十日町絣とは
十日町絣(とおかまちがすり)とは、新潟県十日町市を中心とした地域で作られている絹織物で、十日町紬とも呼ばれます。
十日町は古来より織物の産地として知られています。十日町明石ちぢみが特に有名ですが、独特の色柄で人気の十日町絣も、それと並行して発展してきました。
先に染色した経絣(たていと)と緯絣(よこいと)を巧みに組み合わせ、かすったような文様を織りあげる絣(かすり)。中でも、十日町絣は、手間ひまをかけた染色と、高度な織りの技術を駆使して作り上げられた、緻密で繊細な柄が特徴的です。
伝統的な文様や色味だけでなく、近年では現代的なセンスも取り込まれ、そのファッション性の高さで、多くの着物ファンを魅了しています。
着物の大産地の発展とともに歩んできた十日町絣の歴史
十日町市を含む魚沼郡一帯の織物業のはじまりは、飛鳥時代の天平文化の頃までさかのぼるといわれています。
苧麻(ちょま)と呼ばれる麻の一種を原材料とした麻布の生産に端を発し、江戸時代には、緯糸に強撚糸を用いてシボを作り出した「越後縮」が武士の間で人気を博しました。小千谷、堀之内、六日町、塩沢、十日町などの魚沼郡周辺は、高級織物の名産地として発展していきます。
この地域は、多い年には3メートル近くもの積雪がある、日本有数の豪雪地帯として知られていますが、その良質な雪解け水は染色に適しています。また、外に出られない長い冬の間に、人々は糸紡ぎと機織りにいそしむことで生活を支えてきました。雪国ならではの自然環境と人の営みが、高度な織物技術を育んできたのです。
1700年代前半には、それまで麻布が中心だった越後縮の技術は、絹織物に転用されます。1800年代後半、経(たて)にだけ絣糸を使う、経絣織の技術が定着し、明治初期には緯絣も織られるようになりました。この頃の技術の進歩は目覚ましく、「突絣(つきかすり)」などのさまざまな技法が開発されたといいます。
十日町は、1950年代には染商品へ進出し、後染の技術もあわせ持つ、総合的な着物産地として花開きます。十日町絣などの伝統的な先染め織物の技術も、脈々と現在に伝わっています。
1982年には、経済産業大臣により伝統的工芸品の指定を受けています。
その製作にはかなりの手間がかかることもあり、十日町絣を織れる職人の数は減少傾向にあります。しかし、職人たちは単に伝統技術を継承するだけではなく、新たな技術の開発も行い、今も魅力的なブランドを生み出しています。
職人の根気が織り込まれた十日町絣の特徴
十日町ちぢみも十日町絣も、技法としては同じ先染め織物です。ちぢみとは、糸をよじり合わせる「撚糸(ねんし)」に特徴のある生地を指すのに対し、絣は染色された「絣糸(かすりいと)」の組み合わせによってあらわされる柄、文様を指します。
十日町絣の最大の特徴は、絣模様の美しさ、繊細さにありますが、それを生み出すには技術や感性のみならず、極度の忍耐力が必要となります。
織物に使う糸を染める際、束になった糸の一部分だけを綿糸、平ゴムなどでくくることで、染料に染まらない部分ができます。この「くびり」の作業により、まだら模様に染め上がった絣糸を計算通りに交差させて織り上げることで、文様を描くことができます。
絣の基本技術はこのようになっていますが、実際の十日町絣を完成させるには、より複雑な工程が必要で、それらはすべて手作業で行われます。
まず、作りたい絣図案から「経絣定規」と「緯絣定規」を作成。定規をもとに、手延べ、墨付け、くびり、摺込みといった作業を経て、図案通りになるように絣糸を染め上げます。染め上がった経糸と緯糸を、ずれないようにあわせつつ、細心の注意を払いながら織っていきます。
設計通りの絣模様を織り上げるには、織るのと模様を合わせるのと同じくらいの時間がかかり、かなりの根気を要する作業となります。
こうして織り上げられた十日町絣は、絹独特の光沢と、繊細な絣模様が生み出す落ち着いた風合いが魅力となっています。
色合いも多岐にわたっており、飽きのこない縞、格子などの伝統的な文様が、ほっこりとした安心感を与えてくれます。また、民芸調の定番の柄ばかりではなく、現代的な色彩感覚と自由な発想で考案されたデザインも多く生み出され、カジュアルなシーンに溶け込む着物として人気を集めています。
近年は、織機にかけた経糸を、緯糸ですくうように文様を織り出す「すくい織」の技法を加え、2種の織りをひとつの反物で表現した織物も開発されています。伝統的な技法は、今もなお進化を続けているといえます。
十日町絣の現代での使われ方とお手入れ方法
十日町絣は、絹ならではのツヤに加え、柄も伝統的な文様から現代的でファッショナブルなデザインまでそろっているので、主にカジュアルなシーンでの普段着として好まれています。
生地としては非常に丈夫で、現代では需要の減少により生産量は減っているものの、価格は比較的安く、日常的に着こなす着物に適しています。
十日町絣は絹製品なので、お手入れの際は自宅での洗濯は控え、ドライクリーニングに出すことをおすすめします。
自宅でも洗えるようにしたいという方向けに、専門業者でウォッシャブル加工を施してもらうという方法もあります。
また、十日町市にはクリーニングも請け負う製造会社があり、そういったところでは、アイロンプレス、柄足し、仕立て直し、染替え、複合加工など、総合的なメンテナンスを行ってもらうこともできます。
十日町絣の見学・体験ができる場所
十日町市博物館
所在地 | 新潟県十日町市西本町1-448-9 |
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電話番号 | 025-757-5531 |
定休日 | 月曜日(祝・休日の場合は翌平日) |
営業時間 | 9:00~17:00(入館は16:30まで) |
HP | https://www.tokamachi-museum.jp/ |
備考 | 弥生時代から現在まで、技術革新によりさまざまに変化しながら続く十日町市の織物文化のすべてを展示。 |
道の駅 クロステン 十日町
所在地 | 新潟県十日町市本町6-71-26 |
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電話番号 | 025-757-2323 |
定休日 | 水曜日 |
営業時間 | 9:00~18:00 |
HP | http://cross10.or.jp/ |
備考 | 織物業をはじめとする地場産業の交流拠点。絹織物、和装小物などを各店舗にて展示・販売。 |