越前漆器とは
越前漆器とは、福井県鯖江市を中心に作られている漆器です。深みのある光沢が美しく、祝祭事に贈ることが多い器。華やかな装飾も魅力的で高価な印象が強い漆器ですが、製造の機械化が進み、比較的安価で手に取りやすい越前漆器も増えてきています。
実は越前漆器は丈夫で割れにくいにもかかわらず、使用感は軽く、口当たりが良い漆器。汁物などのあたたかい料理は冷めにくいこともあり、日々の生活の中で使いやすい点も、越前漆器の普及に一役買っているのでしょう。
越前漆器の歴史と漆師の思いやり
越前漆器のはじまりは、約1500年前の古墳時代末期にまでさかのぼります。第26代継体天皇が皇子だったころ、冠の塗り替えを漆師へ命じました。その漆師は、現在の福井県錆江市にあたる片山集落の者であり、丁寧に塗り替えたといいます。
その上、冠を返すときには黒塗りの椀も合わせて献上。継体天皇は椀の美しさに見惚れると共に、漆師の心遣いにいたく感動しました。そこで、漆器作りを強く推し進めることになり、越前漆器がはじまるきっかけとなったのです。
また、当時の越前には、漆の木から漆液を採集する職人「漆かき」が多く存在しました。良質な漆を調達しやすい環境も、越前漆器の発展に貢献したといわれています。
室町時代のころになると、越前漆器は仏事で使用されることが増えていきました。江戸時代末期には京都から蒔絵(まきえ)技術を、輪島からは金箔や銀箔などを定着させる沈金(ちんきん)技術を学び、装飾技術が大きく成長します。
明治時代中期には、華やかな装飾だけでなく、多様な形が人々を魅了。それまで椀の形が主流だったところを、重箱やお盆、花器などを製造し、さまざまな生活場面に対応した漆器を作り始めました。その後、量販体制も整い、全国に越前漆器の魅力が広がっていったのです。
「一生もの」を叶える越前漆器の特徴
塗りと装飾技術のリレー
越前漆器が持つ鮮やかで落ち着いた光沢は、漆師の丁寧でなめらかな塗りが生み出しています。作業は分業制であり、いわば「職人のリレー」が越前漆器の品質を高く保ち続けているのです。
特に、上塗りという仕上げは一発勝負であり、プレッシャーが非常に大きい作業。さらに、漆の塗り具合は温度や湿度に左右されるため、均一に美しく塗り上げるには熟練した腕が必要です。まさに、リレーのバトンを装飾の職人へ届け切れるかどうかが、越前漆器の完成度に大きく影響するといえるでしょう。
次にバトンを受け取った装飾の職人は、乾燥させた漆器に蒔絵や沈金を施していきます。特に人気が高い模様は「春秋(しゅんじゅう)柄」。桜や紅葉をあしらい、季節問わず利用できるデザインです。その美しさの魅力は日本だけにとどまらず、世界にも愛好家が存在するほどになっています。
現代では、機械やロボットを活用して業務用漆器を製造する体制も整い、比較的安価な越前漆器を入手することが可能です。装飾の種類が豊富で、中にはモダンな柄もあり、現代人の生活様式に馴染みやすい越前漆器も生まれています。
このように、越前漆器は伝統的な塗りや装飾を守りながらも、時代に合わせて変化することで、より多くの人々に漆器の美しさを伝え続けているのです。
漆器は末代まで
越前漆器に塗られる漆は、もともと接着剤や補強材として使用されることが多かった素材。その特性は、漆器の頑丈さに寄与するだけでなく、修理の際にも活躍します。
越前漆器が欠けたり割れたりしたときには、その部分を漆でつなぎ合わせ、接着。継ぎ目に金粉をつける「金継ぎ」という手法により、越前漆器は新たなデザインの漆器として生まれ変わるのです。
つまり、越前漆器は破損しても、修理によって新品と同等にまで生まれ変わることができます。むしろ、修理によって、それまでとはまた違った新たな表情さえ楽しむことができるといえるでしょう。
このように、越前漆器は末代まで長く楽しむことができる漆器であり、「一生もの」の価値を存分に味わうことができるのです。
越前漆器の現代での使われ方とお手入れ方法
主に、お椀として作られることが多かった越前漆器。しかし、時代を経るごとに重箱や花器など、さまざまな形の漆器が生まれてきました。
現代では、同じお椀型でも子供用に作られた小ぶりなものであったり、飲み物用のタンブラーや酒器が作られたりしています。中には、絵画のように壁に飾るパネルまで販売している製造所も少なくありません。伝統的な模様からモダン風まで、多種多様なデザインが取り揃えられ、人々の生活に彩りを添えています。
日々のお手入れは簡単。お椀など日常的に使用する越前漆器は、スポンジと中性洗剤で優しく洗いましょう。洗浄後は、柔らかい布巾などで拭き取ることで、より長く越前漆器の艶を楽しむことができます。
花器や酒器など、使用回数が比較的少ない越前漆器の場合は、柔らかい布で定期的に空拭きすることをおすすめします。指紋がついて気になる場合は、軽く息を吹きかけてから、優しくなでるように拭いてみてください。
越前漆器が欠けたり、割れたり、経年劣化で漆の艶が薄くなったりした場合は、購入元へ修理を依頼しましょう。ただし、漆を塗り直した後の乾燥に2~3ヶ月ほどがかかる場合が多いです。使いたいときまでに修理が完了するよう、修理依頼をするときにはスケジュールに余裕をもっておくことをおすすめします。
越前漆器の見学・体験ができる場所
うるしの里会館
所在地 | 福井県鯖江市西袋町40-1-2 |
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電話番号 | 0778-65-2727 |
定休日 | 毎月第4火曜日(休館日が祝日の場合は営業、翌日休館)、年末年始(12月29日~1月3日) |
営業時間 | 9:00~17:00 |
HP | https://www.echizen.or.jp/urushinosatokaikan |
備考 | 絵付け・沈金・拭き漆の体験あり(予約制) |
土直漆器
所在地 | 福井県鯖江市片山町6-1-2 |
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電話番号 | 0778-65-0509 |
定休日 | 日曜日、第2土曜日、夏季、年末休暇 |
営業時間 | 9:00~18:00 |
HP | http://www.tsuchinao.com/ |
備考 | 購入のみ |