津軽塗とは
津軽塗(つがるぬり)とは、青森県弘前市周辺の津軽地方で作られている漆器です。その伝統的な製法を長年守り続けてきたことにより、1975年に経済産業大臣より、伝統的工芸品の指定を受けています。また、2017年には、国の重要無形文化財にも指定されています。
衰退と再興を繰り返してきた津軽塗の歴史
津軽塗の起源は江戸時代中期、津軽藩4代藩主である津軽信政の時代まで遡ります。流通が発達したこの時代は、物品の流通が盛んに行われていました。
各藩がそれぞれの地域の産業を保護・奨励するようになり、多くの工芸品が生まれました。信政も藩内の産業を育てるため、多くの技術者や職人を招きます。
そんな中、信政が福井県より招いたのが、塗師・池田源兵衛でした。源兵衛は江戸に留学し、新しい塗りの技術を学ぶべく、青海太郎左衛門のもとに赴きます。
ところが、源兵衛は翌年、志半ばで病死してしまいます。父の意志を受け継いだのが、息子の源太郎。彼は、蒔絵師山野井の門で修行を積んだ後、父と同じく青海太郎左衛門のもとで、さまざまな技術を学びました。
青海一門の一子相伝の技術「青海波塗(せいかいはぬり)」を伝授され、津軽に戻った源太郎は師匠と父の名を取って「青海源兵衛」と名乗り、漆器の技術を磨いていきました。彼が培った漆器の技術は、やがて津軽塗へと形を変え、後世に受け継がれていくのです。
明治時代に入り、津軽藩が廃藩となったことで津軽塗は一時的に衰退してしまいます。しかし、1873年のウィーン万博博覧会に津軽塗が出品されると、再び津軽塗は人気を高めていきます。
その後の世界恐慌、第二次世界大戦によって、津軽塗の製作は再び衰退してしまいます。しかし、戦後は展示会の開催、展覧会への出品、関連団体の改革などが精力的に行われました。
津軽塗を絶やすまいとする人々の手によって、津軽塗は再び勢いを取り戻します。このように、津軽塗は衰退と再興を何度も繰り返しながら、現代に受け継がれていった工芸品なのです。
4つの変わり塗りに見られる津軽塗の特徴
津軽塗の特徴はなんといっても、全国的にも珍しい、4種類の「変わり塗り」の技法。これら4種類の技法は「研ぎ出し変わり塗り」と呼ばれる、何十重にも塗った漆を研ぎ出して模様を出す、津軽塗ならではの技法です。
ほかの産地の漆器は漆を塗った上から模様を描きますが、津軽塗では漆を塗ること、磨くこと、研ぐことを何回も繰り返すことで、独特の模様が生まれるのです。ここでは、それぞれの技法について簡単にご紹介していきます。
1.唐塗(からぬり):4種類の研ぎ出し変わり塗りの中でも代表的な塗り方。複数の色が浮き上がって見える、鮮やかな斑点模様が特徴的です。「唐塗」という名は、もともと中国からの輸入品を唐物(からもの)と呼んでいたことに由来し、「優れたもの」や「珍しいもの」という意味で使われていました。仕掛けベラという特殊なヘラで、凹凸のある斑点模様を施した後に塗りと磨きを繰り返すことで、漆の層の重なりによって何色も色が浮き出て見える模様が生まれるのです。
2.七々子塗(ななこぬり):模様をつけるために菜の花の種を蒔きつける塗り方。種によって生まれる丸い点々のような小さな模様が魚の卵のように見えるため、「魚子」という字が当てられることもあります。
3.紋紗塗(もんしゃぬり):黒漆で描いた模様に、もみ殻(津軽地方の呼び名は「紗」というの炭粉を蒔きつけ、研ぎ出して磨き上げる塗り方。明治維新以後はあまり見られない技法で、希少な塗り方です。研ぎ出し技法の中ではもっとも独特なもので、津軽塗ならではの塗り方ともいわれます。
4.錦塗(にしきぬり):七々子塗を基に作られた塗り方。七々子塗のベースに、黒漆で桜を描いたり、模様を描いた上から錫粉を蒔いたりして、より華やかに仕上げる技法です。4つの技法の中ではもっとも製作に時間が掛かり、高度な技術を要するものです。そのため、この錦塗を作ることのできる職人はごくわずかしかいません。
津軽塗の現代での使われ方とお手入れ方法
伝統ある津軽塗も、今日では、さまざまな種類の製品が作られています。箸、お椀、ぐい呑、重箱、下駄などの昔ながらの雑貨はもちろん、テーブルなどの家具、ティッシュケースやコースター、スマートフォンのケースなど、現代ならではの雑貨にも津軽塗が用いられるようになりました。
また、津軽塗を用いたネックレスやブレスレットなど、おしゃれなアクセサリーも作られています。シンプルなTシャツやワンピースに、ワンポイントとして津軽塗のネックレスを付ければ、パッと華やいだ雰囲気になること間違いなし。
上質な工芸品でありながら、普段使い用の雑貨から高級な贈答品まで、値段の幅もさまざまに取り揃えてあります。まずは値段もお求めやすい、普段使い用の雑貨からお手にとってみてはいかがでしょうか。
そんな津軽塗ですが、お手入れ方法のコツを知ることで、使い続けるほどに色合いが鮮やかに変わっていく様子を楽しむことができます。
まず、津軽塗はほかの漆器同様、乾燥や直射日光、極端な温度変化が苦手です。そのため、それらを避けてお手入れをする必要があります。
極端な温度変化を避けるため、電子レンジに器を入れないようにしましょう。また、熱湯も注がないように注意してください。漆器の適温は約70℃~80℃です。これは、お味噌汁の適温と同じなので、しっかり守ればおいしいお味噌汁を楽しむことができます。
洗う際はガーゼなどの柔らかい布をぬるま湯に浸し、よく絞って器を拭きましょう。汚れが酷い際には布に食器用洗剤を垂らして拭いてあげますが、その場合には乾いた布でしっかりと洗剤を拭き取ります。
鉄製のたわしなどは表面が傷ついてしまうので、硬いものでゴシゴシと磨くのは避けましょう。また、食器洗い機の使用も避けてください。
保存の際は、直射日光の当たらない、扉のついた棚にしまってください。特に、お正月など年に数回しか使わない場合、乾燥によるひび割れを防ぐために和紙などに包んで保管しておくとよいでしょう。ときどきは外部の湿気に触れさせておくことも必要です。
漆器は時間が経つほどに硬さを増して丈夫になっていくという性質があります。ぜひ、津軽塗の雑貨を長い間使ってみて、より生活になじんでいく様子を楽しんでください。
津軽塗の見学・体験ができる場所
津軽伝承工芸館
所在地 | 青森県黒石市大字袋字富山65-1 |
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電話番号 | 0172-59-5300 |
定休日 | 12/29~1/3、(12月~3月まで)月曜日 |
営業時間 | 9:00~17:00 |
HP | http://www.tsugarudensho.com/ |
備考 | 「研ぎ出し」の体験 |
小林漆器
所在地 | 青森県弘前市東城北3-3-12 |
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電話番号 | 0172-34-5681 |
定休日 | 年中無休 |
営業時間 | 9:00~17:00 |
HP | https://xn--m7r74kb7kroh.com/ |
備考 | 津軽塗の食器などの販売 |