豊橋筆とは
豊橋筆とは愛知県豊橋市やその周辺の東三河で生産されている筆です。
豊橋筆は高品質なことで有名で、多くの書道家が愛用するだけでなく、化粧品の筆、工芸品としても生産されており、その種類も豊富。
1976年に伝統的工芸品として、国より認定されています。
武士の副業から始まった!?豊橋筆の歴史
豊橋筆の歴史は、1804年の江戸時代後期に遡ります。
現代の豊橋市の地域にあたる吉田藩は、財政難に陥っていました。そして財を賄うための手段がないか考えた末、筆づくりに目をつけたのです。
豊橋は山間部にあるため獣毛が手に入りやすく、さらに地理上、東海道五十三次の宿町場でもあり、製造した筆を全国に流通させることも可能でした。
そこで藩主は、京都の職人を藩のために筆をつくる御用筆匠(ごようふでしょう)として迎え入れ、下級武士たちに副業として筆の製造を奨励したのです。
それが功を奏し、豊橋筆の製造は非常に盛んになっていきました。
その後、明治に入ると芳賀次郎吉が筆の改良を始めます。以前の筆の製造法は芯巻筆(しんまきふで)という方法で、これを改良し水筆という製法で筆を製造するようになったのです。
そして、この水筆に弟子の佐野重作がさらに改良を加え、現代の豊橋筆の基礎が築かれていくこととなりました。
野生動物の毛質を活かし、美しさと気品を高めた豊橋筆の特徴
豊橋筆には、原材料に狸(たぬき)やイタチなどの獣の毛が使用されています。
豊橋は自然豊かな土地のため、天然の動物の毛が手に入りやすく、江戸時代には質の高い獣毛がとれました。
しかし現在は天然の獣毛は貴重なものとなり、中国からの輸入が主になっています。その中からいかに良質な獣毛を選べるかが職人たちの腕の見せ所です。
良質な獣毛を使用した豊橋筆の毛筆は墨になじみやすく、滑らかな書き味を感じさせると、長きに渡り多くの書道家から愛されています。
このような筆をつくるための過程は、とても緻密な技術を要します。
まず原毛の選別が大事です。筆先の使う場所に応じ、毛丈の長さや質などを目で見て選別していきます。
機械ではできない大変緻密な作業で、長年の経験が必要な職人技が必要です。
次は、動物の毛にある天然の油や汚れをとる作業です。これを「毛もみ」といいます。
動物の毛はもともと水をはじくようになっています。そのため、この油をとることで筆が墨汁をよく吸うようになるのです。
毛を一定の長さに揃え、油をとるために、もみ殻を焼いて作った灰と、鹿のなめし皮を使って毛をもみ上げ油をとっていきます。
そして、次の工程が豊橋筆の大きな特徴を作り出してきた、「練りまぜ」という特殊な工程です。
練り混ぜは、豊橋筆に使われるそれぞれの獣毛の特徴を活かし、硬さや弾力の違いなどを使い分け、水を用いて練り合わせていきます。
野生動物の毛は、品質が一定ではありません。しかし、ひとつの筆に何種類かの柔毛を混ぜていくため、品質を一定にする必要があるのです。
どの獣毛をどれくらいの量混ぜていくかは、職人の長年の経験と感覚によって判断されていきます。
穂先の配合が均一で、美しい仕上がりは、まさに匠の技といえるでしょう。
多様な獣毛のそれぞれの性質を知り尽くし、混ぜ合わせることによって書道用、日本画用、工芸品用など何百種類もの用途の違う筆を生み出していきます。
たとえば硬い毛を持つ馬やたぬきの毛は固い筆をつくるのに向いています。
反対に柔らかな書き心地の筆をつくるには、柔らかい毛を持つ動物、たとえばヤギなどの毛を使い、その性質にあった獣毛を何種類も練り合わせていきます。
その絶妙なバランスにより、墨になじみやすい性質が保たれ、筆の書き味が安定した高品質の筆がつくられるのです。
豊橋筆の現代の使われ方とお手入れ法
豊橋筆は、高級筆として書道家だけでなく日本画家にも愛用され、また高級化粧品筆や工芸品としても高い評価を得ています。
しかし一時期は、戦争などにより筆職人が激減してしまい、書道の授業がなくなるなど、豊橋筆の存続自体も危ぶまれました。
ですが、現在では書道が義務教育として復活。また有名書家がアートとして書を広げ、企業ロゴやお酒のラベルなどにも書が使われるなど、新しい広がりとともに、毛筆の需要も増えています。
豊橋筆は高級筆なので、大切に長く愛用していきたいものです。そのためにも日々のお手入れは必須。
筆は、毛の根元部分をもみほぐすように、ぬるま湯でしっかりと洗います。30~40℃くらいがベストです。
とくに大事なのが毛の差し込み部分です。この部分は奥まで毛が差されており、墨などが入り込んでいます。
差し込み部分に墨や水気が残っていると、毛が腐ったり割れたり、抜けたりしてしまうこともあるので、何度も根元部分を丁寧に洗って、墨を落としていきます。
洗い終えた筆は優しく絞り、筆吊りなどに吊るしてしっかりと自然乾燥させます。
乾かないうちに再び使用すると、根本の部分がなかなか乾かず、腐ってしまう原因になるので、気をつけましょう。
豊橋筆の見学・体験ができる場所
愛知県経済産業局 産業部 産業振興課
所在地 | 名古屋市中区三の丸三丁目1番2号 |
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電話番号 | 052-954-6341 |
定休日 | 土曜日・日曜日・祝日 |
営業時間 | 9:00~17:00 |
HP | https://www.pref.aichi.jp/sangyoshinko/densan/501.html |
備考 | 公的工房はありませんので、製造者一覧をご覧ください。 |
筆の里 嵩山工房
所在地 | 愛知県豊橋市嵩山町下角庵1-8 |
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電話番号 | 0532-88-2504 |
定休日 | 土曜日・日曜日・祝日のみ要予約 |
営業時間 | 9:00~15:00 |
HP | https://www.toyohashi-fude.com/ |
備考 | 太筆作り体験 1,500円 細筆作り体験 1,000円 ミニ筆ストラップ作り体験 500円 |