輪島塗とは
輪島塗(わじまぬり)は、石川県輪島市で生産される伝統的な漆器です。お盆や茶器、重箱など、日常生活で使うさまざまな製品が作られています。
その魅力は、丁寧に塗り重ねられた漆と、蒔絵(まきえ)や沈金(ちんきん)といった加飾(かしょく)の美しさ。20以上の工程を経て手作業で作られており、高品質な堅地(かたじ)漆器としても有名です。
輪島塗の歴史と独自の販売方法
輪島塗の起源には、さまざまな説があります。約1000年前に大陸から伝わったという説、1400年代に根来寺(ねごろじ)の僧が伝えたという説、柳田村の合鹿碗(ごうろくわん)が原型という説などです。いまだに明確な起源はわかっていませんが、少なくとも室町時代には、現在の輪島塗に近い製品が存在していました。
室町時代の輪島塗は、輪島から穴水(あなみず)にかけての大屋荘(おおやのしょう)地域から発掘されたもの。木地(きじ)の上に地の粉(じのこ)を塗り重ねる独特の手法が、当時の製品にも用いられており、現在の輪島塗のルーツと考えられているのです。
輪島市内の重蔵(じゅうぞう)神社にも、輪島塗が存在していたことを示すものがあります。1476年の棟札(むなふだ)に書かれた塗師(ぬし)の名前と、建立時から現存する「重蔵権現本殿の朱塗扉(じゅうぞうごんげんほんでんのしゅぬりとびら)」です。それらが残っていることから、当時すでに輪島塗の技術があったことがわかります。
美しい輪島塗が全国で有名になったのは、江戸時代のことです。室町時代から生産され続けていた輪島塗は製造技術が洗練され、1630年頃には、より現在の製品に近いものへと進化します。1700年代には工程もほぼ同じになり、高品質な製品が多く作られるようになると、知名度は徐々に上がっていきました。
輪島塗が広く知られるようになった理由には、販売方法の工夫もあります。当時の塗師屋には、問屋を通さずに直接販売する手法が定着していました。その中で、「頼母子講(たのもしこう)」という販売方法も行われており、輪島塗が購入しやすくなっていたのです。
頼母子講は、行商先で作った「椀講(わんこう)」という顧客グループの中で、それぞれ10分の1の金額を出資してもらい、抽選で毎年1人に納品するという方法。この仕組みにより、多くの人が手軽に輪島塗を入手できるようになると、販路が拡大していきます。需要の増加を受け、職人たちも活発に生産を行いました。
明治維新後は漆器の需要が減り、京都や江戸の漆器は生産量が低下。しかし、江戸時代から独自の販売ルートをもっていた輪島塗は、大きな影響を受けずに済みました。さらに、尾張から優れた職人が移住してきたことで、蒔絵の技術が発達。ほかの産地が苦戦する中、輪島塗は独自の進化を続けていきます。
明治末期から大正にかけては、より幅広い製品が登場。それまでの輪島塗は家具が中心でしたが、料亭や旅館からの需要が増え、業務用の製品や、豪華な装飾を施した製品が作られるようになりました。
昭和になると、輪島塗の評価はさらに高まります。1975年、国から伝統的工芸品に指定されて話題になると、より多くの人が輪島塗の魅力を知ることになりました。1977年には、重要無形文化財にも認定。日常生活の中で重宝されてきた輪島塗は、芸術品としても注目されるようになりました。
美しさと丈夫さで注目される輪島塗の特徴
輪島塗の特徴は、芸術性の高い繊細な加飾。漆の模様に金粉をつける「蒔絵」、模様を鑿(のみ)で彫りこむ「沈金」、鏡のような艶を出す「呂色(ろいろ)」などが代表的な技法です。優れた加飾が施された製品は、優美な見た目が多くの人から愛されています。
また、多くの工程を重ねて丁寧に作られているため、長持ちしやすいことも特徴のひとつ。完成までの総手数は100回以上にも及ぶことがあり、丈夫な輪島塗が数多く生み出されてきました。
高い耐久性の秘密は、地縁(じぶち)と呼ばれる手法にもあります。地縁は、桧皮箆(ひかわべら)という道具で、下地が剥がれやすそうな部分に生漆(きうるし)を塗る作業です。破損しやすい部分に麻布を貼り付ける布着せに加えて、この地縁もしっかりと行うことで、堅牢度をより高めています。
たとえ壊れても、輪島塗は修理して使うことが可能。傷んだ部分をきれいに修復することで、また新品のような美しさを取り戻すことができるのです。そのため、長期間愛用できる漆器として人気を集めており、一生ものとして購入する人も多くいます。
輪島塗の現在とお手入れのコツ
現在の輪島塗は、日常生活に寄り添った伝統的な製品以外にも、新しい発想を用いた新商品が多く開発されています。輪島の漆を使ったアクセサリーは、輪島塗をより身近に感じられる製品として、新しいファンを増やしました。ニスの代わりに漆を使った輪島塗のバイオリンも、多くの注目を集めた魅力的な製品です。ほかにも、時代に合わせたさまざまなアイテムが作られています。
伝統的な輪島塗を長く楽しむためには、しっかりと手入れを行うようにしましょう。軽い汚れは、水で薄めた食器用洗剤を使い、スポンジで優しく洗い落とします。金属のたわしや研磨剤入りの洗剤は傷の原因になるので、注意してください。傷を防ぐためには、フォークや角張ったガラス食器と分けて洗うことも大切です。
食器洗浄機で洗う場合は、乾燥機能を使わないようにしましょう。熱風により、木地や漆が劣化してしまいます。洗ったあとは、布巾で水分を拭き取るか、自然乾燥を行ってください。艶と光沢を増すためには、毎回丁寧に拭く方法がおすすめです。
輪島塗の見学・体験ができる場所
石川県輪島漆芸美術館
所在地 | 石川県輪島市水守町四十苅11 |
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電話番号 | 0768-22-9788 |
定休日 | 年末年始、展示替え等による休館日(HPを確認) |
営業時間 | 9:00~17:00(入館は16:30まで) |
HP | https://www.city.wajima.ishikawa.jp/art/home.html |
備考 | 輪島塗の展示、手作り体験 |
塩安漆器工房
所在地 | 石川県輪島市小伊勢町日隅20 |
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電話番号 | 0768-22-1166 |
定休日 | 無休(年末年始および毎週土、日曜日は見学休み) |
営業時間 | 8:30~17:30 |
HP | http://www.shioyasu.com/tour/index.html |
備考 | 工房見学 |