駿河雛具とは
駿河雛具(するがひなぐ)とは、静岡県静岡市や掛川市、焼津市などで作られている工芸品です。雛具とは、台や屏風など、雛人形と一緒に飾る置物のことであり、嫁入り道具の雛形、つまりミニチュア版のことを指します。1994年に、当時の通商産業大臣(現・経済産業大臣)によって、国の伝統的工芸品に指定されました。
優美な装飾に彩られた駿河雛具の歴史
駿河雛具の歴史は、室町時代までさかのぼります。当時の静岡だった駿河では、公家の風習に基づき、若い婦人へ「ひいなはりこ」を送る風習が根付いていました。この「ひいなはりこ」の風習が、雛具の誕生へ結びついたとされています。
駿河雛具が生産され始めたのは、江戸時代初期、2代目将軍徳川秀忠の時代にあった久能山東照宮(くのうざんとうしょうぐう)の造営、更に3代目将軍徳川家光の時代にあった浅間神社(あさまじんじゃ)造営の際、全国から優秀な職人が多数集められたことによります。
彼らは建物が完成してからも、駿河の中心であった駿府(すんぷ)に留まりました。そして、木地指物(きじさしもの)、挽物(ひきもの)、漆、蒔絵(まきえ)などの技術を利用して、木漆工芸品を作っていました。
駿河雛具の製造が本格化したのは1882年頃とされ、蒔絵が施された、優美な装飾の置物が多く生産されるようになっていきます。更に、1902年頃には、漆器業者が雛具製造に参入するようになり、蒔絵の技術に加えて漆の技法も取り入れられるようになりました。
駿河雛具は手工芸でありながらも、木地、漆、蒔絵、金具などの製造工程を分業化することで、量産が行える体制を整えていきます。
なおかつ駿河が、江戸や京都などの人が多く集まる都市のちょうど中間地点に位置していたことで、大量に生産した製品を多くの人に購入してもらうことができたため、駿河雛具はますます発展していったのです。
精巧な作りが魅力的な駿河雛具の特徴
駿河雛具の特徴は、本物の嫁入り道具そっくりな精巧な作りにあります。細かい部分まで本物と同じ工程で製作された駿河雛具は、生きた人間が実際にそれを使っている風景を、ありありと想像できるようなリアリティに満ち溢れているのです。
また、一言で雛具といっても、御所車、箪笥、長持、鏡台など、小道具だけでも40近くの種類があります。そのような種類の豊富さも、駿河雛具の豪華さを演出するものになっているのです。
そんな駿河雛具ですが、これを製造するには多くの工程と職人の手が必要となります。駿河雛具作りは、まずベースとなる木地作りから。
木地作りに携わる職人は、指物師(さしものし)と挽物師(ひきものし)がいます。指物とは、釘などの接合道具を使わず、木と木を組み合わせて箱型の木地を組み立てることです。はめ込む際、木材の厚みが0.1ミリでも違えば組み立てることができません。そのため、組み立て作業には繊細な技術が要求されます。
また、挽物とは、ろくろを使って木材を削ったりくり抜いたりして、丸い形の木地を作ることです。こちらも、木を削る時の力の入れ具合によって形が変わってしまうため、慎重さが必要な作業となります。
指物師や挽物師の手によって作られた木地に、塗師(ぬりし)が塗装をしていきます。塗りには下塗り、中塗り、上塗りの3つの段階があり、塗りに使用する塗料は、漆のほかにも、臭いが少なくかぶれにくい「カシュー漆」などがあります。
こうした塗料を塗っては乾燥させ、なめらかになるまで削り、また塗料を塗っていく、という工程を何度も繰り返していくのです。
塗装が終わった木地に、今度は蒔絵師(まきえし)が蒔絵を施していきます。蒔絵は、漆で下絵を描いた上から、金粉や銀粉などを蒔いて絵を作ることです。
漆で下絵を描くことで、漆が接着剤となり、金粉や銀粉がその部分にだけくっついて美しい絵柄を浮かび上がらせるのです。蒔絵を施したあと、乾燥させてから羊の皮で磨いて艶を出せば、木地部分は完成します。
木地ができたら、次に飾りの金具部分を作るのが金具師。金具の素材には銅や銅の合金が使われ、雛具のふちの部分に取り付ける金属や、雛具の引き出し部分の持ち手の金具を作ります。そうした細かいパーツに、たがねという金属や岩石などを削るための工具で模様を付けていくのです。
金具ができたら、房師(ふさし)が紐で飾りの房を作っていきます。房の結び方にはたくさんの種類があるため、この工程には房師の技術が必要となるのです。
全てのパーツができあがったら、仕上げ師が最後に組み立てをします。多くの細かいパーツがあり、それらを伝統的な技術を駆使して組み立てていくことで、駿河雛具は完成するのです。
このように、駿河雛具を一つ作るだけでも、指物師、挽物師、下絵師、塗師、蒔絵師、金具師、房師、仕上げ師という数多くの職人が携わっています。精巧かつ複雑な作りである駿河雛具は、製造工程を分業化することで、その品質を損なうことなく現代にも受け継がれているのです。
駿河雛具の現代での使われ方とお手入れ方法
駿河雛具は現代でも、雛祭りの時に雛人形と共に飾られています。リアリティ溢れた精巧な作りに、蒔絵が施された豪華絢爛な雛具は、雛人形の優美さを引き立てる装飾品として活躍します。
そんな駿河雛具ですが、職人の手によって一つ一つ丁寧に作られた工芸品なので、大切に取り扱ってあげる必要があります。
まず、駿河雛具を雛人形と一緒に飾る時は、なるべくホコリが付かないようにアクリルケースやガラスケースの中に入れるのが無難です。
ホコリが付いてしまった場合、羽ばたきなどで優しくホコリを落としてください。汚れや破損などが激しい時は、購入したお店に持ち込むのが一番確実な方法です。
また、雛祭りが終わって収納する時は「風通しがよく湿気が少ない」「直射日光が当たらない」「寒暖差が少ない」という3つの条件を満たす場所に収納する必要があります。
駿河雛具の見学・体験ができる場所
静岡雛具人形協同組合
所在地 | 静岡県静岡市駿河区八幡5丁目16-43 三和内 |
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電話番号 | 054-204-0324 |
定休日 | 土曜日、日曜日、祝日、年末年始 |
営業時間 | 9:00~16:30(問い合わせ受付時間) |
HP | https://www.shizuokajibasan.com/members-1/hinaguningyou |
備考 |
株式会社 望月屏風店
所在地 | 静岡県静岡市駿河区中野新田723 |
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電話番号 | 054-281-8432 |
定休日 | 無休 |
営業時間 | 9:00~17:00 |
HP | https://www.mbbt.co.jp/ |
備考 | 駿河雛具の販売を行っています。 |