十日町明石ちぢみとは
十日町明石ちぢみとは、新潟県十日町市で生産されている伝統的な織物です。
古来から存在していた越後ちぢみに京都の西陣織の技術を応用し、より質の高い織物へと生まれ変わりました。
十日町の盆地状の地形と豪雪地帯の気候を活かし、熟練の職人の手によって織られた十日町明石ちぢみは、蝉の翅(はね)のようだとも表現される美しい織物です。
十日町明石ちぢみの歴史と洲崎栄助
越後には古来から製糸産業が存在していたと考えられており、約1500年前の製糸道具が十日町市の馬場上遺跡から発見されています。
かつて十日町周辺では苧麻(ちょま)という野草を原料にした麻布が生産されており、十日町産の織物は奈良の正倉院にも収められているほど当時から高く評価されていました。
江戸時代、この地には幕府の陣屋が置かれ直轄地となっており、上質な越後ちぢみは武士の公式な着物として認定され格式が向上します。
その後、越後ちぢみの技術は絹織物へと応用されます。
雪深い地域では農閑期に家屋の屋根裏で蚕を飼育することが多く、その習慣が地場産業となっていました。
時を同じくして播磨の国の明石では、船大工の娘の菊が、かんなくずをヒントにして明石ちぢみを開発したと伝わっています。
明治時代に入り、越後ちぢみ問屋の洲崎栄助は、それまで生産されていた十日町透綾(すきや)のさらなる発展のため京都の西陣織を参考にし、西陣織が明石ちぢみを研究して作られていることに着目します。
周辺を山に囲まれている盆地で風が少なく、豪雪地帯で冬季の湿度が高い十日町ならば良い絹織物が生産できると考えた洲崎栄助は、十日町の技術者に明石ちぢみの生産を打診しました。
何年かの試作を重ね、この頃から強撚糸の技術も導入され始めた十日町明石ちぢみはやがて商品化され、宣伝の効果もあって明治中期には全国的に大流行。
その後、戦争の影響を受けて高価な織物の生産が規制されたため、十日町明石ちぢみは徐々に生産されなくなり、伝統が途絶える危機に瀕していました。
このままでは後継者もいなくなってしまうと現状を憂いた着物生産老舗の吉澤織物が、1998年に限定復刻として十日町明石ちぢみを生産し、その価値が見直されて現在に至っています。
「幻の蝉の翅」と表現される十日町明石ちぢみの特徴
十日町明石ちぢみの特徴は、薄物であるということ、さわやかで涼しげな肌触りで汗をかいても肌にべとつかないこと、緻密に織られた美しい図柄などです。
十日町明石ちぢみの薄い生地は蒸し暑い夏季に着用する着物として使用され、かつては全国で高い人気を誇っていました。
昭和に入って戦争の影響を受け生産量が落ちていましたが、近年再評価されて根強い人気を得ています。
十日町明石ちぢみの繊細な生地は「幻の蝉の翅」と形容されるほどです。
肌触りの良さは使用されている絹糸へのこだわりから来ており、強撚糸と呼ばれる緯糸(よこいと)は絹糸の純度の高い部分だけを使用しています。
強撚糸は1メートルあたり3000~4000回もの撚りが加えられており、シボと呼ばれる独特の凹凸を生み出すことが、汗をかいても肌にべとつかない心地良さを実現。
最高級の素材を使用して熟練の職人によって織られた十日町明石ちぢみは、地域民謡の十日町小唄で「着たら離せぬ味の良さ」と歌われているほどです。
十日町小唄は明治時代に十日町明石ちぢみを宣伝するためのCMソングとして用いられ、十日町明石ちぢみが全国的に大流行するきっかけとなりました。
十日町明石ちぢみの美しい図柄は夏の蒸し暑さを忘れさせてくれる涼しげで趣深い味のあるものです。
十日町明石ちぢみの現代での使われ方とお手入れ方法
十日町明石ちぢみは薄地で、夏向けの着物として最適です。
用途としては高級な振袖や留袖、日常的に着用する訪問着や付け下げなどに使用されています。
十日町明石ちぢみは日常的なお手入れをすることで長持ちさせることが可能です。
お手入れの際にはまず、十日町明石ちぢみを着物用のハンガーにかけ、汚れや傷みを目視や感触でチェックします。
汚れやすい場所は、汗が付きやすい胸や背中、ファンデーションや皮脂が付きやすい衿、泥はねを受けることが多い裾などです。
傷みやすい場所は、帯によって締め付けられる腰の部分や、擦れることが多い肘の部分などです。
十日町明石ちぢみは自分で洗うことは困難なので、汚れたら専門業者に依頼することになります。
専門業者に依頼すれば丸洗いや部分洗いが可能で、頑固な染みが付いてしまったときは染み抜きをしてもらうことも可能です。
着物を染みや油汚れから守ってくれるコーティングを施してもらう方法もあり、安心して外出することができるようになります。
十日町明石ちぢみの生地の傷んでしまったときや、色落ち・色ヤケをしてしまったときにも、専門業者に相談しましょう。
十日町明石ちぢみの見学・体験ができる場所
きもの絵巻館
所在地 | 新潟県十日町市寿町3-2-15 |
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電話番号 | 025-757-9529 |
定休日 | 月曜日(祝日の場合営業) |
営業時間 | 9:30~18:00 |
HP | https://www.kimonoemakikan.co.jp/index.shtml |
備考 | 展示大広間で多数の着物の展示と販売を行い、和装小物の販売コーナーもあり、工場見学や無料カタログを郵送してもらうこともできます。 |
株式会社青柳 明石工房
所在地 | 新潟県十日町市明石町18番地 |
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電話番号 | 025-757-1567 |
定休日 | 完全予約制 |
営業時間 | 15:00~(60分程度) |
HP | https://kimono-aoyagi.jp/ |
備考 | 【見学】2,500円~ (十日町明石ちぢみの見学の他、友禅コースの見学があります) 【絞り染め体験】3,500円 【摺り友禅体験】3,500円 【紬 手描染め体験】11,000円 |