天明鋳物

天明鋳物

天明鋳物とは

天明鋳物(てんみょういもの)とは、栃木県佐野市で生産されている伝統的な鋳物です。

元は武器の製造から始まり、梵鐘(ぼんしょう)や仏像、燈籠、鳥居などの宗教的な備品の製造から、茶道文化が流行すると茶道具にも応用され、鍋や釜などの生活用品にも広まりました。

その素朴な魅力は歴史上の茶人や権力者にも愛され、日本を代表する鋳物となり、現代までその伝統が受け継がれています。

天明鋳物の歴史と、藤原秀郷の功績

天明鋳物の歴史は大変古く、平安時代にまでさかのぼります。

西暦940年に下野の国の統治を任されて京都から赴任した藤原秀郷が、河内から連れてきた5人の鋳物師(いもじ)に佐野の地で鋳物の生産を命じたのが始まりといわれています。

当時の関東は戦乱が起きるなど不安定な情勢でもあり、鋳物師を連れてきたのは武器の生産をさせるためでした。

鋳物の一大産地となった佐野は、梵鐘や仏像など寺社に関わる生産品を多く製造するようになります。

時は流れ戦国時代、茶の湯が流行し始めると、鋳物で茶釜などが作られ始めました。

安土桃山時代に入ると茶の湯の流行はますます盛んになり、名物と呼ばれる茶釜が数多く世に出回ることに。

著名な茶人や、時の権力者によって天明鋳物の名声は高められました。

さらに天明鋳物の名を広く知らしめたのは、豊臣家が滅亡するきっかけとなった京都の方広寺にある梵鐘が天明鋳物による生産物だったことです。

のちに江戸幕府が開かれると、巨大な江戸城の建築に天明鋳物の部品が数多く使用され、そのために江戸に鋳物師が多く移り住みました。

その後も日本各地の寺院の梵鐘や仏像、燈籠、神社の鳥居などに使用される格式の高い鋳物として認知されることに。

生活用品としても、天明鋳物は茶釜や鍋などが庶民に浸透していきました。

明治に入ると時代の流れで高価な鋳物製品が作られることは少なくなり、次第に生産規模は縮小してしまいます。

細々と伝統を守ってきた天明鋳物は、近年美術的価値を高く評価され、伝統工芸品として息を吹き返してきています。

素朴な美しさを持つ天明鋳物の特徴

天明鋳物の特徴は、素朴で力強い雰囲気を持つことです。

表面は荒く、ごつごつとした印象で、一つ一つの生産物にオリジナルの風合いがあり、見た目の荒々しさに反して独特の肌ざわりやぬくもりが魅力的です。

天明鋳物の生産は現在でも昔と同じように手作業中心で、伝統的な工法で行われており、一つ一つの生産物が丁寧に作られています。

天明鋳物の生産で使用される道具の数々は非常に年季が入っており、先人たちから受け継がれ長い年月をかけて使い込まれています。

鋳物師の言葉を借りると、「道具の一つ一つに先人たちの魂が宿っており、神秘的な力が宿っている」といわれるほど。

千年を超える伝統の重みが、このようなところにも表れています。

天明鋳物は梵鐘や仏像などの神仏に関わる生産品を数多く生産してきたので、鋳物師は神仏に近いところにいる存在として崇められてきました。

また、天明鋳物は茶の湯とともに発展しましたが、茶釜や鉄瓶は現在でも主要な生産品です。

生産工程のなかで防錆加工がされており、酸化被膜に覆われているので、さびにくく長持ちすることが特徴です。

これらは見た目の美しさがあるのはもちろん、実は健康的なメリットも。

茶釜や鉄瓶で沸かしたお湯には鉄分が含まれており、身体に自然な形で程よく鉄分を摂取することができます。

また、鉄製の茶釜や鉄瓶には水道水に含まれる塩素を除去する働きまであり、近年の健康志向の高まりとともに再評価されているのです。

天明鋳物の現代での使われ方とお手入れ方法

天明鋳物は、伝統的には寺社の道具として多く使用されてきました。

近年では茶道具や調理道具などの生活用品に加え、文鎮・風鈴・灰皿などの小物や、表札などに使用できるプレート、機械の部品にも数多く応用されています。

また、人物や動物などのレリーフや、神仏などを表した置き物なども、美術品として好評です。

昭和の遊びとして代表的なベーゴマも天明鋳物の生産品の一つで、現在でも生産されており、子供たちやマニアの間で人気となっています。

天明鋳物のお手入れ方法は、さびさせないことが基本です。

さびを防ぐために製造工程のなかで酸化被膜が付けられているので、これを傷つけるようなことは避けなければなりません。

茶釜や鉄瓶は、使用後によくすすいだあと、乾かして水分を除去することにより、さびを防ぐことができます。

鍋などの調理用具は使用する前に油を引いて馴染ませることで、長く愛用することができるでしょう。

調理の最中にも表面を傷つけないことが重要で、金属製のへらなどは使用せず、木製やシリコン製の道具を使用することが望ましいです。

また、鋳物の鍋は強火で使用すると傷むので、強火で加熱することは避けましょう。

いずれの製品も、汚れが付着しても粒子入りの洗剤を使用したり、金属製のたわしでこすったりしてはいけません。

保管するときは完全に乾かしてから湿気の少ない風通しの良い場所に置くとよいでしょう。

天明鋳物の見学・体験ができる場所

佐野市観光物産会館

所在地 栃木県佐野市金井上町2519
電話番号 0283-21-5111
定休日 年中無休
営業時間 9:00~18:00
HP http://sano-kankokk.jp/information/169/
備考 【天明鋳物の販売】 生活用品から玩具まで、さまざまな天明鋳物を販売しています。 佐野市内の天明鋳物散策ガイドマップも配布しています。

栗崎鋳工所

所在地 栃木県佐野市亀井町2618
電話番号 0283-22-0952
定休日 日曜日
営業時間 9:00~18:00
HP http://www.sctv.jp/~kurisaki-imono/
備考 【オーダーメイド】 オリジナルのベーゴマ、鋳物製文鎮、たい焼きプレート、人物やペットなどのレリーフのオーダーが可能です。 【制作体験】 定期的にトレーなどの製作体験ツアーを開催しています。詳しくはお問い合わせください。

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