駿河竹千筋細工とは
駿河竹千筋細工(するがたけせんすじざいく)は、静岡県静岡市を中心に生産される竹の工芸品です。千筋(せんすじ)とは、畳の幅約90センチに1000本並べられるくらい細い竹ヒゴを意味しています。マタケやモウソウチクを細い丸ヒゴにして、1本ずつていねいに組みあげた花器や菓子器は、緻密で繊細な美しさを放っています。1976年に経済産業大臣より国の伝統的工芸品として指定されました。
徳川家康のお膝元で栄えた駿河竹千筋細工の歴史
駿河竹千筋細工の歴史は江戸時代初期にさかのぼります。岡崎藩士の菅沼一我(すがぬまいちが)が、立ち寄った旅籠(はたご)の当主の息子、清水猪兵衛に竹細工の技術を伝えたことから始まりました。
駿河(現・静岡市)を流れる安倍川の流域は、古代から良質の竹が自生していました。弥生時代の登呂遺跡からは竹のザルやカゴが出土されたこともあり、この地では古くから竹製の雑器が生活に根づいていたことがわかります。
徳川家康はこの駿河の地で、幼年期、壮年期、晩年と三度過ごしました。とくに晩年の大御所時代には、江戸幕府との二元政治で駿府城が大きな影響力を持ち、政治や外交の中枢都市として繁栄。駿河は城下町、宿場町として文化が発展していったのです。
駿河の竹細工は、江戸時代、武士の狩猟や旅に使用していた編み笠が籐製で高価だったため、安価な竹製に改良したことに始まりました。そのころは下級武士が内職として編み笠をこしらえていたのですが、鷹狩りが好きな家康は、鷹の鳥かごや餌のための虫かごをつくらせるようになりました。
そのころ諸国を行脚していた菅沼一我は、この竹細工に興味を持ちました。一我は歌道、茶道、華道、機織りなど多数の芸に秀でており、竹細工においても丸ヒゴを繊細に編む技術を生み出し、清水猪兵衛に伝授したのです。その後、清水猪兵衛のもとには数名が弟子入りし、改良を重ねて繊細な竹千筋細工となっていきました。駿河の特産の竹千筋細工は、参勤交代をする大名に販売され、人気を博します。
駿河竹千筋細工が産業として確立したのは、明治時代初期、江戸から駿河に移り住んできた旧江戸幕府の家臣たちが、生計をたてるために内職として竹細工を始めてからです。内職から本格的な職業となってからは、「もみヒゴ」と呼ばれる千筋よりさらに細いヒゴをつくり、杯(さかずき)や盆の製造をしていました。その後、防虫、防カビのために漆を塗ったり、絹の布を張ったりと工夫を重ねていきました。
1873年、駿河竹千筋細工は日本の特産品として、ウィーン国産博覧会に出品されました。その繊細な美しさは諸外国からも好評を得て、海外に輸出するようになったのです。大正時代初期にはデザインや技術が向上して、代表的な製品である南京丸盆や六角盆が登場しました。
繊細な曲線が美しい駿河竹千筋細工の特徴
駿河竹千筋細工のおもな特徴は、整然と規則正しくならぶ細い竹の丸ヒゴを組んでつくられていることです。竹ヒゴの曲げ方や継ぎ方にも独特の技法を持っており、ほぼ1人で全工程をおこないます。原料はマダケやハチク、モウソウチクなどの竹を、熱湯でゆでて油を抜き、天日で乾燥させたものです。
竹の寸法をはかってノコギリで切り、皮を削って、なたで必要な寸法に割ります。小分けにどんどん割っていき、うすくうすくはいでいきます。はいだ竹の厚みをせん台という道具で一定にそろえます。うすくした竹を、熱した銅乱(どうらん)という鉄の道具に巻きつけ、曲げ輪をつくります。曲げ輪は先を細く削り、継手(つぎて)と呼ばれる独特の技術でつないでいきます。この技法でつなぐと、つなぎ目がわかりにくくなるのです。
つぎはヒゴづくりです。小刀で竹を割っていき、先を細くとがらせます。細く削った竹を「ヒゴ通し」という鉄板の小さな穴に通して削り、丸いヒゴをつくります。穴の大きさはいくつかあり、大・中・小と徐々に小さい穴に通していくのです。竹ヒゴは直線のまま使用する場合もありますが、熱したコテで曲げてさまざまな形をつくることができます。
曲げ輪にヒゴを通す穴をあけていき、最後に組み立てます。精巧な技によりできあがった駿河竹千筋細工は、素材のしなやかな風合いや、繊細な曲線に魅了される逸品です。
駿河竹千筋細工の現代とお手入れ方法
現代も駿河竹千筋細工は、花器や菓子器など伝統的な製品がつくられ、海外へ輸出もされています。その一方、最近のニーズに合わせて住宅のインテリア用品として行燈(あんどん)、ランプシェード、風鈴やお出かけ用のバッグなども製造しています。2018年には静岡竹工芸協同組合が特許庁による地域団体商標を取得しました。
駿河竹千筋細工のお手入れ方法:ちりやほこりは柔らかいハケではらいます。よごれは固くしぼったフキンで軽く拭いてください。水や湯の中で洗うことは禁物です。通気性の良い、乾燥した場所で使用すると、わび・さびの風合い、艶やかな色あいが増します。
宮島細工のお手入れ方法:米粒がつきにくいとはいえ、やはり木の杓子は使用する30分前くらいから水に浸しておくとよいでしょう。使用後は洗って、よく乾燥させることでカビなどが発生しにくくなります。そのほかの製品は、乾いた布で乾拭きをすると艶が増していきます。とくに肥松(こえまつ)と呼ばれる松の老木のヤニがまわった部分をつかった細工は、磨けば磨くほどあめ色に輝いていきます。
駿河竹千筋細工の見学・体験ができる場所
駿府匠宿(すんぷたくみしゅく)
所在地 | 静岡県静岡市駿河区丸子3240-1 |
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電話番号 | 054-256-1521 |
定休日 | 月曜日、年末年始 |
営業時間 | 10:00~19:00 |
HP | https://takumishuku.jp/ |
備考 | 駿府工芸館 大人500円、小・中学生300円 体験講座コースター2枚2,200円~ |
手づくり民芸工芸品 駿河屋
所在地 | 静岡市葵区田町1丁目15番地 |
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電話番号 | 054-273-0680 |
定休日 | - |
営業時間 | 電話受付平日9:00~17:00 |
HP | http://www.surugaya.com/index.html |
備考 | まずは電話でお問い合わせを |