜田市三隅町古市場589 |
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電話番号 | 0855-32-4170 |
定休日 | 月曜日(祝日の場合は開館、翌平日休館)、年末年始(12/28~1/4) |
営業時間 | 9:00~17:00 |
HP | https://www.sekishu-washikaikan.com/ |
備考 |
販売、展示 |
西田製紙所
所在地 | 島根県浜田市三隅町古市場 1752 |
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電話番号 | 0855-32-0349 |
定休日 | お問い合わせください |
営業時間 | 【紙漉き体験】10:00~17:00頃 |
HP | https://nishitaseishisho.com/ |
備考 | 【和紙作り体験】2日前18時までに予約 体験予約可能日:土・日・祝日(月〜金 休み)※場合によって平日の体験も可能 初心者コース(料金1,080円~/所有時間30分~1時間) 本格手漉きコース(料金3,240円~/所有時間30分~1時間) 職人コース(料金5,400円~/所有時間 昼休憩含めて約5時間) |