本塩沢とは
本塩沢とは、新潟県魚沼市で作られている絹織物です。塩沢地方を中心に作られていることから、本塩沢と呼ばれています。八丁撚糸を使い、夏にピッタリなシャリ感とシボ感のある織物に仕上げているのが特徴です。
塩沢地方では本塩沢のほかに、塩沢紬や夏塩沢などの伝統織物も作られています。どの織物も職人の手によって丁寧に仕上げられているため、作品ごとに違った印象を感じられますよ。
ちなみに塩沢紬は日本三大紬として知られ、本塩沢と同じくシボ感が楽しめるのが特徴です。
本塩沢の歴史の背景に潜む麻織物
本塩沢の起源は、今から約400年前の江戸時代中期にさかのぼります。越後地方で作られていた麻織物「越後上布」や「越後縮」の技法を絹織物に転用し、本塩沢のような繊細な絹織物が作られるようになりました。江戸時代にはすでに本塩沢の原型ができあがっていたとされ、原型となった麻布は今でも正倉院に残っています。
豪雪地帯の越後地方は湿度が比較的高く、乾燥に弱い麻織物作りにはピッタリの環境でした。長く降る雪で外に出られない期間が続くため、家の中で淡々と作業ができる織物が流通していたとも言われています。寒い地域だからこそ、家にいる時間を上手く利用して上質な織物を作っていたのですね。奈良時代から作られてきた麻織物の技術である湯もみや手括りを上手く活かし、絹織物に取り入れたのが本塩沢です。
江戸時代に納められていたものの中に「絹縮」の記載があることから、少なくとも江戸時代には本塩沢が作られていたと分かります。江戸時代後期に堀次郎将俊が考案したシボ感のある織物が本塩沢の原型とされていますが、詳しいことは分かっていません。
同じ越後上布を起源とするものに「塩沢紬」がありますが、塩沢紬は紬糸を使って作られているのが特徴です。本塩沢は全て生糸を使って湯もみで仕上げているため、起源が同じでも大きな違いがあります。どちらも塩沢地方を代表する伝統工芸品で、まとめて「塩沢」と呼ばれることもあるので注意しましょう。
現在まで長く語り継がれてきた本塩沢の技法は、伝統工芸品に指定されました。経済産業省指定の伝統的工芸品になったのは1976年で、限られた職人によって1つ1つ丁寧に作られています。
「シャリ感」と「シボ感」の2つが特徴の本塩沢
本塩沢の大きな特徴は、シャリ感とシボ感の2つ。
もともと本塩沢は夏用の絹織物として有名で、シャリ感は夏にピッタリな涼しげな印象を表す言葉です。ふんわり軽くてサラッとしていて夏でも着心地がよく、体に密着しにくいものはシャリ感があると表現されます。主に麻織物に使われている表現ですが、本塩沢は麻織物の技術をベースに作られていることから心地よいシャリ感を味わえますよ。涼しげな雰囲気と着心地のよさから、夏用の着物やひとえなどによく用いられています。
また、もう1つの特徴であるシボ感は、生地表面の細かな凹凸を指す表現です。強くより合わせた強撚糸(きょうねんし)を経糸に使用し、ぬるま湯で湯もみすることで糸が縮んで強いシボ感のある織物に仕上げています。手で触ると表面の凹凸がよく分かり、本塩沢のシボ感をしっかりと感じられるでしょう。
シボ感を生み出すためには欠かせない強撚糸ですが、じつは一般的な撚糸の約3倍である1mあたり2,000回もの撚りをかけているのが特徴です。数字だけを見てもイメージが沸きにくいですが、普通の糸の3倍も撚りをかけることで強いシボ感を生み出しています。強く撚りをかけた撚糸はその分縮む力も強く、ほかの織物よりも凹凸が大きく出るのです。
模様は亀甲絣(きっこうかすり)や十字絣(じゅうじかすり)など繊細なものが多く、作り手のこだわりや技術の高さが感じられますね。非常に細かく鋭い模様は、本塩沢独特の作り方だからこそ生み出されます。
落ち着いた色合いのものが多いのも特徴で、若い人から年配の方まで幅広く愛用できるでしょう。
本塩沢の現代の形とお手入れ方法
伝統工芸品に指定されている本塩沢ですが、現代では着物や袴などさまざまなものに活用されています。伝統工芸品と聞くと高価なものをイメージしがちですが、中にはリーズナブルな価格のものもありますよ。着物のもととなる反物はもちろん、仕立て終わった着物も購入可能です。
現代では本塩沢のほかに「夏塩沢」と呼ばれる織物も作られています。夏塩沢は夏に着られるよう、より涼しさや快適さを追求したものです。本塩沢と違って伝統工芸品には指定されていませんが、本塩沢を改良して作られた涼しげな質感を楽しめます。
本塩沢は水に弱く、濡れてしまうと縮む性質があるので注意しましょう。ぬるま湯を使って湯もみすることでほどよく縮み、凹凸が生まれるように設計されているので水には弱い性質があります。購入した着物などは水に濡れないように注意するのはもちろん、撥水コートを施したり湿気に注意しながら管理してみてください。濡れてしまった場合はそのまま乾かすと縮んでしまうため、回復させるのはなかなか難しいでしょう。
濡らしてしまった本塩沢の生地を修復したいのであれば、着物店や購入した場所にお願いすると安心ですよ。買った場所であれば、保証が付いている場合もあるので確認してみてください。
本塩沢の見学・体験ができる場所
塩沢つむぎ記念館
所在地 | 新潟県南魚沼市塩沢1227-14 |
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電話番号 | 025-782-4888 |
定休日 | 年末年始 |
営業時間 | 9:00~17:00 |
HP | http://www.tsumugi-kan.jp/ |
備考 | 織物体験や各種イベント、記念館の見学や人形作り体験ができます。 |
伝統工芸 青山スクエア
所在地 | 新潟県南魚沼市塩沢1507-1 |
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電話番号 | 025-782-1124 |
定休日 | 不定休 |
営業時間 | 9:00~17:00 |
HP | https://www.yamadaori.jp/ |
備考 | 本塩沢や夏塩沢、塩沢紬の工房見学や機織体験ができます。 |