山鹿灯篭とは
山鹿灯籠(やまがとうろう)は室町時代から600年以上にわたって、熊本県山鹿市でつくられている伝統工芸品です。手すきの和紙と少量の糊だけをつかった高度な技術から生まれる灯籠は、うつくしく繊細な芸術品です。もっとも有名なのは、夏におこなわれる「山鹿灯籠まつり」で、浴衣姿の女性たちが頭に金銀の灯籠をつけて、優美に舞い踊ります。山鹿灯籠は2013年に経済産業大臣より国の伝統的工芸品に指定されました。
宿場町の独特な文化から発展した山鹿灯籠の歴史
山鹿灯籠の起源は、弥生時代にさかのぼります。第12代景行天皇が九州・筑紫地方を巡行していた際、熊本県の菊池川一帯に深い霧が立ちこめて、進路を阻まれることに。そこで山鹿の里人が松明(たいまつ)をかかげて道を照らし、天皇一行は大宮神社まで無事にたどり着くことができました。それ以来、山鹿の人々は大宮神社に景行天皇を祀り、毎年かならず松明を奉納するようになったのです。室町時代には松明が紙灯籠に替わり、火祭りがおこなわれるようになりました。
山鹿灯籠には起源となる説がもうひとつあります。九州でも有数の温泉地である山鹿は、室町時代1473年に突然、温泉が枯れてしまいました。そこで金剛乗寺の住職・宥明法印(ゆうめいほういん)が薬師堂を建立、祈とうをして見事に温泉が復活。山鹿の人々は宥明法印が亡くなった際、感謝の気持ちから数百の紙灯籠を供えました。これが「山鹿灯籠まつり」のきっかけともいわれています。
熊本は和紙や木工など手工芸品の原材料の産地でもあります。なかでも和紙づくりは、1592年より始まった朝鮮の役で、豊臣秀吉に随行していた加藤清正が、紙すきの職人を連れ帰ったことから伝播しました。豊富な原材料が山鹿灯籠の発展を後押ししたともいえます。
江戸時代には豊前街道(ぶぜんかいどう)の宿場町として栄えた山鹿。戦国時代に途絶えていた山鹿灯籠まつりも復活し、紙細工の技術はより一層上がりました。1674年に灯籠見物をしたとの史料が残されていることから、その頃にはすでに山鹿灯籠が名物になっていたことがうかがえます。灯籠の最盛期は1800年代で、多くの住民が灯籠づくりや祭りに携わっていました。商家の旦那衆がこぞって技を競い合うなかで、灯籠づくりの技術が向上していきました。
1955年には「山鹿灯籠おどり」が誕生します。現在は毎年8月15日~17日にかけて「山鹿灯籠まつり」がおこなわれ、奉納灯籠おどりや千人灯籠おどりが奉納されます。
秘伝の技を今に継ぐ山鹿灯籠の特徴
山鹿灯籠は木や金具が一切使用されず、手すき和紙と少量の糊だけでつくられているのが大きな特徴です。代表的な形の金灯籠をはじめ寝殿造りや座敷造り、城造りなど、さまざまな様式が存在していて、趣向をこらした芸術的なデザインが多くみられます。サイズをただ小さくしただけではなく、縮尺に独自の寸法を加えることで、まるで本物をみているかのような迫力が感じられます。
山鹿灯籠の制作は、灯籠師と呼ばれる職人がおこないます。灯籠師には熟練の技が必要であり、一人前になるためには10年以上の期間を要します。もともと山鹿灯籠は商家のお家芸であり、技術はすべて師弟相伝、門外不出となっていました。しかし後継者不足の問題などからそのすぐれた技法が消滅してしまうことを危惧して、昭和初期の灯籠師・松本清記が技術を集約して、広く弟子たちに伝授しました。その弟子たちにより代々、秘伝の技が守られています。
代表的な金灯籠の制作工程は、和紙の裏打ちから始まります。使用するのは手すき和紙のみで、金色や銀色の紙を選別し、和紙と貼り合わせる「裏打ち」の作業をおこないます。こうすることで強度や厚みが出て扱いやすくなります。
つぎに「歩紙(ぶがみ)」と呼ばれる部位ごとの型紙をつかって、灯籠の紙に針で折り線や切り線のしるし付けを。さらに各部分を切り離し、糊をつけていきます。山鹿灯籠の最大の特徴はのりしろをつくらずに貼り合わせる技術です。
こうして約200個の部位を組み立てて完成。各部位はすべて空洞でできており、軽量になるように計算されています。制作日数は約3日で、すこしでも寸法に狂いがあるとできあがらないため、相当な集中力が必要です。
山鹿灯籠の現代とお手入れ方法
山鹿灯籠は現在も、灯籠師が山鹿灯籠振興会で協力しあいながら、後継者の育成や技術の伝統を守っています。幻想的でうつくしい山鹿灯籠まつりは、毎年8月15日~17日にかけておこなわれています。さらに紙灯籠づくりの技術を活かしたインテリア用品など、新しい試みにも挑戦しています。
山鹿灯籠は紙製のため、水気や湿度、ほこりに注意して、なるべく乾燥している場所でガラスケースなどに入れて保管してください。また、日焼けしないように直射日光があたる場所もさけたほうがよいでしょう。
山鹿灯篭の見学・体験ができる場所
山鹿灯籠民芸館
所在地 | 熊本県山鹿市山鹿1606番地2 |
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電話番号 | 0968-43-1152 |
定休日 | 年末年始12/29~1/1 |
営業時間 | 9:00~18:00(17:30受付終了) |
HP | https://yamaga.site/?page_id=1550 |
備考 | 入館料300円、体験1,800円~、展示・販売あり |
山鹿灯籠の店 なかしま
所在地 | 熊本県山鹿市山鹿1588 |
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電話番号 | 0968-43-2659 |
定休日 | 毎週水曜日・年末年始 |
営業時間 | 8:30~18:00 |
HP | https://www.yamagatourou.jp/exhibitions/ |
備考 | 展示・販売あり |