東京手描友禅(とうきょうてがきゆうぜん)とは
東京手描友禅は、東京都新宿区、練馬区、中野区などで製造されている着物のことをいい、経済産業大臣指定・伝統的工芸品、東京都知事指定・伝統工芸品に認定されています。
江戸の文化に影響を受け、華やかさを抑えた色と職人による斬新なデザインが特徴です。
「京友禅(きょうゆうぜん)」、「加賀友禅(かがゆうぜん)」と合わせて「日本三大友禅」といわれます。
東京手描友禅の歴史と宮崎友禅斉
東京手描友禅は、江戸時代初期の1680年頃、加賀染めの扇工であった宮崎友禅(みやざきゆうぜん)が創始し、江戸に移り住んだ京都の絵師らによって独自に発展してきました。
宮崎友禅は、本名を日置清親(ひおききよちか)といい、能登国(のとのくに、石川県)に生まれ、加賀染めを習得したといわれています。京都の知恩院(ちおんいん)前には宮崎友禅の像が建てられており、江戸時代中期に京都で扇絵師として知られていました。井原西鶴(いはらさいかく)の「好色一代男(こうしょくいちだいおとこ)」に「扇も十二本祐善(友禅)が浮世絵」と名を残しています。呉服屋の依頼により着物の雛形も描くようになり、友禅染は江戸でも人気を博しました。宮崎友禅著「元禄模様余情雛形」には小袖の染色模様の見本が示され、当時の流行や染めの技法を伺い知ることができます。
江戸幕府の「奢侈禁止令(しゃしきんしれい)」によって贅沢な手絞り染めや刺繍が禁止され、その代わりとしてデザインされた小袖に小紋模様は、単彩でありながら江戸の粋を感じられ、江戸っ子の間で人気を博しました。
東京手描友禅の製作過程の友禅流しは隅田川や神田川の河川流域で行われました。反物の切り売りや着物の仕立てを行った越後屋呉服店(えちごやごふくてん)は日本橋に開店され、その染工場は神田川上流域にありました。江戸時代中期には、町人文化が発展するとともに、粋やさびを取り入れた工芸品となり、庶民の生活に取り入れられています。東京手描友禅を代表するものとして、上前身ごろと下前見ごろの裾に模様がある江戸褄(えどづま)があり、その洒脱なデザインを受け継いだのが黒留袖(くろとめそで)です。
現代では、伝統を重んじながら東京らしい新しい表現を探求した東京手描友禅が制作されています。代表的な作家には、人間国宝に認定された中村勝馬(なかむらかつま)区、板橋区などに工房を構え、専業で創作活動を行っています。
シンプルさを基調とした東京手描友禅の技法
東京手描友禅の特徴は、図案構想から仕上げまでの全ての工程を一人で担当し、型を用いず全て手描きで作られることです。代々伝わる技術・技法で伝統的な図柄を生かしつつ、注文者の希望やモダンなデザインを取り入れています。
製作工程は、絹織物の生地に紫露草の花を絞った青花液で下絵を描くことから始まります。下絵に沿って、色挿しではっきりとした色の違いをだすために、細く糊を置いていきます。その防染技法には、糸目友禅(いとめゆうぜん)、蝋纈染(ろうけちぞめ)、無線描(むせんがき)などがあり、もち米とぬか、塩、消石灰などを混ぜて作った糊を下絵に沿って置いていく糸目糊置きが主流です。指の力を加減しながら一定した細さの糊を置けるようになるまでには、集中と練習が必要です。次に、大小の筆または刷毛で色を生地に染み込ませていく手描友禅挿しを行います。ぼかしの技法で色を組み合わせたり、光を反射させる顔料を用いるのはひと手間です。江戸時代は火鉢を用いていたといわれていますが、現在は台の下にヒーターを置いた友禅机があります。
伏せ糊、引き染、蒸し、湯のしなどの工程が進んだら、刺繍を入れ、家紋を描く紋章上絵(もんしょううわえ)が行われることもあります。
東京手描友禅は、余白部分や糊を置いた白い線を生かし、ブラウン、グレーやブルーなどの渋めの色が好まれ、色数を抑えています。江戸で花開いた町人文化に影響を受け、江戸解模様(えどときもんよう)、御所解風模様(ごしょどきふうもよう)や茶屋辻(ちゃやつじ)模様などが用いられてきました。その都会的で洗練されたデザインは、現代においても江戸の粋として高い評価を得ています。
東京手描友禅の現代での使われ方とお手入れ方法
東京手描友禅は、1980年代に経済産業大臣指定・伝統的工芸品、東京都知事指定・伝統工芸品に認定され、江戸の伝統を受け継いで地域の文化を担っています。友禅黒留袖、友禅訪問着、友禅着物、友禅袋帯などがあり、幅広いシーンで着用されます。
東京手描友禅を代表する江戸褄は、前身頃から裾回しにかけて斜めに模様を置いたものです。裾を模様で埋め尽くした慶長模様(けいちょうもよう)をあしらって黒地に染め上げ、染め抜き紋を線描きする黒留袖は、落ち着いた色調と豪華さを兼ねそろえています。既婚女性の第一正装として長く着用されます。
昨今の斬新な絵柄には、動物や竜、宇宙の星座などのダイナミックな模様や、幾何学模様や街の風景などが染め上げられ、作り手の個性が色濃く出るのが特徴です。重厚感のある東京手描友禅は、着物だけでなく、伝統的な工芸品として愛され、宿の屏風やタワーの壁画、大小の掛け軸としても楽しまれています。
東京手描友禅(とうきょうてがきゆうぜん)の見学・体験ができる場所
日本工芸会
所在地 | 東京都台東区上野公園13-9 東京国立博物館内 |
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電話番号 | 03-3828-9789 |
定休日 | 月曜日(祝日の場合は開館、よく平日に休館) |
営業時間 | 9:30~17:00 |
HP | https://www.nihonkogeikai.or.jp/ |
備考 | 毎年全国の会場で日本工芸会主催の日本伝統工芸展が開催され、友禅着物や漆塗、象嵌、桐塑人形など多くの作品が展示されます。 |
東京都工芸染色協同組合
所在地 | 東京都新宿区中落合3-21-6 |
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電話番号 | 03-3953-8843 |
定休日 | 土曜、日曜、祝祭日及び年末年始12/29~1/5 夏季休暇8/13~8/17 |
営業時間 | 9:00~17:00 (昼休み12:00~13:00) |
HP | http://tokyotegakiyuzen.or.jp/ |
備考 | 【友禅挿し体験】3,500円(絹のハンカチ)、3,000円(綿のハンカチ)。体験日4日前までの電話予約が必要です。 |