雲州そろばんとは
雲州そろばんとは、島根県仁多郡奥出雲町で作られているそろばんのことです。
伝統的工芸品に指定されているそろばんには、雲州そろばんと播州そろばんの二つがあります。雲州そろばんは江戸時代後期から作られ、播州そろばんは安土桃山時代から作られました。雲州そろばんは、播州そろばんよりも歴史が浅いものの、「質の雲州そろばん」といわれ、高品質であることが認められています。
雲州そろばんは、鋼(はがね)の産地である奥出雲町ならではの良質な刃物や、そろばんの珠(たま)を作る道具を独自に発明して使用するなど、伝統技法が今も継承されています。
鋼の産地で宮大工が良質な刃物を用いて地産木材で作った雲州そろばんの歴史
江戸時代後期の1832年、島根県奥出雲町で宮大工をしていた村上吉五郎が、広島産のそろばんを修理したことをきっかけに、独自の技法も加えてそろばんを作り始めました。
そろばんの材料には、地元でとれる梅の木、樫、煤竹(すすたけ)を用いました。そろばんの珠の材料には硬い木材を用いるため、切れ味の鋭い刃物が必要です。
当時の奥出雲町は、たたら製鉄が全国に知られるほどに栄え、日本刀の材料である玉鋼(たまはがね)の産地でした。そのため鍛冶屋も多く、優れた刃物が多く作られていました。切れ味の鋭い刃物が身近にあったことで、硬い木材を用いる珠も容易に加工できたのです。
明治時代の初期、村上朝吉が、そろばんの珠を削るための道具である「手廻しろくろ」を発明するなど、画期的なそろばんの製法を確立。地元の職人たちに製法を教え、そろばんを地場産業とした生産体制の礎を築きました。奥出雲町は豪雪地帯で、冬の間は外仕事ができないため、冬でもできる仕事を模索していたこともあって、そろばん作りが最適な仕事として定着しました。
やがて、そろばんの行商が全国に出向くようになりました。雲州そろばんの名は、日本中に知れ渡るまでになりました。戦後は、手作りの製法だけでなく、機械製法も取り入れられ、大量生産ができるようになりました。1985年、雲州そろばんは、手作りの製法を保存するために伝統的工芸品に指定されました。
そろばんの命である「珠」一つ一つに職人が精魂込めて作る雲州そろばんの特徴
雲州そろばんは、珠を弾いた時の珠の動きに優れ、弾かれた珠が冴えた高い音を鳴らすところが特徴です。そろばんの命となるのは珠で、珠の仕上がり具合によって、そろばんの良し悪しが決まります。雲州そろばんは、珠の形と珠の穴の大きさが全て揃っているため、正確な技術があるとされ、「質の雲州そろばん」といわれているのです。
雲州そろばんの珠作りは、珠の原木である梅や樺、黒檀(こくたん)などの硬い木をくり抜いて「荒玉を作る」ことから始まります。次に、「口取り」、「中穴ざらい」、「仕上げ削り」、「面取り」、「染色」、「つや出し」、「仕上げ穴ざらい」などの工程を経て完成。
「口とり」の工程は、珠の高さを一定にする作業で、かんなを用いて行いますが、熟練の勘が必要です。
「穴ざらい」の工程は、珠の穴の大きさを揃える重要な工程です。職人が「中穴ざらい」と「仕上げ穴ざらい」を上手に仕上げるため、珠の動きが良いのです。
「仕上げ削り」の工程では、珠の形を揃える最も重要な工程です。荒玉を刃物で丹念に削り、同じ形の珠に仕上げます。この作業には、独自に開発した「手廻しろくろ」を用いますが、高度な技術や職人の熟練の勘が必要とされます。
「面取り」の工程は、「仕上げ削り」された珠が尖っていて欠けやすいために、それを防ぐ作業です。こちらも熟練の勘が必要です。
雲州そろばんは、そろばんの軸や枠などを作る工程を含めると、完成するまでに187もの工程があります。伝統技法を用いて作り、完成したそろばんには、職人の銘を刻むところが雲州そろばんの特徴。銘は、職人の誇りの証です。
雲州そろばんの種類と使用方法やお手入れ方法
そろばんは、使用目的によって、そろばんの長さや大きさや、そろばんの珠の原木が異なります。雲州そろばんの種類には、主なものに携帯用そろばん、学用そろばん、問屋そろばん、ワンタッチそろばんなどがあります。
ワンタッチそろばんとは、ワンタッチのご破算機能が付いたそろばんのことです。ご破算をする際、通常は指で珠を払いますが、ワンタッチそろばんは、ワンタッチボタンを押すだけでご破算ができます。速算できるため、検定試験や競技に向いています。
便利なワンタッチそろばんですが、使用の際は注意が必要です。ボタンを押す際は、軽く押すだけにしましょう。強く押したり斜めに押したりすると、そろばんが壊れてしまいます。勿論のことですが、ボタンはねじって外さないようにしましょう。ボタンが外れると中のバネが抜けてしまい、故障の要因になります。もしボタンやバネがなくなってしまった場合は、必ず修理に出してください。
どの種類のそろばんにも言えることですが、そろばんは湿気や熱に弱いため、日の当たらない涼しい所で保管しましょう。特に、車の中に入れたままには、絶対にしないように気を付けましょう。
そろばんを水に濡らしてはいけませんが、もし濡らしてしまったら、直ちに水分をふきとって、日陰の風通しの良い所で乾かしましょう。乾いても動きがおかしければ、必ず修理に出してください。
そろばんの使用後には、毎回、柔らかくて乾いた布でそろばんの汚れをふき取りましょう。常にきちんとしたお手入れを続ければ、長く使うことができます。
雲州そろばんの見学・体験ができる場所
雲州そろばん伝統産業会館
所在地 | 島根県仁多郡奥出雲町横田992-2 |
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電話番号 | 0854-52-0369 |
定休日 | 月曜日(月曜日が祝日の場合は翌日が休み)、12月28日~1月4日 |
営業時間 | 10:00~17:00(最終の入館は16:30まで) |
HP | https://www.kankou-shimane.com/destination/21069 |
備考 | 雲州そろばんに関する資料や名工の作品、製作道具などを展示しています。 |
そろばんと工芸の館
所在地 | 島根県仁多郡奥出雲町下横田76番地5 |
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電話番号 | 0854-52-0839 |
定休日 | 土日祝、年末年始 |
営業時間 | 8:30~17:30 |
HP | https://unsyusoroban.com/ |
備考 | ミニそろばん作り体験ができます。また、1日2名限定で、雲州そろばん作り体験ができます。どちらも予約が必要です。 |