越前打刃物とは
越前打刃物(えちぜんうちはもの)とは、福井県越前市で生産されている伝統的な刃物です。
打刃物と呼ばれる日本古来の伝統的な鍛冶技法で生産された刃物で、1979年に国の伝統的工芸品に指定されました。
非常に古くから伝統が続いており、鎌を中心として生産されている越前打刃物は、日本全国で愛用されている優れた刃物です。
越前打刃物の歴史と、伝説的刀匠・千代鶴国安
越前打刃物の歴史は南北朝時代に始まったと伝えられています。
京都から近く、古くから都の文化の影響を受けやすかった越前は、府中(現在の越前市)を中心に栄えていました。
京都で著名な刀匠だった千代鶴国安は、刀作りにふさわしい水のある土地を探していたところ、越前に着目し1337年に府中に移住してきました。
社交的な人柄であった国安は府中の人々ともすぐに打ち解け、農民たちとも交流を持ち、彼らに農作業用の鎌の作り方を伝授したことが越前打刃物の始まりです。
国安が鍛冶を行う際に使用した水をくんだといわれる「千代鶴の池」が、国安をまつる「千代鶴神社」の境内に残されています。
国安は刀匠でしたが戦乱を望んでおらず、刀を打つたびに、戦いに使用されないようにと祈って千代鶴池に狛犬を彫って沈めたと伝わっています。
そのような人格者の国安の心意気は、越前打刃物として職人たちに受け継がれ、鎌作りを中心に越前府中の産業として確かに根付いていきました。
江戸時代に入ると越前打刃物は福井藩の保護を受け、同じ頃に越前漆器の材料となる漆を採る職人が全国を巡っていたことも影響して、「越前鎌」も共に全国で販売されることに。
こうして越前打刃物は一大ブランドとなり、江戸時代中期には越前鎌が全国一の生産量を誇るまでになりました。
明治以降は製造機械と科学的な技術の導入により生産性が増加。
刃物としては日本で最初に国の伝統的工芸品に指定されました。
独特な工法で作られる越前打刃物の特徴
越前打刃物は、ほかの伝統的な刃物と同様に日本古来の鍛冶工法を使用しているほか、独特な工法も用いられていることが特徴です。
特に包丁の生産で行われる「二枚重ね」や、鎌の生産で行われる「廻し鋼着け」は、越前打刃物ならではの象徴的な工法です。
二枚重ねは包丁を製造するときの工法で、熱した刃を二枚重ねて叩き、時々裏返して両側を均一に叩くことにより刃が薄く広がり、硬さと粘り強さが鍛えられます。
また、二枚重ねて叩くことにより温度が下がりにくいため、刃の材質にムラができにくいメリットもあります。
廻し鋼着けは鎌を製造するときの工法で、鎌の刃先に使用する鋼を菱形につぶしていき、鋼を薄く均一に伸ばしていく技法で、完成すると研ぎやすい刃になります。
また、廻し鋼着けによって鋭い切れ味と高い耐久性も実現し、刃が軽くて薄いのに長く使用できる鎌が作られます。
越前打刃物は鋼と地金から作られており、シンプルな組み合わせではありますが、刃の純度を高め均一な組織にするために多くの工程を必要としています。
日本古来の鍛造技術を駆使しながら、ベルトハンマーという鍛練用の機械を使用することも越前打刃物の特徴です。
越前打刃物の現代での使われ方とお手入れ方法
越前打刃物は元々は鎌の生産から始まり、やがて鉈(なた)などの林業の道具へも発展。
現代では包丁などの生活用品や植木鋏(うえきばさみ)などの日用品も生産されています。
特に越前鎌と呼ばれる鎌は全国的にも知名度が高く、越前打刃物を代表する生産品。
農業や家庭園芸、林業など多くの人に愛用されています。
農業・林業の用途によって、形状が異なるさまざまな鎌があるのが特徴です。
また、海産物が名産である越前らしく、ワカメの収穫に使用する専用の鎌も生産されています。
鎌に次いで多く生産されているのが包丁で、越前打刃物独自の工法で生産された包丁は人気が高く、プロの料理人にも高く評価されています。
そのほかにも越前打刃物にはたくさんの種類の刃物があります。
その一つとして、漆を取るための鉈が広く使用されており、古くからの越前打刃物の名産品です。
比較的新しい刃物として越前打刃物の中でも人気が上昇しているのが植木鋏で、多くの植木職人や家庭園芸で用いられています。
越前打刃物は耐久性が高い刃物ですが、適切なお手入れをすることによって切れ味を保ち、長く使用することができます。
お手入れ方法は、使用後に中性洗剤で汚れを落とし、すすいだ後に乾いた布で水分を拭き取ります。
定期的に刃を研ぐことによって切れ味を保つことができますが、そのタイミングは若干切れ味が落ちたときに軽く研ぐことが理想的です。
長期間使用しない場合は椿油などの刃物用油を塗り、鞘に収納するか新聞紙などで包んでおきましょう。
そうすることで空気中の水分と酸素に触れることを避け、錆びを防止することができます。
越前打刃物の見学・体験ができる場所
越前打刃物会館
所在地 | 福井県越前市池ノ上町49-1-3 |
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電話番号 | 0778-24-1200 |
定休日 | 年末年始12月29日~1月3日(工場見学は日・祝日休業) |
営業時間 | 平日8:30~17:00 日祝9:30~16:00 |
HP | https://www.echizenuchihamono.com/index.php |
備考 | 入場料は無料です。 【見学内容】 包丁・鎌の製造工程ビデオ、工場見学、展示・即売 |
刃物の里
所在地 | 福井県越前市池ノ上町48-6-1 |
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電話番号 | 0778-22-1241 |
定休日 | 毎週火曜日(年末年始12月29日~1月3日) |
営業時間 | 9:00〜17:00 |
HP | https://www.hamononosato.com/ |
備考 | 入場料は無料です。 不定期で刃物の製作実演・研ぎ教室・企画展などを行っています。 |