土佐和紙とは
土佐和紙とは高知県いの町や土佐市周辺で作られている和紙です。土佐和紙は福井県「越前和紙」、岐阜県「美濃和紙」とあわせて三大和紙のひとつに数えられています。
生産地であるいの町や土佐市周辺には、仁淀川や四万十川など清流として名高い川が存在。
また、高知県の山間部で作られる楮(こうぞ)は繊維が長く絡みやすいという特徴があります。土佐の楮と美しい川の水が、薄くて丈夫な土佐和紙を作り出しているのです。
六歌仙と紙聖が紡いだ土佐和紙の歴史
土佐和紙の歴史は古く、平安時代中期の法典「延喜式(えんぎしき)」に紙の生産地として土佐の地名が挙げられています。その頃、平安時代を代表する六歌仙のひとりであり、「土佐日記」の作者として知られる紀貫之が、土佐の国司に就任。紀貫之は製紙業を奨励し、土佐和紙は天皇への献上品として納められるほどの品物になりました。
戦国時代後期には新たに草木染めの技術を取り入れた土佐七色紙(とさなないろがみ)が開発されます。土佐七色紙はその名の通り、紫色、青色、薄青色、薄緑色、黄色、柿色、桃色の7色に染められた土佐和紙です。ヤマモモやクチナシなどの植物で染められた土佐七色紙は高く評価され、江戸時代になってからは土佐藩から幕府への献上品として保護されます。これにより土佐和紙は土佐の名産品として広く知れ渡るようになりました。
江戸時代後期から明治時代にかけては、「紙聖」や「日本紙業界の恩人」とも称される吉井源太が、土佐和紙の紙漉き技術を大幅に向上させます。いの町出身で、紙漉きの家に生まれた吉井源太。彼は紙漉きに情熱を注ぎ、1894年には社会奉仕活動で大きな功績を残した者に贈られる、緑綬褒章を授与されています。
吉井源太は大型の連漉き器(れんすきき)を開発。連漉き器により、和紙の生産効率は従来の3倍以上になりました。吉井源太の和紙業界の改良はそれだけにとどまらず、28種類もの和紙を開発・改良し、世に送り出しています。彼の著書「日本製紙論」は紙漉き職人の視点で和紙の特徴や製造工程が具体的に記述されており、現代でも高く評価されています。
吉井源太が開発した和紙のひとつ、土佐典具帖紙(てんぐじょうし)。手漉き和紙の中でもっとも薄く丈夫な土佐典具帖紙は、タイプライター用紙として重用され、欧米諸国へもさかんに輸出されていました。和紙生産の最盛期であった明治時代中期の高知県は、全国トップクラスの生産規模を記録しています。しかし、第一次世界大戦の不況のあおりを受け、手漉き和紙産業は徐々に衰退。次第に機械での製紙が中心になります。そのような中でも伝統を守り、生産を続ける人々と平安時代から続く歴史が認められ、土佐和紙は1976年に国の伝統的工芸品に指定されました。
土佐の土地が育んだ透ける土佐和紙の特徴
土佐和紙の特徴はその薄さと丈夫さです。
土佐和紙の製造工程
土佐和紙の主な原料は3種類。楮(こうぞ)、三椏(みつまた)、雁皮(がんぴ)です。土佐和紙はこれらの植物の皮から作られます。まず、原料を洗って、一定時間水にさらしたあと、原料を数時間かけてソーダ灰や消石灰と煮込んでいきます。これらアルカリ性の溶液と煮込むことにより、原料の皮から繊維のみを取り出すことが可能です。
煮沸したあとはまた水にさらします。その後、さらし液を使用したり、4日ほど天日干しを行ったりすることで原料を漂白。白くなった原料からゴミを取り除き、繊維を叩いて細かくします。叩きの工程では機械も使われますが、伝統的には団子状にまとめた原料を樫の棒で叩いて細かくします。叩きの後は「こぶり作業」。細かくした繊維をこぶり篭という専用の篭に入れ、水の中に沈めてかき混ぜます。このこぶり作業により重なっている繊維を分散。こぶりでいかに繊維を綺麗に分散させるかが土佐和紙の紙質を左右します。
こぶりの後はいよいよ紙漉きです。吉井源太が開発した連漉き器を使い、原料とトロロアオイから作った糊を水と混ぜて流し漉きを行います。漉き器を前後左右に揺らすことで、用途に合わせた厚みの紙を一枚ずつ作成。一定の厚みに紙を漉くこの作業には熟練の技が必要です。漉いた紙は脱水され、日光や火力で乾燥。その後、用途に適した大きさに裁断され、出荷されます。
カゲロウの羽と表される土佐典具帖紙(てんぐじょうし)
土佐典具帖紙は薄さ0.03~0.05ミリ。手漉き和紙の中でもっとも薄いこの和紙は、置けば下の背景が透けるほどです。そのため、カゲロウの羽と呼ばれています。それほどの薄さでありながら、丈夫な和紙として世界的にも知られ、かつてはタイプライター用紙、現在は文化財修復用の紙としても需要が高まっています。イタリア・ローマのシスティーナ礼拝堂に描かれた天井画や、ミケランジェロ作「最後の審判」の修復にも、土佐典具帖紙が使用されました。
高知県産の楮が、他県産と比べて太く長い繊維を持っているからこそ生産できる、土佐和紙の代表的な品物です。
土佐和紙の現代での使われ方
土佐和紙は種類や用途が豊富です。障子紙や書道用紙だけでなく、ちぎり絵や美術写真用、壁紙や屏風紙にも使われています。
さらに現在では名刺やレターセット、コースター、うちわ、色紙など手に取りやすい商品も多数生産。
かつての土佐七色紙の流れを引き継ぎ、さまざまな色味の和紙も作られています。
土佐和紙の見学・体験ができる場所
いの町紙の博物館
所在地 | 高知県吾川郡いの町幸町110-1 |
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電話番号 | 088-893-0886 |
定休日 | 月曜日(祝日の場合は翌日)、12/27~1/4 |
営業時間 | 9:00~17:00 |
HP | https://kamihaku.com/ |
備考 |
紙漉き体験:開館日は毎日 流し漉き体験:毎月第1日曜日のみ |
土佐和紙工芸村「くらうど」
所在地 | 高知県吾川郡いの町鹿敷1226 |
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電話番号 | 088-892-1001 |
定休日 | 水曜日 |
営業時間 | 9:00~17:00 |
HP | http://www.qraud-kochi.jp/ |
備考 | はがき・色紙作り体験、宿泊も可 |